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悪2

 目眩のするような現実は、坂を転がり落ちてくかのように悪化の一途を辿っていく。


 カーシャナディアの転落の直接の切っ掛けは、宰相である父が宮廷の階段から転がり落ちて事故死した事だった。

 カーシャナディアの父、ロイスフィール公爵はアポリナーリス王子とカーシャナディアの縁談を決めた人物であり、カーシャナディアが侍女として仕えていた王女の後見でもあった。即ち、宮廷におけるカーシャナディアの権力の根拠であった。

 そのロイスフィール公爵の唐突な──そして何らかの意思を疑わざるを得ない状況での天折により、カーシャナディアは全てを失った。


 婚約者であった筈の王子アポリナーリスは貴族ですらない商人の娘──平民を妻として迎えると宣言し、カーシャナディアとの婚約を破棄した。

 無論、教会で神の名のもとに認められた婚約は一方的に破る事など出来ない。カーシャディアは食い下がろうとしたが、それを邪魔したのが実の兄であるアレスターであった。


 アレスターは父の死と共に家督の相続を宣言し、カーシャディアとアポリナーリスの婚約破棄に同意したのだ。

 ……その上、実の兄によるカーシャディアへの裏切りは、これだけに留まらなかった。



「ほら、早くお入り!」


「きゃっ……!」


 酷い枯れ声の中年シスターに背中から突き飛ばされるようにして、カーシャナディアはその古びた修道院へと足を踏み入れた。

 礼拝堂だというのに敷物は擦り切れて無残な姿を晒し、ツンと鼻を刺すような酷い匂いが立ち込めている。呆然と周囲を見回せば、窓という窓には鉄格子が嵌め込まれてさえいるではないか。


「そ、そんな……、これが、修道院ですって……!?」


 思わずそう呟けば、背後のシスターがそうだよ、と酷く耳障りな濁声で返事をする。


「ここは頭のイカれちまった貴族が家族から見放された末に入れられる修道院さぁ。一度入ったら最後、出られるのは神のお膝下へと旅立つ時だけだよ」


 ニヤニヤと底意地の悪い薄笑いを浮かべ、シスターはジロジロとカーシャナディアを眺め回す。

 あまりにも不躾な視線。カーシャナディアはシスターを睨みつけ、不快感を顕にした。


「……なんだい、その目は──」


「お前こそ。先程から一体何ですの、その態度は?たかがシスター如きが身分も弁えず。どのような修道院へ入れられようと、私は身分を無くした訳ではないわ」


 

婚約破棄を書いてみようかとしたやつ。

カーシャナディアはこの後修道院を脱走し、次第に裏社会で名を挙げてくという話にするつもりだったけど、何となくストーリーが思い浮かばなかったのでボツ。

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