7.紅蜜の姫と玉伯公の過去のお話を聞かせてもらいました。
少し長いかもですが、ご容赦を!
「では、妾と雷獅から話させてもらおうかの」
◇◇◇
妾は300年から少し前、親に売られ吉原の遊郭で働いていおった。まぁ、妾の身は一度たりとも抱かれることは無く、芸で売っておったでな。その時の名は浅緋であったかの。
「浅緋!客だよ!お得意様だ!!琴か三味線か、どちらでも良いとお客は言ってるよ。どっちが良いね?」
振り返った浅緋は、鮮やかな朱色の衣を纏い、紅をさして幾つもの簪を禿に飾ってもらっている。まさに、「美」を形にしたような女であった。
「はいよ。じゃあ、琴にするわ。翠、準備なさい、龍の部屋においてあろうから」
妾は、吉原で次の花魁になるために太客に金をつぎ込ませ、準備をしておった。正に完璧になるための準備じゃな。・・・しかし、妾には幼き頃から視えてはならぬ者たちが視えておった。
(おお、やり手バァにまた憑いておるなぁ。あやつはよう女達に恨まれる)
「やり手バァや」
「うん?なんだい!」
「また、憑いているよ」
やり手バァは驚かなかった。
「ああ、だからかい。近頃ねぇ、蜜子花魁の太客が体調を崩してしまって見受け話が延期になったんだよ。祓えるかい?」
「ええ。睡、扇と塩とっておいで」
「分かりました」
少しして、睡と呼ばれる禿が塩と扇を持って帰って来た。タイミングよく翠も。
「持ってまいりました」
「ありがとうね」
妾は扇に軽く塩を振り扇を顔の前で広げた。
『汝、彼の者に憑かんとしゆる者。急ぎ立ち去り我が元に入れ』
唱えた瞬間やり手バァから黒いモヤがゴォッと立ち上り、扇に入った。
「終わりだよ」
「ああ、ありがとねぇ。それじゃあ、行くよ」
「分かってるよ」
その日、妾は琴と茶引きをして仕事を終えた。丁度その頃蜜子花魁の見受けが確定したとやり手バァがそれは嬉しそうに話しておった。
「それでねぇ、次の花魁は浅緋、あんたに決まったらしいわよ」
仲の良い同い年の同僚が言った。
「そうか。それはとても良かったのぉ蜜子」
そう、その同僚は見受けの決まった蜜子花魁であった。
「全く、浅緋さーその喋り方直しよ?いつもは気ぃつけておるみたいやけどな」
蜜子はとても気づかいのできる娘だったの。しばらくして、蜜子花魁は見受けされ、妾には「紅蜜花魁」という名を与えられた。そして、その日は初めての花魁道中であった。あの時のことはよう覚えておる。これぞ吉原だと思うたものよな。向かいよった先は、お偉いさん方の宴であった。
「おお!これが噂の浅緋花魁かぁ」「美しい・・・!」「今日は花魁が舞ってくれとな!楽しみで仕方がないわい」「花魁かぁー、いくらかかっているのやら。光久様も金持ちだな」
(なるほどのぉ。光久とかいうやつが妾をここえ寄越しおったのか)
「皆の方!今宵、この浅緋花魁が舞って御覧に致しましょう。さして、皆の方にはいざっ!楽しんでいただきとうございます」
妾は、その言葉をきっかけに舞を始めた。宴に似合う明るく軽やかな舞を踊った。最近の外国の舞を少し含ませた舞、「紅蜜の舞」を。
舞終われば、妾が受け取ったのは割れんばかりの拍手。
「やはり美しい!!」「なんてことだろう」「光久様も粋なことを」「浅緋花魁!あっぱれであるぞー」
すると上座に座っていた殿方が話しかけて来た。
「浅緋花魁!!美しい舞であった。しばし私に付きおうてもらいたいのだが・・・よいか?」
それが、こやつ。玉伯公、もとい雷獅との出会いであった。
わははは!!あの時は俺も緋ゐろも若かったころだな!
うるさいぞ!しばし黙っておれ。まぁ、そういう事で妾は光久に呼ばれたわけじゃ。
「主さん、何用でござんしょう?」
「うむ。貴女は私に憑いておるものが視えるか」
「何のことでござんしょう」
光久にはの、体に覆いかぶさるよに巨大な怨念を持つモヤが憑いておったのよ。
「しらばっくれるでないぞ、花魁。私は知っている」
「・・・・・・ええ。視えておりますよ。しかし、主さんは何故わっちが視えることをご存じで?」
光久のやつは、妾が少し睨んでも笑っておった。ほんに腹の立つ事をする者じゃよ。雷獅、お前は光久の頃より少しはましにならんのか。
いやーっはっは。俺は成長するという事が苦手でなぁ!!言葉遣いなどは昔の方が出来ておったがなぁ。
「簡単だ。貴女は私の顔・・・厳密に言うとすれば、私の背後を見てほんの一瞬、眉をひそめただろう?私自身、何かが憑いていることくらい知っていたからな」
「で、わっちに何用でしょう?ただ舞に見惚れた、というわけではありますまいに」
「ふむ。実際貴女の舞は目を見張るものだたぞ?だが、その通り」
光久は札を懐から取り出し、妾と光久の丁度真ん中においた。それは結界術の一種に思えた。妾も結界術・・・と言ってもごく簡単なまじないのような結界術を使っておった故にすぐ分かった。
「これは目隠しの結界。故にここで話した事は公にはならない。だから、腹を割って話しをしよう。紅蜜花魁、いや、浅緋殿?」
「く、くくく。面白いのぉ、光久殿。よいであろう。貴殿の話、聞かせて貰おうではないかえ?」
光久のやつは、妾が口調を変えても何もないように笑っておった。これだけでもこやつが妾をずっと見てきた事が目に見えおる。
「良い返事をありがとうございます。・・・では、本題を。これから俺は貴女を見受けする。そして見受けしたあかつきには、私と化物狩りをして頂く」
妾は、こいつが何を言っているのか分からずにおった。故に詳しく話を聞けば、化物とは河童や雪女、悪霊など事を言うらしく、それを狩ることができるのは霊的な才がある者だけらしく、妾にはその力があると言いおった。
「で、なぜ妾なのかえ?他にもその霊的な才を持つ者がおろう?」
「ああ、貴女は他の奴らと違うと思ったんだ。まぁ、こんな事はどうでもいいからどうする。見受けされるか、されまいか?」
まぁ、聞かれるより前からもう決めていた。
「妾は貴殿の、光久様の下に参ろうではないか」
「・・・分かった。ああそれと、俺の元名は雷獅という」
この時代、人々は貴族も平民も産まれた時と成長後で名が変わる。故に
「そうか、妾は紅蜜やら浅緋などと名はあるが。妾の名は緋ゐろじゃ」
「うむ。では緋ゐろ、貴女はしばし戻って私が見受けするのを待っていろ」
(ふんっ。なかなかに苛立つような事ばかりするやつじゃ)
まぁ、そういう事で妾はこいつと契約した。
妾は妓楼に戻り、相変わらずの日々を過ごして少ししたころ。
「紅蜜!!見受けだよ!!!!!」
というやり手バァの報告で見受けを知らされた。そして、見受けの日当日はそれはもう豪奢な賑わいであった。妾は雷獅の館に向かい、挨拶をした。
「歓迎する!緋ゐろ!!」
「よろしゅう」
◇◇◇
「それからは目まぐるしかったの。化物狩りを学び続け、狩り続けたなぁ」
「ああ!!しばらくして紺や紫檀公に出会った。ていうのが俺らの過去だ」
「では、次は私の昔話でも」
どうも、金木犀 稜です!(今回はキャラのミニコメはないんです。過去編なので)
今回は緋ゐろちゃんと超天災ゴリラの雷獅くんの過去でしたー!
色々設定考えるのが大変でしたが面白かったです!
まぁこれだけで終わりもなんなので、少し小話を。
妓楼のやり手バァの娘は蜜子花魁です。彼女はこのことを知りません。ですが、やり手バァは娘の見受け相手はとても厳しい目で見ています。それがやり手バァなりの愛情でした。
それでは!ブクマ等々応援お願いします!!
ご拝読ありがとうございました。