あやかし商店街(二) 伍
§
菖蒲の店は白雪が来てから一段と賑やかになっていた。
そして、白雪は他の付喪神達にも挨拶をすると居間に戻ってきた。
「菖蒲様」
「なんだい?」
「そういえば、星ちゃんやルナが見当たりませんが…」
「あぁ。あの子達か」
菖蒲は茶を啜ると、湯呑をテーブルに置いた。
「あの子達も何処かに出かけたよ」
菖蒲がそう言うと、白雪は微笑みながら
「そうですか」と言った。
「あの、星ちゃんとルナって誰ですか?」
真司がそう言うと、隣でゴロゴロしているお雪が代わりに答えてくれた。
「星ちゃんはね、とっても可愛い男の子で、ルナはね真っ白な猫だよ」
「へぇ~」
「真司。お雪の本体の隣に置いてあった物を覚えているかえ?」
「え?えっと・・・確か」
真司は天井を見上げて考えていた。
「・・・確か・・・色んな色の石が填められている硝子コップだったような・・・」
「正解です」
白雪がニコリと微笑んだ。
「星とルナは、そのコップから生まれた付喪神だよ」
「へぇ~」
(そうなんだ)
「今はいないが、そろそろ帰ってくるんじゃないかねぇ」
そう言うと、菖蒲はまた茶を啜った。
「他にも、この店にいない付喪神はいるよ~」
「そうなの?」
真司は炬燵に入って温々しているお雪を見た。
「うん。えっとね、オールドさんもいないね」
「オールドさん?」
「うん!」
「???」
真司は首を傾げた。
「オールドは、猫の置き物の付喪神の事だよ」
「という事は、その人も猫ですか?」
「まぁ、猫と言えば猫だね~」
「ふふっ、そうね」
「??」
「あ奴は猫にしては紳士すぎるから、猫とは言えんがな」
と、菖蒲は苦笑した。
(紳士の猫・・・・・想像出来ない・・・)
「でも、一体何処に何しに出かけてるんですか?」
「皆、新しい主を探して色んな所に行くのよ」
白雪が炬燵に入りながら言った。
「本来、付喪神は自身では歩けないのだけれど、強い想いから作られたり、大事にされるとね人の姿にもなれるの。そして、自分がこの人の事を幸せにしてあげたいなっていう人を見つけに行くのよ」
「へぇ~。じゃぁ、お雪ちゃんも?」
真司はお雪に問いかけた。
お雪はキョトンとすると、ニコリと笑った。
「ううん。私は此処が好きだから、ずっと此処にいるよ!菖蒲さんの所にずっと留まるつもりだよ♪」
「ふ~ん」
「さて、と。そろそろ鍋でも作ろうかねぇ」
「あ、僕手伝います」
「うむ」
「私も~♪」
「私は、炬燵であったまっています」
ふぁ~、と小さく欠伸をする白雪を見て、菖蒲・真司・お雪はクスクスと笑ったのだった。
§
既に下準備は出来ていたので、鍋は数分でテーブルの中央に置かれていた。
野菜が沢山入り、グツグツと煮える鍋。
白雪とお雪は目をキラキラさせながら鍋をジッと見ていた。
(なんだか、本当に姉妹みたいだな)
と、真司は内心思い、微笑ましい気持ちになっていた。
白雪は、大人っぽく見えても案外子供っぽい所もあるようだ。
「うむ。もう、いい頃合いかの」
「わーい♪」