追放-2
追放
至極当然の結末だった。納得なんてしてねぇけどな。クラスの目が怖かった。誰も彼も、人を見る目をしていなかった。まるでこれが殺したとでも言いたげなあの目。
味方なんていない。みんな、悪役が欲しかったんだろう。俺はそれに対してちょうど良かった。無能な俺は言われるがままな訳で、あのクラスの最底辺な訳で…いてもいなくてもいい存在な訳で。
もう全部がどうでも良くなった。初めてこうして、戦地となった広野を踏みしめているかもしれない。1人、夜空を見上げ考える。
俺は、このまま死ぬのか?
それがよぎる。まあ、別に死んだっていいだろう。特に誰かが困るって訳でもないんだ。合理的に考えて…どうでもいいなら切り捨てようと変わらない。いや、どうでもいい訳じゃねぇか。あの場にいたら俺は『迷惑になる』訳で。
なら死んだ方がいいや。
「死んだ方が…。」
呟く。漠然と疑問が涌く。なぜ俺が死んだ方がいいのだ?いやいや、さっき結論は出た。あいつらにとって迷惑になるのだから、死んだ方がいいのだ。戦火によって命を落とした4人目になった方がいいのだ。
「あいつらに迷惑がかかるから俺が死んだ方がいいって言うのなら…あいつら全部死ねば、あいつらは迷惑しない訳で。いやいや、なに言ってんだろうな。俺。」
きっと、俺も気が動転してる。そうだ。クラスメイトが死んだんだ。そりゃあこうなって当然な訳で…仕方ないんだ。
「本当にそうか?」
疑問を問いかける俺の体。おまえはあの時、なぜ吐いた?死体が気持ち悪かったからだ。なぜ恐怖した?自分を守ってくれるものが1つ、減ったからだ。
「てめぇはつくづく…ガキだよな。自分の身くらい、自分で守れよ。無能が。」
それだけ吐き捨て、行く宛の無い足を動かす。持ってきたのはナイフ1本と携帯食を少し。どうにもこうにも…マジで死ねと言われてるらしい。
「お前らが死ねば、楽なのにな。」
夜空の下ポツリと呟いた。
地面の揺れに気がついたのは、そんな時だった。
「なんだ…もしかして魔物!?」
夜行性の魔物か!?だけどこの地域でそんな魔物はいないって…。
まさか…誰かに操られているとか!?それこそ話に聞く【新たなる魔王】…!?
ひび割れた大地からその巨体は姿を表す。
「サンドワームか…!」
だが、でかい…記述で見たサンドワームはせいぜい3メートルがいいところ。だけどこいつは…明らかにそれ以上…倍以上あるぞ!?
迫り来るその巨体をギリギリで避ける。なにも訓練していなかったのが祟り、それだけの動作でも疲れを感じる。
「どうすんだよ…こんなナイフ1本で…。」
いや、いやいや、違う。俺は死ねって言われている身だ。やつらはこれを望んでた俺が死ぬのを。
ならいっそ。
ふと振り返る。砦まではそう遠くない。
「死に神ねぇ…。」
昔から、心に決めていたことがある。死ぬならせめて誰かに俺がいた証を刻み付けたいと。誰でもいい。どんな形でもいい。どうせ死ぬのだから、俺には関係の無い話だ。
「本物の死に神も悪くない。」
気がつけば砦に向かって走っていた。駄目なのに。いや、駄目ってことはない。死ぬなら関係ない。これはこの世界から去る無能弱者のささやかな抵抗。俺は今非常にやる気に満ちているのだ。
その攻撃を死ぬ気で避ける。興奮状態なのか、多少転んでも痛みは感じない。それどころか妙な高揚感さえある。
火事場の馬鹿力か、あるいは単にそう錯覚しているだけか。今の俺は誰よりも早い気がした。今なら、真っ向から龍馬と戦っても勝てそうだ。
迫り来るそいつの動きが良くわかる。俺は今どうにも楽しいらしい。砦は眼前。このまま、突っ込む。全部全部、ぶち壊す。みんな死ねば、みんな嫌な思いはしない。
ボロボロの体。何度か、転び口の中を切ったり、足を捻ったりもしたが…不思議とどこも痛くない。
その砦から、人影が出てくるのがわかった。魔法での迎撃準備がされてることも。このサンドワームの耐久にも寄るな。耐えてくれよ。俺の為に。
初撃が飛んでくる。その魔法を見切り、躱すようにサンドワームを扇動する。あと50メートル。歩兵が走ってくる。好都合だ。
距離は縮む。これなら、魔法の二撃目が来る前に衝突だ。
高まる高揚感。縮む距離。
そうして俺はその群衆に飛び込んだ。
─────その事件は数日の間に広まった。あのサンドワームは突然変異により誕生した異常種と結論付けられ砦の崩壊を招、召喚された勇者達には絶大なダメージを与えた。生き残った勇者は10名のみとなった。
いかんせん、深夜における襲撃だったこともあり勇者達は万全ではなく完全な奇襲により戦線は崩壊した。【新たなる魔王】にとっては思わぬ朗報であっただろう。
さてと、死んだと思っていた俺であるが。生きている。奇跡的にあの地獄のような現場から生き延びたのだ。最悪である。こうなるとわかっていたなら、俺はこんなことはしなかった。生き残ったやつらからすれば、恐怖に発狂して逃げてきたように写っているわけだからその視線は嫌悪だけで済んでいる。
その実は違うとも知らずに。俺は今、俺の殺した奴らと対峙している。
「結局こんだけか。」
まあ上々の戦果だろう。あぁあ、死んでしまおう。
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