あやかし商店街(二) 六
お雪は嬉しそうに手を上げた。
白雪はお雪のお椀を持つと、穴の空いたお玉で野菜や豆腐やお肉を入れ、最後に普通のお玉で汁を追加した。
「雪芽、どうぞ」
「有り難う♪」
お椀を白雪から受け取ると、お雪はハフハフさせながら野菜を食べた。
「ふふふ」
隣に座っている白雪は優しい目つきでお雪を見た。
「ほれ、真司」
そんな白雪とお雪を見ていた真司に、菖蒲は色んな具が入ったお椀を真司の目の前に置いた。
「え?あ!有り難うございます、菖蒲さん」
「構わんよ」
菖蒲はニコリと微笑んだ。
ドキリ、と真司は菖蒲の愛らしい笑みに胸が鳴った。
(菖蒲さんの笑顔って、なんだか心臓に悪いなぁ)
軽く胸を押さえる真司を見て、菖蒲は
「ん?どこか調子が悪いのかえ?」
と大きな瞳で問いかけた。
真司は慌てて手を振ると
「い、いえっ!なんでもありませんっ!」と言った。
「そうかえ?」
「はい!あはは」
真司は少し気恥ずかしいのか、頬をポリポリと掻いて苦笑したのだった。
「はふ…菖蒲様のご飯は相変わらず美味です」
「あのぉ、ちょっとした疑問なんですが、白雪さんは雪女なんですよね?熱いのはどうして平気なんですか?」
「溶けると思いましたか?」
微笑みながら言われた真司はギクリとした。
「・・・まぁ」
「昔のご先祖様は熱いのは苦手で、確かに温かい所に行くと溶けたらしいです。でも、それも子孫が繁栄してくると体質も変わり、温かい所にいても溶けなくなった身体になったんです。」
「へぇ~」
真司は雪女の生体を知り、鍋を食べながら深く頷いた。
「勿論、体質が変わった今も、やはり苦手という雪女は多いです。ふふ、私は例外ですが・・・。
私は、昔から温かい物に興味があったんです。それこそ、他の雪女からは変わり者と言われたりもしました。・・・そして、私は願ってしまったんです。」
「願い、ですか?」
「はい。故郷を出て・・・色んな所に行き、温かいものに触れたいと。」
「白雪さんの故郷は、外に出ることを禁じていたんですか?」
すると、モクモクと黙って食べていた菖蒲が白雪の代わりに言った。
因みに、お雪はひたすら食べている。
「雪女の故郷は特殊でな。人と関わり合う事を禁じておる。なにせ、昔から雪女の数は少なかったからの。つまり、人間でいう稀少価値があるということだ。」
「そうだったんですか」
白雪は苦笑した。
「これでも、数は増えたんですよ?二桁までいきましたから」
「え、二桁?!じゃぁ、前は一桁の・・・数名しかいなかったんですか?!」
「はい」
「言ったじゃろ?稀少価値だと」
「・・・・・・・・・」
真司は驚きのあまり、唖然としていた。
「私の外に出たいという願いは・・・」
と言うと、白雪は菖蒲を見た。
「菖蒲様によって叶えられました」
「え?菖蒲さんが?」
「はい。」
「たまたま、雪の国に行くと願いが聞こえてきたのでな」
「・・・はぁ」
と、曖昧な返事を真司。
「そして、私は外で色んなものを知り、触れ、・・・雪芽に出会った。」
名を呼ばれた雪芽は、白菜を中途半端に口に含んだまま白雪を見た。
「??」
「ふふっ。雪芽との出会いも、菖蒲様のおかげなんですよ?」
「そうなんですか?」
真司は菖蒲を見ると、菖蒲はそ知らぬ顔をした。
「私は何もしとらんよ」
「ふふっ。」
「???」