異世界神2
俺は何人かの天使たちに声を掛けてから、せっかくセアの世界へと降り立った。
「俺の世界じゃないけど、地上は久しぶりだな。自分の世界だと降臨するには火とか動物とかにならないといけないから、この姿で地上を歩くのは初めてだったかな?」
ふかふかとした土の感触を少しだけ確かめてから、俺は目的の転生人の元へ向かう。
俺の世界を七百年くらい巻き戻したような文明レベルの、寂れた村にそいつは住んでいた。
神の目である千里眼で村を見たところ、セアの世界の大半の人間はフロ無し、トイレ無しの生活。
転生前には毎日フロに入って当然のように水洗トイレを使っていたあの人間にはとても耐えられそうにない。
ではなぜこんなド田舎な村でそいつが生活できているかというと、セアの与えた加護、ランクEXの魔動アイテム作成スキルのおかけだ。
「さっぱりしたな! やっぱり、サイラスの作ってくれた大衆浴場ってのは最高だな!」
「ああ! しかも、風呂から上がった後にぐびっといく冷えたミルクがたまらねえ! あれが銅貨一枚で良いなんて、信じられねえよな!」
「知ってるか? あれ、大衆浴場や道の掃除に参加すると、無料で貰うこともできるんだぜ!」
「マジかよ!?」
どうやらサイラスという名前になった転生者は、加護を活かして村に風呂を作ったようだ。
他にも少し意識を傾ければ、村中でサイラスが作ったトイレや、料理用のコンロにオーブン、牛乳を殺菌保存するタンクなどの話があちこちでされていた。
せっかくの加護だというのに、村から動かせないものばかりを作る事で、旅人もろくに来ないこの村から自分の名前が広まらないようにしているらしい。
しかもサイラスは作った魔動アイテムの点検整備で毎日のルーチンワークを組んでいるらしく、村人に感謝されつつも慎ましく静かに暮らしている。
なんてつまらないやつなんだ、サイラス!!
セアの計画のこともあるが、その前に俺が気に食わない。
せっかく異世界転生に女神の加護なんてお膳立てをしてやっているというのに、そんな地味な生活をしてるなんて!
しかし流石は元俺の世界の住人。
静かに、平穏に暮らしたいという意志は筋金入りだな。
安定したポジションにうまいこと収まりやがって。
まあ神である俺が降臨したからには、今日からサイラスの生活は劇的なものになるんだけどな。
さて、どうやってサイラスの人生を面白おかしく演出するか。
「セアの世界って結構変わってるんだよな〜。何かうまく使えそうなもん無いかな? ……お?」
なんと都合のいい事か。
あたりを見回してた俺の千里眼に、近くの川を流れていく人間がうつる。貴族の少女だ。
ドレスを着ているせいで完全に溺れ死んでいるが……まあ俺の手にかかれば生き返らせるくらい朝飯前なので問題ない。
俺は川辺にテレポートすると、川から少女を引き上げて、さっくりと蘇生させた。
「う……ゴホッゴホッ! ここは……?」
主人公の神様がうまくトリックスター的なポジションに収まってくれなかったのでボツ。




