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蛮族戦記 エルドリア伝

「火を付けろ!燃やせ!売れない奴は皆殺しにしろ!」


 手に持った松明でその辺の家の柱に火を移しながら怒鳴り声と笑いの入り交じる蛮声を張り上げた。

 あークッソ楽しい!やっとこの目障りなベルガ人の村を焼き払えるぜ!

 目の付くところに火を移し終えたら、後は松明をその辺の家の中へと投げ込んで、馬の脇腹を蹴って好き放題に駆け回らせる。もたもた逃げるベルガのグス共を何匹か轢き潰し、或いは引っ掴んで引き摺り回した。


 村中が蟻の巣に棒をブチ込んだような大混乱だった。悲鳴、怒号、咽び泣く声が飛び交い、パチパチと炎の爆ぜる音が暗い夜を景気よく彩っている。

 背後は血と炎で真っ赤に染まり、まるで宝玉の輝きのように美しく鮮烈な光景と化している。振り向いてじっくりと眺めたい所だが、それをすると焼け死んでしまうのが残念な所だ。

 いつか死ぬときは炎の中で首を切って死にたいと思う程、俺はこの美しい赤色に魅せられている。

 嗚呼、考えるだけでゾクゾクするね。


「エルドリア!」


 後ろからよく知った声が聞こえてきて、道の右側に寄る。空いた所に馬を走らせて来たその友人、ガレアスのニヤニヤ笑いが炎に照らされて見えた。

 きっと俺も似たような表情をしているに違いないな。


「そろそろ引き揚げ時だろう。雨が降りそうだ」


「んん、もうかよ。んじゃあ仕方ねぇな、奴隷引き摺って戻るか」


 熱気と狂気に浮かされる楽しい楽しい略奪の時間はこれにて終了という事らしい。火の手の届かない所を目指して馬を走らせながら、彼方此方に散っていた奴等をちゃっちゃと纏まらせた。


 丘を駆け上がった所で速度を緩め、やっと後ろを振り返る。眼下ではまだ村が燃え盛っている。

 夜の闇の中に火の粉が舞い上がり、酷く綺麗で幻想的で、そして官能的でさえある眺めだった。周囲に視線を向ければ、見るだけで充足感に満たされる程の略奪品の数々。攫ってきたベルガ人も一目では数が分からない程多くて、にんまりと口角が上がる。


「よし、帰るぜお前ら!早く次の『お楽しみ』にありつきてぇだろ?」


「当たり前だぜ、エルドリア!」


「ああ、ゼルベス。今日は子供の収穫が多いもんな!」


 同意を示した禿頭のゼルベスにそう笑い掛ければ、そこに居る仲間達がどっと沸いた。こいつの幼児趣味(パイド)はきっと死んでも治らない。


「三人まで好きにさせてやるよ。俺は今日、機嫌がいいからな」


「そりゃ誰もがそうだろ、今夜はな」


「違いねぇ!ガレアスの言う通りだ」


 誰も彼もが上機嫌で手を叩き、剣を鳴らしながら笑う。そうして、一人、また一人と俺達の村へと馬の首を向けて進み出した。



◇◆◇



 大陸(アルヴェガ)の南東、肥沃な平地に住むベルガ人が農耕と共に共同体を形成し、国家としての機能を持つようになると、ベルガ人と周辺の民族の関係は一気に悪化するようになった。

 ベルガ人は穀物栽培によって困窮を脱し、膨れ上がった人口をその力の核として、また周囲の蛮族から自らを防衛する為に文明を急速に発達させていった。


 ベルガ歴201年、ベルガはその軍事力を背景に、周囲の民族の住む地を次々と征服し、多民族を支配する一つの帝国となりつつあった。


 対して蛮地に住む蛮族達も、その抵抗としてベルガの村や人々を襲い、家族単位よりも広い緩やかな共同体を形成するようになっていく。

 蛮族達はベルガの村を燃やし、財産や食料を略奪し、ベルガの人々を奴隷として捕えるようになっていった。



◇◆◇

蛮族蛮族。

蛮族が暴れまわって結局制圧される話を書こうと思ったが、ここまで書くだけでそれなりに満足してしまってお蔵入りした。

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