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性善説  作者:
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吃音症


喋る際に、円滑に言葉を発することが困難な症状。吃音、どもり症。吃音矯正で改善が試みられるほか、小児の場合は自然治癒する場合も多い。


「それでは続きを、イサナ君、読んでください」

 当てられたイサナは教科書を両手で持ち、ゆっくりと立ち上がる。

 声に出す前から注目が集まっているのが分かり、何人かは笑いをかみ殺しているような表情をしているように感じる。

「じゅ、じゅうう、じゅういちがつ、の、よ、よ、よるを、よる、を、こめ、こ、こ、め、て」

 頭のなかでは「十一月の夜をこめて」とはっきり読めているのに、声に出そうとすると言葉がおかしくなる。

 音読するときに声が小さい子はいっぱいいるけれど、イサナのようにどもってしまう子は他には誰もいない。

 どれだけ真面目に読んでいたって周りの子からしたら可笑しいのだろう、クスクスと笑い声が聞こえてくる。それでもっと緊張してもっとうまく読めなくなる。


 給食の時間。

 楽しそうに食べながら喋っているクラスメイトの中で、ほとんど一言も発することなく黙々と食事をすます。

 話を振られることもあるけれども、ほとんどがイサナをからかう内容ばかりで、意味もないのに「うん」と、小さくうなずきながら返事をするだけで会話にはならない。

 給食の片づけが終わり昼休み。

 いつものように図書室の入り口から一番遠い席に座り、少しづつ読み進めている少年探偵団シリーズをいつものように読む。

 怪人二十面相と少年探偵団が知恵を絞らせながら戦う物語は、うまく返事ができないイサナにも分け隔てなく世界を吹き込んでくれる。まるでイサナも少年探偵団の一員になったかのように思考を巡らせ、怪人二十面相を捕まえるためにどう動くかを考える。

 きっと本当に自分が物語の状況に出くわしても、きっと思った通りには動けないし、しゃべれない。

 それでもイメージの中だけでも自由に話すことができるのが、イサナの読書を好んでいることの大きな理由だった。


 チャイムが鳴り、昼休みが終わった報せで物語から急に現実に引き戻される。

「本を読むなら教室でもできるでしょ?チャイムが鳴るまでに、しっかり次の授業の準備をして教室にいてください」

 先生からはいつものように注意を受けて、少しうつむきながら自分の席に戻る。

 休み時間の教室は騒がしすぎて、本を読んでも集中できないから図書室にいるんです。先生も騒がしい中でテストの採点をしてみてください。きっと、すぐに職員室に戻るにきまってます。

 心の中でそう愚痴りながら、教科書とノートを開いて授業を聞くふりをする。


 どんなに真面目に授業を受けたって、どうせ自分は他の人みたいに普通には話せない。

 そんな人間が、なんの意味があって学校に通って授業を受けているのか。イサナには全くわからないことだった。


 

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