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無能と呼ばれた神殺し  作者: 烏の人
3/3

追放-3

 並ぶ死体。それを眺め、なにも役に立たなかったナイフを手に取る。死ねなかったのならここで死にたい。


 死にたいはず。


「死にたいはずなのにな。」


 これは恐怖なのか、それとも怒りか。なんでテメェらだけ勝手に死んでんだよ。俺も殺せよ。あの役立たずのサンドワームめが。

 そのナイフを手首にあてがった。


「無能なんて死ねばいいんだろ?」


 その手首を刃で撫でようとした。ふと思い出したのはとある言葉だった。

【我思う故に我あり】

 なぜその言葉が今?関係ないと割りきろうとして、思考が勝手に働く。


このままで良かったのか?


嫌だ。


 嫌だ。俺はこんな死に方をしたいんじゃない。ここは俺の死に場所じゃない。やるならもっと派手に死んでやる。俺は今、ここに存在できているのだ。それだけは疑うな。


「はあ、そうかい…。」


 どかっと座り込む。俺の殺したクラスメイト、26名。この国の兵士17名。正直名前もほとんど覚えていない。悲しみもなければ自責の念もない。死に神になり損ねたわけだから、俺は本来の仕事をする。


「弔いか…。」


 そうして座ったままそれらを見つめる。布を被せられたそれらは静かに横になっている。

 そうして弔いをしようとして思い立つ。


「こいつら…俺が殺したわけだ。なら俺が弔ってもいいのか?」


 憎いからやった。それだけだ。だからこそである。この世界での弔いと言うのは、死体から発せられる魔力、霊力による二次災害を防ぐものだ。だからまあ誰かがしなくてはならない。


「まあ、向こうと意味合いが違うわけだからいいか。」


【天に昇る魂─────】


 そこまで詠唱して、ふと思った。あの撫でるような冷ややかな空気。あれはおそらく、解き放たれた霊力。

 そして詠唱とは…己を信じて発する言葉。俺が唱えようとしたのは解放のための詠唱。そんなものがあるのなら─────。


【魂魄 我が身に纏う

 溶け 混じり 己となる

 永久の黄泉たる我が身にて

 その力 その想い 我が物とする

 我が想いこそ我が力 我が力こそ我が想い

 それをもって弔いとする】


 口走った詠唱。それは自然と出てきたもので自分でも何を言っているのかはあまりわかっていなかった。そのはずなのに、意味だけは漠然と理解できる。


 冷たい空気が俺に纏わりつく。やがて、それが自分の中にあるなにかと混ざり合うのを感じる。自分が自分ではないような…なにか俯瞰した視点に立ったようなそんな感覚。自分でもよくわからない。


「なんだ…これ…。」


 ただ、どこか体が軽い。もっとやってみるべきだな。


 全ての死体にそれを施し終えたのは、数分後のことだった。驚くほど体が軽い。視界もクリアでよく見える。心も先に比べれば少し軽い。それこそ、何もかもどうでも良くなったように。


「弔い…これほんとに弔いなのか?」


 ふと疑問に思った。どう考えてもこんなもの強奪にしかすぎない。理屈はわからないが、俺は今こいつらの霊力を一身に受け取ったと言うことだ。これさえも弔いとなる…まあ意味合いが違うので感覚にギャップを感じるのは当然か。


「んま、あんたらの力はもらってくよ。」


 そうは言っても、ほんの少し程度なもんだ。霊力でどれだけ強くなるかなんてたかが知れている。今の俺だって、さっきまでの俺より強くなった程度。俺のクラスメイトのようにチートじみた力は今の俺にはない。もっとも…誰かが死ねばそれだけ俺が強くなると言うのもまた事実な訳だが。

 だからって勝てない戦を仕掛けるわけではないし、むやみな殺しはたぶん本当に人間性を損なうので止めたい。


 そうしてひとしきり、弔いを終えた俺はそいつらのもとをあとにした。


「仕事は終わったか?」


 そう声をかけてきたのは龍馬だった。


「勇者がなんの用だよ。」


「お前、何で戻ってきた?」


「何でって、まるで俺だけ死んでりゃよかったみたいな言いぐさだな。」


「そうだろう?お前が一番無能だったんだ。お前だけ死ねばよかった…!あいつらが死ぬことなんて無かったんだよッ!!」


 その言葉と同時に振り下ろされた拳。前までの俺だったらもろに食らっていた。だけど─────俺はそれを間一髪で避ける。


「…?」


「あぶねぇな。お前に殴られたら本気で俺が死んじまうだろうがよ。」


 それだけ言ってその場を去る。


「んで…よけれる…?」


 そんな呟きが聞こえた気がしたが特に気にはしない。だが、やはりこれで実感できた。俺の強くなる方法は見つけた。


「いやぁ…笑えねぇな。」


 それから2日…俺は生き残った奴と共に過ごしたが、やっぱり奴らの目には耐えられなかった。あんな睨まなくてもいいだろうに。ほんの少し、道連れにしようとしただけじゃねぇか。器の小さいやつらだ。

 結果、俺は自らの意思でその砦跡地を後にする決意をした。


 行く宛なんて無いが今度は少なくとも広野側ではない。王都の方を目指す。特に目標があるわけでもないが、まあ自由気ままにいきれればそれでいい。


 そうして、砦壊滅より4日目の明朝。俺は静かにその場所を後にした。まあ、俺がいない方があいつらもいいらしいしな。さてと…まずは手始めに─────。


「あいつらを殺す算段でも考えてみるか?」

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