異世界神は劇的に暮らさせたい 〜加護持ちの連中がみんな静かに暮らした過ぎるので、盛大に引っ掻き回しにいきます〜
はあ、ヒマだ。
ここ二百年くらい、あまり人間が神に奇跡を祈らないせいで、出番がないのだ。
昔は事あるごとに、やれ雨を降らせてくれだとか、戦争で死なないように守ってくれだとか、船旅がうまくいくようにしてくれだとか、ひっきりなしに祈りが届いていた。
しかし今の人間は戦争はほとんどしないわ、日照りで食糧不足になるようなやわな農業やってないわ、船もそうそうてんぷくしないわ。
しかも高度な科学力のせいで俺の存在を信じなくなって、時々事故にあったりして助けを求めてきても信仰心が足りずにその祈りがここまで届かなかったりする。
という訳で、神である俺はものすごいヒマを持て余していた。
せめてものヒマつぶしに人間たちを眺めてたりするが、ここ百年はどこも安定した生活ばかりで見ごたえがない。
もっとなにか面白いことが起こったりしないものか。俺は劇的な出来事が好きなんだ。
なのに、今の人間の暮らしときたら。まるで日常ほのぼの系しか置いてないレンタルビデオ屋だ。いや毎日似たような生活ばかりだからそれより酷いかもしれない。
ヒマすぎる。
天災でも起こして現代文明をちょっと衰退させてみたりしたら、もう少し面白いだろうか。
「エル、エルぅー!! アンタのとこの人間たち、どうなってんのよー!」
そんな事を考えながらダラダラと寝そべって地上の観察をしていると、うちの楽園の門を勝手にブチ開けて上がり込んでくる奴がいた。
隣の世界の女神、セアだ。
二万年くらいの長い付き合いだが、最近ではこいつとの会話くらいしかまともに退屈を紛らわせる手段がない。
顔をあわせたのは三年ぶりくらいか。
神としては、昨日くらいの感覚だ。
「よう、セア。どうしたんだ?」
とりあえず貴重な会話相手なので、適当にその辺の木から果物をもぎ取って渡して歓迎する。
セアは素直に受け取ったが、口をへの字に曲げたまま、「どうしたのじゃないわよー!」と言い出した。
「最近うちの世界の人間が全然発展しないから、文明の進んだエルの世界から何人か転生させてもらってたでしょ?」
「ああ、あれか。加護を与えてそいつらに活躍して貰って、世界を活性化させる計画」
「そうそう、それよ。そういう計画のはずだったのよ。なのに、エルの世界の人間ときたら!」
なにやらセアはものすごく苛立っている。
そのせいで、さっきまで眺めていた人間達が、急な落雷に騒いでいるのが聞こえてきた。
「そんなに怒るなんて、まさか加護の力を使ってセアの世界をめちゃくちゃにしたり、現地の人間を絶滅寸前まで追い込んだりしたのか?」
「違う。その逆よー!」
「えっ?」
「転生させた異世界人たちみんな、静かに暮らしたいとか、平穏に暮らしたいとか言って、何にもしないのよー!!」
なるほど、そういうことか。
今の俺の世界の人間はめちゃくちゃ安定思考なので、異世界でも安全に暮らせるならばそうするのは当然かもしれない。
文明が進んだ世界の知識や加護を利用すれば、社会の表舞台に出てこないで平和に楽に過ごすというのも、身分社会の強い文明が最盛期なセアの世界ではそう難しくないだろう。
「確かにそれじゃ計画が進まないな」
「でしょ? だからエルには、次からはもっと上昇志向の人とか、派手な人生が好きな人を転生させてもらって……」
「でももう転生枠が空いてないだろ」
異世界に突っ込める魂には限度がある。
あんまりやり過ぎると俺の世界もセアの世界もバランスを崩して崩壊の危機となりかねない。
「よし、じゃあヒマだし俺がセアの世界に降臨するわ」
「そうそう、エルみたいな享楽的なやつが……って、はあ!? なんでそうなるのー!?」
なんでって、ヒマだからだ。
どうせ祈りが届かないから、セアの世界に誰かを転生させるくらいしかやること無いし。
「ついでにセアの世界の発展ぶりも見てやるよ。俺先輩だし」
「神様にそんな概念無いしー!!」
そんな訳で、俺は元俺の世界の人間達に、劇的に暮らしをこの手で直々に贈ってやる事になった。




