あやかし商店街(二) 壱
―季節は冬・・・
掛け軸の一件から数日が経ち、秋の匂いもいつしか冬の匂いに変わっていた。
そんな中、菖蒲と真司は買い物袋を抱えて歩いていた。
「もう冬の匂いだなぁ」
「おや?お前さんも匂いには敏感なのかえ?」
真司の隣を歩いているのは菖蒲である。
菖蒲は、萌黄色の生地に黒のダイヤ柄が縦に入り、所々に薔薇色の小さなテディベアが刺繍されている着物を着ている。
帯は黒の生地に銀色の色々な音符が散らばっていた。
中襦袢の襟元も赤の生地にくるみ割り人形の柄が入り、全体的にもちょっぴり現代風で可愛らしい着物を着ていた。
「匂いにはそんな敏感ではないですけど・・・なんていうか・・・うーん」
と、真司は晴れている空を見上げた。
「冷たさとか、澄んでいる空気っていうか・・・」
「ふふふっ。」
「すみません・・・」
「別に謝らんでもええよ」
「あの、それにしてもどうして商店街で買い物しないんですか?後・・・この量は・・・」
真司は抱えていた買物袋を、よいしょっと軽く言いながら持ち直した。
「ちょっと・・・多いような気もするんですが・・・」
菖蒲は「うむ」と言うと軽く頷いた。
「そろそろ白雪が帰って来る頃だからねぇ」
「白雪さん・・・ですか?」
「白雪は雪女で、お雪の名付け親・・・というか、姉みたいな存在の人だよ」
「へぇ。お雪ちゃんのお姉さんかぁ・・・」
(どんな人なんだろう?)
「そして、ここに買い物に来たのは、これが貰えるからだ!」
シュバッと袖から出したのは、抽選券と書かれた小さな紙だった。
「抽選券?あぁ。そういえば、駅前に回す台がありましたね」
「うむ!2等賞は、あの自動掃除機らしいからの!」
「確か、ルンバでしたっけ?って、え?あれ欲しいんですか?」
「うむ。小さいくせに、ゴミを見つけたら拾ってくれる・・・何とも健気で可愛らしい・・・」
うっとりとした瞳で菖蒲は空を見た。
「あはは・・・」
(菖蒲さんの好みが、イマイチよくわからないなぁ…)
と、真司は心の中で思いながら苦笑した。
そして、二人はあかしや橋を渡ったのだった。
すると、あかしや橋は"あやかし商店街"へと名を変え、目の前には朱色の鳥居のような入り口が現れた。
二人はそれを潜ると、一瞬にして賑やかな商店街へと着いたのだった。
「相変わらず、ここは賑やかですね」
「まぁな」
二人は、クスクスと笑った。
「でも、そこがここの良いところぞ?」
「はい」
真司はニコリと微笑みながら返事をしたのだった。