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九十九話 母は医師に、フェイは私とアーロンと

 私がここで泣くのは、なんとなくダメなことかと思って耐えていた。

 だって、私よりももっとツラいのはフェイやお母さんたちなのだから……。

 なんとなく遠くからでも様子を伺っていたらしく、フェイの泣き声も少しずつ落ち着いてきて、母親の方も落ち着いてきた頃になってアーロンが数人の兵士さんたちと一緒に戻って来た。アーロンは、戻ってくるなり、私の肩を軽くぽんぽんと叩くと一緒にやって来た兵士さんたちにフェイの父親の亡骸を大切に包むように大きな布で体を包んでいった。傍から見ていると本当に父親は眠っているようにも見えたけれど、着ている衣類の端から覗く手足というものは一般的な男性のモノ!?とは思えないほどに細くなってしまっていて、きちんと食べることも出来なかっただろうし、まともに動くことも難しいまま最期を迎えてしまったんだろう。


 もちろん母親やフェイに対しての気遣いというものも忘れていなかったらしく、新たに持ってきた毛布を母親にもフェイにも包み込むように掛けながらアーロンは一言二言を二人に掛けていった。


「……城の脇に、帝国で亡くなった人たちを弔う場所を設けていますので、そちらに。……彼の名は?」


「……ジェームズ、です……」


「ジェームズ。はい、確かに……後日、彼を弔う場所に我々も花を置かせていただきます」


 アーロンは淡々と母親に説明していたのかもしれないけれど、やっぱり心の内としてはツラいんだろうなあ。表情は穏やかなものを浮かべていたものの、しゃがみこんでいたときにちらりと見えた片手は痛々しいほどにぎゅっと握り拳を作られていたものだから、こうして他者を弔う説明をすることだって初めてではないだろうに、それでも帝国にやって来て、過ごしていた者は誰一人として忘れない、とでも言いたそうな覚悟を見られたような気がした。


「足の方も一度きちんと診てもらった方が良いでしょう。取り敢えず、広場に運んでいただけますか?もちろん、フェイも一緒に、ね?」


「……あ、えっと……」


 兵士さんたちは足を悪くしている母親の体を労わりつつ丁寧に運び、続いてフェイのことも抱っこして運ばせようかとアーロンと相談し合っていたようだったけれど、その際にフェイは戸惑ったように私にちらりと視線を向けてきた。


「?どうしたの?……大丈夫。広場には、優しい人たちがいるから一緒に助けてもらいましょう」


「……その、近くに僕と同い年ぐらいの女の子もいたはずなんだけれど……」


「女の子?」


 フェイは、ここで過ごしていくうちに同年代と思わしき女の子と知り合い、友達になったらしい。でも、今のところそれらしき姿を探そうと周りをきょろきょろと見渡していくが、フェイと同年代ぐらいの女の子の姿は見られないのよね。


「外見は……えーっと、どんな見た目をしている子かしら?髪は短いとか長いとか……何か特徴があるとか……」


 フェイも母親も、もちろん父親も髪色は金髪。だが、裏通りでの生活が長かったせいか金髪もだいぶ色が悪く見えてしまっているし、髪そのものも痛んでいるんでしょう……これから、きちんと栄養を摂っていけば大丈夫よ。キラキラな金髪になって、健康的な髪質に戻すことが出来るわ。


「えーっと……髪は、肩ぐらいまでで……あ、瞳は紫がかった色をしていたよ」


「紫?」


 金髪に、いろいろな瞳の色を持つ人たちと出会えてきているから瞳の色は結構、色彩が豊富なのね……と考えつつ、ここにきて紫の瞳を持つ女の子がいるのだと説明を受けると是非ともお会いしてみたいわね。


「その子も、ここら辺で暮らしているのかしら?」


「あ、いや……えっと……ちゃんと、お家があるらしくて……たまに、ここに来ていろいろなお話をしてくれていたんだけれど……」


 あら。だったら城下町に家がある子なのかしら?瞳は紫らしいし、珍しい瞳の色ならばエマさん辺りにでも聞いてみれば探せるかもしれないわね。


「大丈夫。その子と離れ離れになるわけじゃないわよ?ただ、ずっとここにいるわけにもいかないから……まずは、きちんと栄養と、安心して眠れる場所に移動しましょう?」


「……あ、うん……」


 フェイは、ここを離れることに寂しさのようなモノでもあるのか、なかなか素直に首を縦に動かそうとはしなかったけれど、私が両手を差しだしていけばゆっくりと片手を差し出して握り返してくれた。これで、フェイも広場に移動させることが出来るわね。


 広場に戻ると、意外にも豚汁は大人気だったようで多くの人たちが広場のあちこちに腰を下ろしてホカホカの湯気を立てながら豚汁を口にしていた。でも、やっぱりどちらかと言うと城下町に家を持ち、普通の生活を送ることが出来ている人たちが多いわね……。以前、私に文句を飛ばして来たような貧困層の人たちはなかなか広場に来ることも難しいのか、それとも躊躇しているのか……なかなかに姿が見られない。


「あ、お二人とも!お帰りなさい!レンの豚汁は大好評ですよ!」


 私とアーロンがフェイとともに広場に戻って来たことを確認したラウルがぶんぶんと大きく手を振りながら近くに歩み寄って来てくれると城下町の人たちの口には合ってくれていたようで、次から次へと……そして、なかには『おかわり!』を求める声もあったものだから存分に振る舞ってあげているみたい。こういうとき、多くの人の手を借りてきて良かった!と思ったわね。私一人だったら、今頃てんやわんやになってしまっていて対応が取れなかったと思うし。


「ありがとう、ラウル。そして、お疲れ様です。……フェイも、まだ落ち着いて豚汁……えーっと、煮込みスープを食べていませんでしたよね?ラウル、良ければ……こちらの、フェイにも用意出来ますか?」


「はい!もちろん!」


 まだまだ知り合ったばかりだし、お互いのことは知らないことが多いのだけれど、フェイの小さな手はしっかりと私の片手と繋がれている。こうしていると友達?うーん、ちょっと歳が離れた弟でも出来た気分っていうのかしら?さすがに、親子には見えないかもしれないけれど……。それでも、嫌なら手すら握ってもらえないと思っていたものだから、しっかりと手を握り返してくれているフェイにはついつい口元が緩んでしまう。


「お待たせしました!レンや殿下たちも少しお休みになられますか?」


 ラウルはフェイ用に、お椀に入った豚汁を運んで来てくれたけれど出来れば一人で……とは、いさせられないわよね。母親も専属の医師に診てもらっているようだから離れ離れになってしまっているし……さすがに今出会ったばかりのラウルに任せるっていうのもちょっとどうかと思うわよね。


「……そうね、私とアーロンで少し彼のそばにいます。お仕事お任せしてすみませんが、炊き出しの方、よろしくお願いします」


「いえいえ!お任せください!」


 多くの市民とのやり取りを繰り返しているだろうに、そんな疲れを微塵も感じさせることが無い様子でラウルは再び炊き出しをおこなっている場所へと戻って行った。

 私は、フェイを落ち着いて座らせられる場所に連れて行くとアーロンと一緒になって広場の地面……といってもコンクリートみたいになっている場所だったし、そこまで汚れているような場所ではなかったから特に気にすることなく座り込んでフェイも隣にちょこんと座るとゆっくりと私から差し出された豚汁……煮込みスープを口にしていった。


「!具が、いっぱいだね……」


「そうよ。いろいろな具材をいーっぱい詰め込んだモノだもの。それを食べて、少しでも元気にならなくちゃね?」


「……そうですね。フェイが元気になればあちこちの店、もしくは城で手伝いが出来るようになります。そうすれば母親と一緒に安心して暮らせるようになりますよ」


「あ。……お母さんは、ずっと歩けないのかな……?」


 こればかりは医師の判断待ち……になってしまうけれど、どうなんだろう?アーロンの表情を伺っていくものの、今はなんとも……と困った顔をされてしまった。栄養失調とかで足が不自由になっているのであればゆっくりと休養と栄養を摂ってもらって、少しずつ歩く訓練とかもしていけば良いわよね。でも、骨そのものとかに異常があるようなら……もしも可能ならば、デスクワークとかも良いかもしれない。


「それを確かめるためにも、フェイにはこちらを食べてもらわないと。……苦手な野菜とかはありませんか?」


「……うっ……人参、苦手……」


「おやおや。好き嫌いはいけませんよ?キミぐらいの歳の頃から好き嫌いをしていると大きくなれませんからね」


 少しばかりからかうようにアーロンがフェイの頭を撫でながら話していくと、フェイは顔を歪めながらも我慢して野菜諸々も口にしていくと一杯の豚汁を食べきってもらえた。よしよし、いい子ね!

 まずは、フェイ一家を安全圏に連れて来ることが出来たでしょうか。もちろん貧困層の人たちは他にもいるようなので、他にも探したり、声を掛けていく必要がありそうです(汗)


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