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ヒロイック・ドラクリア

「危ないから、十分に気をつけるのよ、アス!」


 梯子を抑える手の主からそんな言葉を掛けられて、少年は仏頂面を更に不機嫌そうに歪めた。

 区長の屋根の修理の話を俺に持ってきたのは誰だよ、とは声には出さず、屋根へと梯子を登りきってから少年──アスは背後を振り返る。


「分かってるって、ユリア姉さん。つーか俺もう十六歳だぞ。屋根登ってそんな風に言われるって、ガキじゃあるまいし」

「う、だって……アス、どこからどう見ても十歳くらいにしか見えないし!」


 うるせーっての、と屋根の下から返ってきたユリアの声に、アスは顔を顰めた。もう成人年齢だというのに、その辺を走り回っている子供のように見える自分の見た目は勿論根深いコンプレックスとなっている。

 これが世話になっている従姉(ユリア)相手でなければ遠慮無くぶん殴っていた所だ。子供扱いも、一向に成長期を迎えられないような自分の身体の事も、アスは心底嫌っていた。


「アス、夜の鐘がなる前に家に帰ってきてね。最近、この辺は変な事件が多いらしいから」

「だから、子供じゃねえぞって」

「子供じゃなくても、子供みたいに小さいじゃない!暗くなる前に帰ってくるのよ、良いわね?」


 完全に子供扱いだ。アスは自分の額に青筋が浮いたような気がした。

 腐った屋根板を力任せに叩き壊した。その音で流石のユリアもアスの不機嫌さに気がついたのか、それっきり声は聞こえなくなった。

 



 教会の大尖塔の鐘の音が夜を告げる。アスは反射的に両の手で耳を覆った。


(やべっ、作業に集中し過ぎてて時間を忘れてた……!)


 普段は鐘の鳴る頃には事前に耳を塞いでおくようにしているのに。アスの生まれつき良過ぎる耳に、鐘の音が刺さって痛む。

 そうして、ぐらりと身体が後ろに揺れてから。

 アスは自分がそれまで屋根の修理をしていた事を思い出したのだ。

 あ、と口から間抜けな音が漏れ──屋根から両手ともを離してしまったアスの身体は、急な屋根を転がり落ち、踏み締められた固い地面へと叩き付けられた。

ヴァンパイアに覚醒した少年に中世の街でヒーローさせたかった。文章がダレたのでやめた。

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