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うわ嫁強い2

テューリエル国の第三王女エリーゼと、その隣国アレスのアシュフォード公爵家の次男の婚約は、大陸中にそれなりの混乱を与えた。

テューリエルは一早くアレスの女王擁立を支持すると、言外に声明を出したのだ。

同時に行われたテューリエルによるハークランド国債の一斉売却──それも帝国に丸ごと売り渡した──による混乱はより大きく、国際社会に動揺と緊張が齎される事になった。


**


成人の義を終えた翌日にはエリーゼはテューリエルを発つ事になっていた。

一人、がらんと生活感を無くした自室で紅茶を啜りながら、エリーゼは生まれてからの16年をなんとはなしに振り返る。


──それなりの事があったと思う。アザリアに目をかけてもらって、比較的平和に過ごした16年の歳月は、それでもそれほど手放し難いものではない。


特に、エリーゼは父親──国王が嫌いだ。ゆえにアザリア以外に思い入れのある間柄の相手は特に居らず、故に彼女は当たり前のように他国への輿入れを受け入れている。


エリーゼは妾腹で、一人の兄と二人の姉、それから十人近い弟妹がいる。母親は子爵家の出て後ろ盾は無く、エリーゼを産んですぐに適当な伯爵家へと降嫁していった。

兄であるリュークシルは先王とその正妃の子で、エリーゼの父である現王とは叔父甥の関係である。しかし、エリーゼの父は先王妃をそのまま自分の王妃に迎えた。要するに彼は王妃の連れ子であり、元から次期王位継承権を持ち、現在も嫡男として扱われる複雑な立場にある。

逆に第一王女であるアザリアは現王とその最初の妻の間に生まれた娘で、彼女は王の連れ子という立場にある。アザリアの母は既に亡くなっている。そして、アザリアの母とエリーゼの母は義姉妹の関係にあった。エリーゼの母の降嫁先はアザリアの母の生まれた伯爵家なのだ。


アレスの王位争いはそっくりそのままテューリエルにも当て嵌まる状況で、実際、水面下でリュークシルとアザリアの王位争いは既に始まっている。


第二王女はといえば、王と王妃の間に生まれた子供であった。彼女は早々に公爵家へと嫁いだ為王位継承権は放棄しているものの、同腹の兄リュークシルを何かと支持している。


そして、エリーゼはアザリアの手駒だ。エリーゼはアザリアとアレスを繋ぐパイプ役としてアシュフォード公爵家へと嫁ぎ、王女を女王に即位させアレスの軍部とアザリアを連携させなければならない。

軍部との連携を思いついたのはアザリア自身だが、エリーゼを隣国に輿入れさせる事を決めたのは国王自身だ。


(どうしてわざわざ激化させるの?)


エリーゼが父を嫌う理由はそれだ。国王はリュークシルとアザリアに同等に権力を割り振っている。

確かに、二人は王の器として申し分ない。だが、二人をわざと争わせる理由は何なのか。権力争いは余計な策謀を引き起こすだけだというのに、父親がその火種を巻いているというのが、エリーゼにはどうしても納得が出来ない。


(──私が終わらせればいいのかな……)


だが、とも思う。エリーゼのアレスでの働き次第では、この権力争いに決着がつくのではないだろうか。


(なんにせよ、上手くやらなくては)


アザリアの為に。

美しく、良くしてくれた姉を思い描いて、エリーゼは窓の外を見つめた。西の遥か向こうにある、アレスへとその視線を向ける。


彼女は自分の嫁ぎ先の事など何一つ考えていなかった。


**


アレスへの出立式は手短に行われた。五十人近い侍従や護衛を引き連れて行くため、城の中で付き合いのあったものの殆どは同行するのだ。

アザリアやリュークシル、殆ど接点のない兄弟たちに別れを告げて、父親にはただ跪礼を一つ行い、エリーゼは住み慣れた城を離れた。


アレスの王都までは半月を要する。

転々と存在する街町で休息を取りながら、エリーゼの旅は何事もないままアレスの王都へと到着して終わった。


だが、そこでエリーゼ達は戸惑う事になる。


「エリーゼ様、エリーゼ様!公爵家の方からの連絡が!」


馬車に飛び込んできた侍女は酷く慌てていた。エリーゼは彼女を宥めて落ち着かせてから、何があったのかと優しく訊ねた。

よもや今更婚約を解消して帰国しろなどと言い出すのではあるまいな。或いは、この半月のうちに王位継承争いに決着がついたのか。

エリーゼが冷静にそう考えていると、侍女は蒼白な顔で彼女に衝撃的な言葉を言い放った。


「エリーゼ様の婚約相手、アシュフォード公爵家のヴィンツェンツ様が、三日前にお亡くなりになったそうです。」


「──え」


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