No.28 向日葵
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第二十八弾!
今回のお題は「橋」「ひまわり」「雨」
3/2 お題出される
3/7 バイトが過労状態でぐったり
3/8 考案してあるプロップに添って走り始めるもゴールが見えない
3/9 タイムオーバー故の打ち切りという形で投稿……ちくせう
ついに……ついに来てしまったぁぁぁ orz
申し訳ないぃぃ
朱色の橋が架かっている。遥か遥か、地平線の遥か向うまで……
幅10mは有るだろうか? 触ると木目が感じられることから、きっと木製なのだろう。艶やかな朱色に染められている。ずっと向うまでその朱が、色あせることなく伸びている。振り返っても、鏡合わせのようにどこまでも朱色の鮮やかな赤がどこまでも続いている。
橋の下には河ではなく、これまた地平線の彼方まで続く花畑が広がっている。黄色い……目にも鮮やかなひまわりが青空と溶け合う地平線まで、温かみのある色合いで風に揺れている。
そして私は、気が付けばここに居る。学校の制服姿で。セーラー服姿で。
どういう経緯でここに来たのか、ここがどこなのか、帰り道も……分からない。
ともあれ、私はある程度周りを見てみることにした。
橋下駄はひまわりの園へ沈み込み、かすかに茶色い地面にその基礎を埋めているのが見える。そういえば、生き物の気配が無い。空は澄み切った青で、入道雲がその巨体を晒していた。日差しはやや強く、そのままじっとしているとジワリと汗をかく気がする。その汗を爽やかで微かに吹く風が優しく乾かしていく。今は夏なのだろう。きっと。
ふとした瞬間、視界の端に白いドレス姿で白い日傘をさす女性の後ろ姿を見かける。
橋の朱と空の青、あたりを埋め尽くすひまわりの黄色と合わさり、その白い姿がある光景はまるで絵画の様だった。風はほのかに強くなったようで、その女性の服を風が揺らしていた。
私は話を聞くために、その人に声をかけてみた。
「あの……! すみません、ここがどこだか分かりませんか?」
女性は反応しない。
「私、迷ってしまったみたいで……」
少しずつ私は女性に近寄って行った。近くで見ると、日傘の端から、かすかにブロンドの髪が風に流され流れているのが見える。
それにしても反応が無い。日本語が通じないのだろうか? ……そういえば、ここが日本とは限らなかった。
「あー、えーっと……ぃくすきゅーずみー?」
私は英語が分からない脳みそをフル活用してなんとか、すみません、と声をかけた。だがやはり、女性は反応が無い。そこで私は、女性の目の前に出ることにしてみた。
そこには白いドレスの女性はいなかった。正確には、白いドレスの人の形をした何かだ。きっとマネキンか何かだ。ブロンズの髪を風にたなびかせ、下腹部の部分がぽっかり穴に成っていて、そこから蒼く輝く蝶々が飛び立っている。何匹も何匹も、さっきまで居なかったのに、私が来た事に驚いたかのように、蒼い濁流のごとく飛んでいく。マネキンは聖母のごとき微笑みを陶器のごとき肌で浮かべていた。
私はその光景が怖くなった。そして、そのマネキンを打ちたくなった。でもそれでいて、そのマネキンを愛おしくも感じて……結果、私はマネキンの傍の欄干に腰かけて座り込んだ。
どれだけ時間が過ぎただろうか。あまり過ぎていないかもしれない。ここには時間の経過が雲以外に無いかのようだ。どこまでも広がる青空。大きな雲が遠方を闊歩し、涼しげな風が吹いている。その風が一面のひまわりたちを揺らしている。そういえば、ここにはお日様がない。青空と強い日差しでどこからか日光が来ているのだから、お日様もある物と思っていた。だが、空に浮かぶ白い円形の発光物は無く、曇りのない蒼天に白雲が流れているだけだった。
そんな時、橋の木々が誰かの足音を私に聞かせてきた。ゆっくりと誰かが歩いてくる。私は、ただ何もする気にならず、ただただ橋を見ていた。
その足音は、私の目の前で止まった。そして布擦れの音、ため息、視線を感じて、私は欄干に腰を掛けたまま目線を上に向けた。そこには、黒い髪に黒い服を着た眼鏡のとても美しい少年が、しゃがみこんでこちらを見ていた。膝の上で頬杖をつき、不満そうな顔でこちらを見ている。
私はその少年に聞いた。
「……なに? 何か用?」
少年はしゃがんだまま私から目線を逸らし、先ほどまで頬杖をついていた腕に顔を埋めた。そして、あからさまなため息。
「なによ。なんか言いなさい」
少年は立ち上がり、私に向きなおる。その低い身長は、欄干に腰掛ける私よりほんの少し目線を高くする。必死に仁王立ちするも、その体の細さや幼さ故にあまり迫力は無い。来ている服はよく見れば黒色の白衣で、背の高い大人が来ていれば迫力も有っただろうと思う。そして、私をその眼鏡越しに睨みつけ……またため息。
「ため息を人に対してつかないで。そう教わらなかったの?」
私はイラつきながらそう言った。
それに対して、少年が初めて口を開いた。ただし、私に向かってではなく、左を向きながら……そのマネキンに対して言った。
「だとよ。とんだギャグだと思わねぇか? ウィットにとんだギャグだ。わーらーえーるー」
小馬鹿にした態度に私はイラッとした。そして、数時間(はたってると思う)ぶりに欄干から立ち上がり、少年の前に立った。少年とは私の頭一つ以上の身長差があり、完全に私が見下ろす形だったが、少年は相も変わらず馬鹿にした態度を止めようとしなかった。
「度々自分がストレス溜まるたびにため息ついてたくせに、俺に対して教育者ぶるにはまだ時が早いぜ。なぁ……ミオ」
ミオ? ……ミオ?
その言葉の響きに私は何かぐらぐらと揺らされた気がした。頭蓋という狭い部屋の中で、強い日差しにやられたのか、私の脳が揺れた気がした。
戸惑う私に少年が言う。
「まだ自分が置かれてる状況が解ってないみたいだな。まぁ、いいか。時間はまだある。……ゆっくりしてはいられないが、急いては事を仕損じる、ってな」
少年は淡々と続ける。
「まずは自己紹介といこうか。んー……知ってるやつに自己紹介とか恥ずかしくて困るな、はは」
少年は手をさし出していう。
「『灯幻橋』……そうあんたに名付けられた、植物状態の人間を覚醒させるための医療用マシンだ。まぁ、まだ試験段階だがな」
更に続けて言う。その白い肌での美しい微笑みを、黒い髪が風に吹かれて撫でる。
「で、あんたは俺の治療対象第一号。俺の開発者でもある、栗原 実桜だ。自分を思い出せそうか?」
なかなか状況が呑み込めず呆然とする私の手を取って、少年は笑顔でいう。
「呼ぶなら『桃』とでも呼んでくれ。未来のあんたはそう呼んでたからな」
その後、桃と名乗る少年は私に懇々と事態の説明を繰り返した。長い時間をかけて……。
自分は未来から精神の転移装置を使ってここまで来ている事。ここは私の夢で、私は今植物状態である事。なんらかの理由で、ここから私が出たがらない、つまり夢から覚めることを拒否している事。……彼の一つ目の役目は、私の目を覚ますことらしい。
「ちなみに二つ目の役目とかは?」
橋の欄干に外向きに腰掛け、釣りをしている桃に私は聞いた。明らかに釣り糸は橋のはるか下にある地面に達しており、何かが釣れそうな気配はない。
「二つ目はあんたの恋人、フィアンセを起こすことだ。そのためにあんたの協力が必要だ」
「フィアンセ? 恋人? 私、そんな人居た?」
私はすぐ傍に居たカブトムシの雌二匹を見ながら、半ば気を取られながら言った。
「ああ、今のあんたには居ないだろうが、未来には居るんだよ……その一件が関係して、あんたは今回自殺を図ったんだが、失敗した、ということだな」
「……その恋人って、私の知ってる人? それに目を覚まさせる、って?」
カブトムシの雌たちから、一瞬だけ目線がそれた隙に、二匹の姿は幼虫になっていた。そしてその二匹ともが、大きな雄のカブトムシに持て遊ばれていた。一匹は踏みつけられ、悶え苦しんでいる。もう一匹は、雄のカブトムシに“食われて”悶え苦しんでいる。……私は、雄のカブトムシ二匹を摘み上げ、橋の向うに捨てた。なぜか、それが酷く悲しかった。残された二匹の雌の幼虫は、両方とも動かなくなっていた。
「……そこは自力で思い出せ」
そういいながら、彼はそのまま釣り糸を垂らし続けた。私の質問に全部答えてくれるわけではないらしい。
ふと遠くを見ると、一部だけどす黒い色をした雲が遠方のひまわり畑を薙いでいる。
「あれは?」
「雨だな……豪雨みたいだな。遠いし、ここには来ねぇよ……むしろ……」
と言いかけたところで桃が急に立ち上がり、竿を引き起こす。竿は折れんばかりにしなり、尚も糸を引っぱり続ける。
「来た! ヒィィットォオ!!」
「ええ!? ど、え? なにが??」
が、糸は途中で千切れ、桃は反動で大きく尻餅をついた。
「いたた……ま、暇つぶしだし良いか」
「ん? ん? なに、何を釣ろうとしてるの? なにが釣れかけたの??」
桃は今に分かる、とだけ答え、また釣り糸を垂らした。私は、この橋の上で、マネキンと地面に釣り糸を垂らす少年と、ひたすらに長い時間を共にした気がする。
マネキンは変わることなく、桃は時に本を読んだり寝たり釣りをしたり……かくいう私はひたすらに暇を持て余していた。
「そう言えば……」
私は何気なしにその言葉を口にした。
「この世界には、夜はないのね」
その瞬間、この世界に夜という概念が生まれ、青空は雲のかかった星空へと姿を変えた。風は一瞬で冷え込み、夜の冷え込みが牙をむいた。
桃が釣り糸を垂れながら、冷静に言う。
「言ったろうが……ここはあんたの夢だって」
突如、私の背後から白い円形の物体が姿を見せる。煌々と輝きを放ち、見慣れた光源が姿を見せる。それは見る見るうちに頭上で輝き、そのまま桃の居る方へと沈んでいく。桃は私に背中を向け、尚も釣りをしている。その背中が黒く染まり、その黒ささえも飲み込む闇夜がその後訪れる。それが矢継ぎ早に、誰かが空をマニ車で回しているかのような速度で朝と夜を繰り返していく。
桃が釣竿を下ろし、立ち上がって私に向きなおる。
「思い出せないか? ここまでヒントは有ったはずだ」
「なに、なんの事?」
「そんなに自分の親父が許せないか? 恋人の父親は……いや、両方とも碌なのじゃないのは、俺も聞かされてる」
「待って、何の話をしているの?」
「だがな、ならなんで、自殺するほど思いつめた。……認めて欲しかったんだろう? 親父さんに」
カブトムシの幼虫の死体が足元に転がっている。
「やめて! あんなの父親じゃない! 私は私だもの!」
「ああ、そうだな……じゃあそれを言いに行けよ。自分の口で。ここでこうしてても時間が過ぎてくだけだぞ」
空は目まぐるしく明るく、暗く、紅く、白く、矢継ぎ早に色合いを変える。
「でも、でも……」
「あんたがしたいことはなんだ?」
「……したいこと? なに? 唐突に……」
「あんたの救いたい人は?」
腹の割れた聖母の像は相も変わらず優しく、諦めの色合いの濃い顔で佇んでいる。
「でも……だけど……私はまだ子供で……」
「誰だって、完全に大人になることは無い、だろう? なら、子供が大人と同じような役割をして何が悪い」
「……理想論だよ」
「悪いな。機械は、人間とは違う」
桃は朝日をその綺麗な顔に浴びて、その次の瞬間には背後から夕日を浴びて、そのどれもが人間的な苦しそうな表情に見えた。
「ねぇ、どうして、私は死のうとしたの? いい加減教えてよ」
「……それが最善の手なら、そうしよう」
桃は手を私に差し出す。そういえば、出会った直後も握手を求めてきてたっけ? どうして、あの時私はこの手を取らなかったんだろう? きっと、この手が、私を現実に連れ戻す為の物だと私が心なしか知ってたからだ。
「私は……現実に戻されるの?」
「ああ、そうしないと俺は生まれない。造られない。俺が作られることで、多くの人間が助かる。そのための最善の手段を……決して諦めないのが、人間と機械の最大の差だ。人間がどんなに絶望の淵に有っても、機械は決して諦めない。……そうあれと、未来のあんたが教えてくれた」
私は桃の手を取ろうと手をさし出した。恐る恐る……
「その前に、どうして、私は自殺を図ったの?」
「もう気づいてるんだろ? 自分がどんな人間なのか、恋人がどんな人物なのか……フィアンセの名前は思い出せるか? ヒントは全部、ここにある」
私はゆっくりと自分の頭で考えた。
朱い橋。白い雲。青い空。聖母の像。腹から飛び立つ蝶々。しいたげられた雌の幼虫。目まぐるしく回る朝と夜。そして……
「ひまわり……」
そうぼやいた私に、桃は再度問いかける。
「そう、あんたのフィアンセの名前は? 今、あんたが、この橋を渡り切って死ぬ前に止めに現れた聖母の像のモデル、あんたが現実に帰って助けなきゃならないその人の名は?」
私の口をついて、その名はこぼれた……
「日向 葵……」
桃はにやりと笑った。
そうだ……あの子を、彼女を、助けなきゃ……彼女の父親から。私が私の父親に、私を理解してもらえなくても、それでも、それはショックだけど……それでも!
私は桃の手を取った。
「帰ろう! 葵が心配だもの。あの子、きっと泣いてる。泣いてる時に、私はあの子の傍に居たい!」
「良く言った!」
桃の手を取った瞬間、朱い橋は音をたてて崩れ始めた。私たちが居る場所を残して、全てがひまわり畑に沈んで消えていく。
「待って! 確か……『私のフィアンセを起こすのも役目』って言ってたでしょ? ……それってどういう事? まさかあの子も!?」
桃は頷いた。そして言う。
「きっかけは、彼女の癌とあんたの昏睡、彼女の父親の件も有ってかなり深い夢に落ちることを選んじまったらしい」
風が強くなってくる。遠方からすごい速度で、件の豪雨を降らせる雲が私たちの元へ、桃の背後から迫る形で駆けてくる。
そんな中、桃は冷静に言う。
「そこであんたの出番だ。あんたがお越しにいくのさ」
「どうやって!? そもそも、あの子はどこに……?」
桃は頭上に現れた雨雲を指さす。
「あそこに居るの? 葵が居るなら、私は行きたい! あの子の事を思い出せてきたんだもの。私にとってどれだけ大事か、思い出せてきたから! ……謝りに行きたいの! 私一人が逃げ出してしまったことを!」
雨と風の轟音に負けないように必死に声を張り上げた。
それを言い終わるか言い終わらないかという時に、私の体は桃に手を引かれるように宙に浮いた。目の前のどす黒い雷雲に、桃に手を引かれて私は飛び込んでいく。顔を雨が濡らし、服は重く水を含み、寒さが肌に沁みわたる。それでも、私はあの子に会いに行くんだ。そうしたいから……!
桃は私に言った。
「ちゃんと俺を造ってくれよ……俺は諦めないからな。どんなことをしても、あんたらを幸せにする。それが、俺の親孝行ってやつだ」
「うん……未来で、待ってて。必ず二人で会いに行くから」
雲の中に飛び込むと、私の意識は混濁し、渦を巻いて捻じれて暗がりに落ちた。……要するに、何が起きたか分からないうちに気を失っていたらしい。
私は、どこかの病室で目を覚ました……
はい
すみません
打ち切りです(血の涙)
ずばりこれで半分なのです……
この後、舞台は移って主人公ミオの恋人、葵の閉じこもってる夢の中で彼女を起こしに行きます
彼女は戦争の夢を見ており、そこで男の子の亡骸を大事そうに抱える母親に成っています
そして彼女はミオに泣きながら言います
私は子供は産めない。この男の子の亡骸だけが私の子供なのだと……
そして続けて、恋人の為に子供が欲しいけれど、産んであげられない苦しみを泣きながら、その亡骸を抱えて言うのです……
そんな葵の様子に自分も心を痛めたミオは、彼女を抱きしめて、御礼と謝罪とを口にし、彼女を連れて何とか現実へ帰ろうとします……
そして、はるか未来で、二人の間の子としてはいささか不十分ではありますが……人間のカウンセリングプログラム『逃幻橋』、ニックネーム『桃』が作られる
という話だったのですが……
うん……
電波なところに力入れすぎちゃったね
それぞれ意味がちゃんとあったりしますが、読んでて辛くなるだけだったんじゃなかろうか?w
とか思うと何ともいかんとも言い難い……まだまだ未熟ですゎぁぁ
ちなみに
桃が橋で釣ろうとしてたのは、何かしらミオの記憶や思考に繋がるモノを探してでした。カブトムシとかさりげなく釣り上げた物だったりします。ただ、本来は竿は形だけなので何か引っかかることは無いはずでしたが……その時のミオは嫌な記憶を思い出しかけていたので、何か引っかかったようです
なお、引っかかったのは地面……つまりミオが見ている夢そのモノでした
ここまでお読みいただきありがとうございました