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九十八話 目にした現実

 『フェイ』という少年に案内されるまま私と、アーロンは裏通りの方へと向かった。

 別に裏通りって言っても、そうそう広場から離れているわけじゃないわよ?

 ちょっとした階段とかがあって、それを下りて行った先……。フェイが先導して連れて来てくれた先には、何処ぞの家の軒下みたいな場所にぐったりと横になっている二人の男女がいた。フェイが近寄ってそっと声を掛けていくってことは、この二人がフェイのお父さんとお母さんらしい。……が、なんだか不穏ね。


「フェイ、お父さんとお母さんは起きられそう?」


「……お母さんは、なんとか……でも、お父さんが起きなくて……」


 フェイは必死になって横になっているお父さんとお母さんらしき人に声を掛けていけば、先に目を覚ましたらしいお母さん。でも、その人は体全体的に痩せ細っていて例えるならば小枝のような手足をしていた。栄養どころじゃなくて、まともな食事をどれぐらい食べることが出来ていないんだろうか……顔もげっそりと骨格が見えてしまっているほどだったからこれは豚汁どころの騒ぎじゃないかもしれない。

 アーロンとゆっくりと近くに歩み寄って道端に膝を付きながら様子を伺っていくものの私やアーロンの存在ってきちんと視界に入れることが出来ているのかしら?ここにいるのが、第一王子様だってことも分かっている?もしかして、分かっていないのかもしれない……。


「もう少しこちらへ……食べ物は、固形物は食べられそうですか?」


「……ぇ、えぇ……な、んとか……あなた、がたは……?」


「……今、広場にて炊き出しをしています。その手伝いをしているんですよ」


 ちょいちょい、とアーロンを手招きしていくとまず先に上半身を起こしてもらえたお母さんらしき人物にそっと豚汁の入ったお椀とお箸を差し出すものの、一瞬目を丸くしたかと思えば申し訳無さそうに首を左右に動かされてしまった。


「わたしたち……お金が、無いものですから……」


「これは、お金は必要ありません。どうか、一口でも良いのでゆっくり食べていってみてください」


 まだホカホカと湯気を上げているお椀の中身を覗き込むと不思議そうに私やらアーロンやらの顔色を伺いつつ細い両手で包み込むようにお椀を持ち、お箸も手に取ってもらえるとゆっくりではあるがなんとか口にしてもらうことが出来るようになった。


「……あたたかい、ですね……」


「はい!出来立てですから!まだまだありますからね!」


「あ、いえ……もちろん、こちらの料理も温かいのですが……あなた方のような人がいるなんて……知りませんでしたから……」


「……帝国に来てから、長いのでしょうか?」


 ここへ来て、ようやくアーロンも口を開いて母親にたずねていくものの、少しばかり気まずいのか表情が強張っているように見える。だって、ここまでの生活をしている人たちがいるなんてきっと把握出来ていなかったんでしょうね。だからこそ、責任を感じているのかもしれない。


「……この子が、もっと幼い頃に逃げるようにやって来たのが……帝国でしたので……三年近くになるかと……」


「失礼ですが、帝国に来る前にはどちらにいたのです?軽く見たところあなたも……そして、そちらの父親らしき男性も足を不自由しているとか……戦にでも巻き込まれたのでしょうか?」


 未だにフェイは父親らしき男性に向かって声を掛けているものの反応が見られない……あまり、考えたくはないことだけれど、死んじゃっているとかって言わないわよね……?ずっとここで生活し続けていたのだとしたら衛生面だって良くはないでしょうし、近くに助けてくれる人がいたのならここまでの状態にはなっていなかったでしょうし……。


「南の、方から……戦よりもよっぽど酷い状況になったんです……作物が実らず、雨も降らず……一人、また一人と村から逃げて、あちこちの国に逃亡したと……聞きます」


 ゆっくりではあるものの、なんとか豚汁を口にしてもらっているお母さんに少しばかり安心した。食べることが出来ている。当たり前なことかもしれないけれど、きちんと食べるモノを食べられるってキセキなのよね。


「……村が、死んだのですね……」


「?」


 アーロンの言う村が死ぬ、という意味がよく分からなかった。でも、『クレイン国よりも酷い状況になった村でしょうね』と小声で教えてくれると一気に想像が膨らんだ。もちろん嬉しくない方の意味で。クレイン国も、かなりの貧しい人たちの集まりで出来ているような国っぽかったけれど、それでもそこには貧しいながらも国民たちは農業をしていて笑顔があふれている良い国だった。きっと、それは国の主であるギルバートの存在も大きかったのかもしれないけれど、この親子がいた国は、きっと国の主にもそうそうに逃げられて、国民たちは泣く泣くバラバラにあちこちに散っていったんだと思う。それにしたって帝国に来るまで安全に来られたのか?と聞かれればもちろんそうではないらしい。この両親の足が不自由になってしまったという原因は、道中、魔物だったり盗賊といった輩から盗られるモノを盗られて身一つでなんとか帝国にやって来たんだろう。


「…………お母さん。お父さん、目を覚まさないよ?」


 フェイの言葉に、ギクッとしながら母親よりも奥の方で横たわっていた父親の姿を視界に入れる。雨や風から凌げる場所ってなると、何処ぞの家の軒下だとかに移動するかないものね。でも、フェイ……あなたの、お父さんは……もしかしたら。


「……私が確認を。レンは、こちらで母親とフェイのことを頼んでも良いでしょうか?」


「!は、はい……」


 アーロンは、一旦フェイを母親とともに私のそばに移動させると、横たわったままの父親らしき男性のそばに行けば首元やら口元に軽く片手を添えていくものの、それでもぴくりとも動かない男性の様子に……あぁ、ダメだったのか……と、キュッと唇を噛み締めるしか出来なかった。


 もちろん振り返ったアーロンからは何も言わないままに首を左右に動かされてしまって、男性の……フェイの父親の命は無くなってしまったのだと、改めて確認させられることとなった。


「……残念ですが、こちらの男性は昨日今日亡くなった様子ではないようです。……今は、一刻も早く埋葬してあげることを考えてあげましょう」


「……お父さん、目を覚まさないの?」


「……フェイ……」


「お父さん、お姉ちゃんたちが温かい食べ物を持って来てくれたんだよ?……一緒に、食べようよ……ねぇ、ねぇ!お父さんっ!」


 反応が無いとフェイも分かっているだろうに、それでもなお声を掛け続けるフェイに母親の方は静かに涙を流していた。私もとても胸が苦しくなってしまったけれど、ここで一番ツライのはこの家族たちなのだから私まで涙を流すわけにはいかないでしょう……。


 物静かな場所に、やっとフェイの泣き声が聞こえるようになってきた。父親が亡くなったことを、小さいながらに理解したのね……。

 父親にしがみつきながら泣いているフェイに掛けられる言葉が見つからない……。今まで、ツラい思いをしてきたのだから、これから笑えるように過ごしていけば良い?そんなこと、私の口からは言えるはずがないじゃない。私が帝国であれこれしている間に、この親子は必死になって一日一日を生きてきたんだろう。そして、気付かぬうちに父親の方は死んでしまった。


「……手が足りませんね。一時的に一人にしてしまいますが、レン。……少し、この親子のそばにいてあげてもらえますか?」


「……わ、私でお役に立てるならば……」


「そばに、いてあげてください。人を呼んできます」


 それから、『すぐに戻りますから』と私に声を掛けたアーロンはすぐさま立ち上がり広場に走っていった。この場には、大切な人を失った家族が……それでも、母親もフェイも今は生きている……だったら、生きてもらわなくちゃいけないわよね。


 ぐすぐす、と泣きながらも必死になって涙を堪えようとするフェイには『思いっきり泣いてください。こういうときには泣いて、泣いて。……悲しみを全部吐き出してください。もちろん、お母さんも』我慢することなく泣けば良い、そして母親の方へも悲しければ無理をせずに泣いてください、とつげると、しばらくの間、その場にはフェイの泣き声と、シクシクと泣く母親の声で満たされていった。……お父さん、苦しかったでしょうね、今日まで気が付かなくてごめんなさい……お二人のことは、きちんと面倒をみて幸せにしていきますから、どうか、安心して眠ってください……と心の中で呟くことしか出来なかった。

 貧困層だと、その日暮らしがやっとだ、という人も多いとのことでしたから、きっと……亡くなる人もいたんでしょう。……そうならないために、これから活動していかなければ!きっともっともっと目にしていくのはツラい部分も見えてくるかもしれませんが、まずは受け入れる、受け止めることから始めていかないと!


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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