アンダーカース2
「それで、俺は騎士になれるのか?」
父親の死に際を脳裏から振り払い、ギリアムは尋ねた。父親の行動に起因するその後の村での生活の事を思い出したい気分ではなかった。
「ああ、勿論。剣も弓も文句無しの腕だ。死体と足枷が増えるのは御免だが、優秀な戦士は、おっと、騎士は、歓迎してるぜ。年中人手不足だからな」
特に最近の不穏な噂の事を思えば、力のある騎士が一人でも増える事は歓迎すべき事であろう。
そう答えるグレイの言葉には、しかしなぜか投げ遣りな揶揄の色が混じっている。ギリアムが言葉の含みを気にした事に気付いたのか、グレイはすぐに話題を変えた。
「とにかく、まあ、俺はグレイだ。で、お前は?」
「ギリアムだ」
ギリアムは名を告げながら、自分がまだフードを被ったままである事に気が付いて、フードを取り去った。
視界が僅かに広く明るさを増した。とはいえ、この鬱蒼とした霧の森の中では殆ど変わりはしないが──その視界に改めて映ったグレイがぎょっと目を瞠る。
「おいおい、マジか」
周囲の騎士達も遅れて気付き、ざわめいた。
「ギリアム、お前、歳はいくつだ」
「今年で十七になる」
狩りをしながらこの騎士団の野営地を目指してきた数ヶ月の旅の間、ギリアムが殆どフードを取らなかった理由がこれだった。十七といえば大人の扱いを受ける歳ではあるが、一端の人間として独りで行動するにはまだ若すぎる。
うんざりした様子のギリアムに、グレイは少しばかりまごついた。
「それは……いや、お前、親父はもう死んでいたな。なら、そうか……しかし……」
「おいグレイ、ギリアムを騎士団に入れると決めたんだろ。なら騎士団長に会わせたほうがいいんじゃないのか」
腕組みをして迷うような素振りを見せたグレイに、それまで黙って二人のやり取りを見ていた、ギリアムを先導した男が近づいて来て口を挟む。
「しかしな、ラネン。たったの十七歳だぞ」
「立派な大人さ。それに、父親が魔物狩りだったんだ。こいつだってちゃんと分かってる筈だ。その上で、自分の意思で決めて此処へ来たんだろう?」
ラネンはそう言いながら、ギリアムの肩を叩く。期待するような視線を受け止めて、ギリアムはしっかと頷いた。
「そうでなければ、何ヶ月も掛けて此処へ来たりはしない。それにあんたにはもう言ったと思うが、俺は村では爪弾き者だった。戻る気は無い。もし騎士団に入団できないというなら、入れる年齢になるまでそのへんで魔物狩りでもするからな」
「バカな事を言うな。ここはもう『黒い森』の縁だぞ。二月も三月も掛かるような遠方と違って、ここで出る魔物は大きさも力も桁違いに強いんだ」
ガリガリと頭を掻き毟りながら、グレイは眉間の皺を深くする。
ギリアムはあまりにも命知らずだった。これでもしも父親が魔物狩りでなく普通の狩人だったとでもいうのなら、グレイは前言を撤回してでもギリアムの入団を拒否しただろう。
黒の森の魔物と戦う魔物討伐騎士団はあまりにも死に近い。そうと分かっていて、未来ある若者を引き込む事は、グレイには気が引ける。
だが多人数の騎士の前であれだけの実力を示したギリアムの入団はもう決まったも同然だった。グレイ自身、彼の技量には「問題ない」と既に口に出してしまってもいる。
「グレイ、あんたには実力不足を理由に入団を跳ね除ける事は出来ても、年齢を理由に入団を跳ね除ける事は出来ないだろ。そんな権限は無い筈だ」
もしギリアムの年齢が問題になるとすれば、グレイではなくこれから会いに行く騎士団長がギリアムを突っぱねる。ギリアムの若さを理由にぐずるグレイに、さっさと話を進めようとラネンはその事実を突き付けた。
「分かってる」
グレイはそう言いながらもギリアムを見た。しかし、この年若く命知らずな青年はきっぱりとした表情でグレイを見据えて返した。
……ああ、分かってるとも。グレイは小さく口の中でそう繰り返す。
「ラネン、案内ご苦労だった。騎士団長の元へは、俺が連れて行こう」
苦しそうにグレイは唸り、恨めしげな目をラネンへと向けた。
ラネンは意にも介さず、ピュウと口笛を吹いてギリアムの肩を再度叩くと、グレイに代わって修練場の監督をしにその場を離れていった。
翻訳されたダークファンタジーみたいな雰囲気はどうやったら出るのかなーと思いながら書いてみた。死者蘇生を検討している。




