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ある自殺者の話

 親は転勤族で、携帯を手に入れたのも世間的に見れば随分遅い方だったから、友人と呼べそうな存在を数えるには片手で事足りるくらい。手紙を出すようなマメさが無いのも交友関係の乏しさの原因だっただろうか。

 趣味も無くて持て余した時間に受験勉強ばかりしていたら、ますますそれ以外のものへの興味や執着心は無くなっていった。だというのに、大学選びを面倒がったせいで就職先の平均生涯年収は600万程度だそうだ。

 飯さえ食えればと思って入った会社だから、仕事内容も特に興味も無いようなもので、かといってそう不真面目な性質でもないから、毎日それなりにきちんと業務を熟していた。

 そうしているうちに両親が死んだ。事故によるもので、随分早い別れだったと思う。金にも執着心は無かったし、恋愛や子供にも興味がないまま独身でいた俺は、まだ社会人に成りたてのくせして所帯を持った弟に親の遺産を全て譲り渡した。


 何がいけなかったのかは知らない。

 けれど、俺には生きる事に対する熱意というものが圧倒的に欠けていたのだと思う。


 ある日の休日ニュースで変わった首つり自殺の方法が流されていたのを見て、はあなるほどと思った。特に死にたいと思っていた訳ではないから、多分衝動的に──いや、言うなれば珍しく好奇心が疼いたという事だろうか──俺はその方法を自分自身に試して、そして、死んだ。

 手順を間違えたせいで、十分ほどもがき苦しんで、死の苦しみというものをこれでもかというほど脳に刻みつけて、なのにその状況から脱する事も出来ないまま、死んだ。


 死ぬ時でさえまだ生きていたいとは欠片も考えなかったから、それで終われば何の問題も無かった筈だ。ちょっと最後にケチはついたが、死んでしまえばそれで終わり、後悔する脳はもう無い……筈だった、のだ。




 苦しさが続いている気がして、朦朧とした意識で俺は滅茶苦茶に暴れまくった。息が出来ない。苦しい。

 まだ俺は死んでないのか?少し気絶していただけで、何らかの理由で首に掛かっていた縄が緩んで、死を免れた?

自殺→異世界で短命のホムンクルスに転生→死への恐怖から自分を生み出した錬金術師を殺してその技術を奪って不老不死に→かといって生きる理由もないまま向上心もなく知らない世界を孤独に這いずり回るという救いの無いネタ。

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