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アキレギア3-2

「アキレギア様?お目覚めですか?」


 ガチンガチン、と部屋のドアの向こう側でドアノッカーの音が鳴る。アキレギアとの話し声が聞こえてしまったかな。

 脳内の彼女との会話は、思い浮かべるだけではどうにも上手く伝わらないため肉声が必要だった。思考や記憶が混ざって情報量が増え、伝えたい事が上手く伝わらないせいだ。テレパシーなんてこれまで一度もした事無いからしょうがない。


「うん、起きた。入っていいよ」


 私は自分の言葉でそれに答えた。アキレギアの言葉遣いを真似する気は最初から無かった。

 いつまでそれが続くのかは分からないけれど、これからはこの世界ではアキレギアとは私の事を指す名前になる。ちょっと言葉は悪いけど、私にしか存在を知覚出来ない『亡霊』となったアキレギアを装っても意味がない。

 悪魔の使う魔法の力なんて私にはさっぱり分からないけれど、アキレギアが押し込められている箱は私にも彼女にもどうする事も出来ないような代物だという事だけは判る(・・)


 失礼します、と部屋に入って来た女性は、姿見の前に立つ私をちょっと不審そうな目で見る。

 頭の中でクロエ、と呟くアキレギアの声がした。動揺しているようなその声を覚えておく。


「おはようございます、アキレギア様。朝食をお持ちしました」

「ありがとう。食事の前に、ちょっと髪を纏めて貰っても良いかな」

「──畏まりました」


 どうやらアキレギアの乳母らしいその女性は、食事をテーブルの上に置くと私の後ろに立った。そうして私の髪を透きながら、確かめるように私の事を観察する彼女の様子を鏡越しにそっと窺う。

 どれだけ念入りに確認したところで私がアキレギアの偽物だという証拠は出て来ない。まあ、かと言って偽物じゃないって訳でもないんだけど、身体はだけはちゃんと本物の筈だ。


 ……悪魔が何かしていなければ、だけどね。


「どのように結いますか?高く?」


 鏡に写して見せるように、女は私の髪を一度持ち上げた。その瞬間女の表情が一瞬怪訝そうに強張ったのを、私は見逃さなかった。


「食事の邪魔にならないように簡単に括るだけでいいよ。時間は掛けないで欲しいな、寝起きだけれど結構空腹だから」

「では、一つに編み下げておきましょう」


 

魔術師と代理王の下敷きになったもの。下敷きになったので供養上げ。

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