File3 メール
深海を出た慶達は、亮輔の行きつけ2号店
プラネタリウムに行くことにした。
名前はプラネタリウムだが、まったくプラネタリウムの設備など無く
ママもプラネタリウムが好きと言うわけでもなく・・・。
少し小さめのスナックで、ママとホステスが2名
ボックス席が3席あり、2席は埋まっていた。
亮輔がお店に入ると「あっ、りょうちゃんだ!!」と
カウンターにいた20代半ばの大人っぽい雰囲気のホステスが
嬉しそうに歩みよってきた。
「あゆみちゃん、今日、5人ね!」
「は〜〜い」
あゆみはすぐにボックス席に案内し、
お酒の準備を始めた。
「あゆみさんって言うんですか?あの人。 綺麗ですね〜〜」
「オマエさっきからそればっかだな・・・、ホント・・・」
山下があゆみを見て言うと、慶が呆れ顔で答えた。
「でも香織さんの方が絶対綺麗っすよ」
「オマエ、香織に惚れたな〜〜!?」
山下は後輩達の中でも、気さくで良くしゃべる。
そんな山下を慶は特によく面倒を見ていた。
「は〜い、亮ちゃんいらっしゃい」
「皆もかんぱ〜〜い!」
あゆみは酒の準備ができると、亮輔の隣に座り勝手に乾杯の音頭を取った。
回りから見ると、どう見ても怪しい、この二人・・・。
「亮輔さん、なんかあゆみさんと怪しいっすよ!!」
山下は思わず口に出してしまった。
「あ〜〜ら、あなた達知らないの?
亮ちゃんはね、私のお気に入りナンバー1なのよ」
「何言ってんだ、あゆみちゃん・・・」
今度はここで深海での香織と慶とのやり取りが再現されたかのようだった。
亮輔は容姿端麗で気さくな性格の上、よくスナックなどにも飲みに行くため
街のホステスの中でも、イイ男として結構有名だったりする。
「亮ちゃん、今日こそは家においでよ〜〜」
「バカ、そんなこと言ってたら勘違いされるだろ?」
ここでも静かなバトルが繰り広げられていた。
そんなやり取りを見ざる聞かざるでいた、慶や後輩達は
カラオケを歌ったり、仕事の話をしたりして楽しんでいた。
1:00を過ぎた頃だろうか。
慶の携帯のメール着信音が鳴った。
慶は今頃だれだろう?と思いながらも
密かに香織からのメールかもしれないと期待しながら携帯電話を開いた。
「お、やっぱ香織からじゃん!!」
ああいう態度をしてはみたものの、やはり香織からのメールが嬉しかった。
−−−−−−−−−−−−−−−
4月30日 1:08
[To]香織
[Title]今日はありがとう
−−−−−−−−−−−−−−−
今日はお店に来てくれてありがとう。
久しぶりにケイに会えて嬉しかったよ!
ところでさ、今日言いかけてた
いいわけの続き聞きたいな・・・。
「俺は香織が・・・」の続きをさ。
電話でもメールでもいいから待ってるね!
−−−−−−−−−−−−−−−
「・・・・。 何いいわけ? 何かいいかけてたっけ・・・」
慶はすでに酔っていたせいで、何を言いかけていたのか忘れていた。
「う〜ん、何て返信すれば・・・」
と考えていると
「慶さ〜〜ん、歌歌! 慶さんの歌ですよ!」
山下がそう言うと、慶はふと我に帰った。
「ああ、俺の歌う番か〜〜」
歌を歌いだすと、歌っている間に盛り上がり、また皆ではしゃぎ始めた。
そうなるともうメールの事を考える間も無く時間は刻々と過ぎ
2:30 プラネタリウムの閉店の時間になった。
店を出るとすぐに
「俺もうだめっす、帰っていいすか?」
「ああ、そうだな、もうこんな時間だしお開きにすっか〜」
後輩達がダウン寸前のため、3人をタクシーに乗せ
慶と亮輔はそれを見送った。
「慶、俺今日はあゆみちゃん家いっちゃおうかな〜〜」
「えっ??結局約束しちゃったんですか?」
「ああ、なんかだんだん俺もその気になってきちゃって・・・」
「あ〜〜らら、俺知〜〜らない!
でも亮輔さん、彼女もいないし別にいいんじゃないんですか?」
「ね、ね、そうだろ? ちょっと行ってみようかな〜〜」
「じゃあ、亮輔さん ほどほどにね〜〜!!」
「ああ、んじゃ、オマエも香織ちゃんとほどほどにな!」
慶は亮輔の言葉でメールの事を思い出した。
「やっべ、メール返してない・・・」
「なんだ、オマエさっき携帯さわってただろ・・・。
てっきり香織ちゃんと約束してるのかと思ったよ」
「ああ、そんなんじゃないんで・・・。
それじゃあお疲れ様です!」
「ああ、じゃあな〜」
そういうと、亮輔は暗闇の中へそそくさと消えていった。
呆然と立ち尽くしていたのは慶。
メールの返事をすっかり忘れていた。
ふと時計を見ると3時前・・・。
「もう、アイツ寝てるかな・・・」
メールの内容がわからなかったこと
メールをすぐに返さなかったこと
時間が遅くなってしまったこと
色んな思いが重なって、一層メールの返信をすることができなかった・・・。
「そうか、寝てた事にしよう・・・」
こういう部分は楽天的だ。
結局、慶はメールから逃げ、家へ帰って寝ることにした。
翌朝 と言ってももう11:00
慶は目覚めると、早速香織にメールしてみることにした。
−−−−−−−−−−−−−−−
[To]香織
[Title]Re:今日はありがとう
−−−−−−−−−−−−−−−
昨日ごめん、寝てた。
−−−−−−−−−−−−−−−
「う〜〜ん、今の俺にはこれくらいしか打てない・・・」
慶は、結局このままメールを送信した。
朝食をパンで済ませた慶は携帯を見るが返信が来ない。
「ふ〜ん、まだ寝てるんかな〜、ホステスってどんな生活してるか
わかんないもんな〜」
そう思いながら、愛車のフォレスターを駐車場で洗車することにした。
14:00 洗車が終わった慶はもう一度携帯を見てみた。
「・・・・。 なんだまだ返信ねーじゃん。
無視されたんかな・・・」
「まぁ、いいか・・・」
少しヘコみ加減ではあるが開き直ってみた。
香織からの返信をあきらめた慶はブラ〜っと買い物でもしようと
街へ出かけることにし、身なりを整えていると
「ピ〜〜ンポ〜〜ン」
玄関の音ではない。
慶の携帯メールの着信音だ。
慶はあきらめたつもりだったが体が勝手に素早く動き、携帯を開いた。
−−−−−−−−−−−−−−−
4月30日 14:23
[From]香織
[Title]ば〜〜か
−−−−−−−−−−−−−−−
ゴメン、さっき起きました。
昨日のメール気にしなくっていいよ。
話が途中だったから、気になって。
どうせ話の内容覚えてないんでしょ??
−−−−−−−−−−−−−−−
「ふむ、やっぱり話覚えてないの気づかれたか・・・。
相変わらず鋭い・・・」
−−−−−−−−−−−−−−−
[From]香織
[Title]Re:ば〜〜か
−−−−−−−−−−−−−−−
なんだ、今まで寝てたのかよ。オ
マエよく寝るな〜〜!ま〜、話は
まじで覚えてない!!すまん・・・
。
−−−−−−−−−−−−−−−
「よし、これで完璧!!」
慶は返信した。
5分後
−−−−−−−−−−−−−−−
4月30日 14:33
[From]香織
[Title]そっか
−−−−−−−−−−−−−−−
ケイは相変わらずバカで単純だね!
そんな所が好きだったんだけどね!
でもね、少しは気を使いなさい気を。
例えばさ、
「もしかして遅くまで俺の返信
待ってたの?」
とかさ〜〜、あってもいいよね〜〜
普通・・・。
あとさ、メールにはね「改行」入れた
方がいいよ!
ケイのメール読みにくい・・・。
−−−−−−−−−−−−−−−
「なんだこりゃ・・・」
「いきなり説教かよ・・・」
−−−−−−−−−−−−−−−
[From]香織
[Title]Re:そっか
−−−−−−−−−−−−−−−
あらそうですか。ごめんなさい。
改行を少し入れてみました。
これで宜しいでしょうか?
まー俺のせいで眠れなかったわけだ。
そりゃ〜〜ごめん、ごめん。
正直スマンかった。
−−−−−−−−−−−−−−−
と、昨夜の調子で香織へ返信した1分後
−−−−−−−−−−−−−−−
4月30日 14:42
[From]香織
[Title]わかりました
−−−−−−−−−−−−−−−
ば〜〜〜〜〜か!!
もういい。
−−−−−−−−−−−−−−−
「なんだこれ??」
「キレたか・・・」
こうなると雰囲気が悪く、慶も香織にメールを返信することができなかった。
結局、これから数週間はメールも電話もやり取りがなかった。




