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九十三話 みんなの食レポは?

 取り敢えず、私が考えている味見役の人たちのために『豚汁』が完成したわ!

 ……マズイって言われたら……そ、そのときはその時よ!

 アーロンとフランは、すぐに見つかったものだから広間に来てもらうようにお願いしたわ。そして、サイモン様も自室にてゆっくりと過ごしていたものだから(きっとフランの看病でよっぽどお疲れになったご様子だったようね……)元気を付けてもらうために料理を作りましたから是非!と声を掛けていくとよろよろと立ち上がって広間に向かってくれた。あとは、同じ女性からの意見も聞きたいところだからラウルにお願いしてみましょうか!それに、鍛錬で毎日体を動かしていることも多いラインハルトのご意見も伺いところね。うんうん、取り敢えず味見役としてはこれ以上ないほどの人選になったんじゃないかしら。


「お、お待たせしました!一応、愛情はたっぷり入れたつもりですが……今回は、料理本来の味見をしっかりとお願いします!」


 温め直した『豚汁』をそれぞれのお椀に盛るとそれぞれ座っている席の前へと運んでいった。やっぱりスープは具材とかは無いもの、もしくはミキサーか何かでペースト状態になっているものばかりを目にし、口にしてきている人たちばかりなので、ここまで具材が丸見えになっている汁物を目にすることも珍しいようで王子二人たちは首を傾げ、ラウルは『良い匂いがしますね!』と早速褒めてくれているものの、サイモン様は疲れた様子で何も言わないまま早くも口を付けていった。そして、ラインハルトは……と様子を伺っていくと……。


「……野菜?いや、肉類も多少は入っているのか?」


 そーっとお椀の中身をスプーンで動かしつつ、スプーンとともに用意しておいた『箸』で食べられるかどうかみんなの様子を伺っていくことにした。


「はい。取り敢えず気軽に用意出来る材料。具材そのものは珍しいモノを使っているとかではありませんよ。何処の家庭にでもあるモノで作っています」


「いただきます……」

 

 ご丁寧にも一声掛けながら口にしていくのは、もちろんアーロンだった。それを耳にしたラウルたちも慌てて挨拶をしていくけれど、あまりにも見慣れない料理に挨拶することさえも忘れてしまっていたのかもしれないわね。


 真っ先に無言でサイモン様から口に付けていったような気がしたのだけれど、彼も無言のまま、じっくりゆっくりと口にしていく。時々、もぐもぐと咀嚼しているのは具材を噛んでいるのだろう。


「ど、どうでしょうか?サイモン様……先ほどから随分静かに召し上がってらっしゃいますけれど……」


「……っ……で、す……」


 ど、どうしよう……余りにも小声過ぎて私にははっきりとサイモン様が何を言ったのか分からなかったわ。近くに座っているラウルやラインハルトたちもはっきりとは耳に聞き取れなかったらしく不思議そうにサイモン様の様子を伺っているみたい。

 まさか、好みに合わなかったとか?……『こんなモノ、例え城下町の貧困で困っている人たちにも出せるモノではありません!』とかってお叱りを受けることになるとかかしら!?そ、それはそれでドキッとしてしまうけれど、今サイモン様ってだいぶお疲れのご様子よね?そんな状態で、私に叱咤することって出来るのかしら?


「……サイモン?どうしました?」


 不思議に思ったアーロンがたずねてくれたものだから私は内心ヒヤヒヤ、ドキドキしまくりだった。サイモン様が料理とか味付けに厳しい人だったりしたらどうしよう……そして、どんなお叱りの言葉を向けてくれるのかしら!?と少しばかり期待もしてしまったのだけれど……。


「お、美味しいですっ!な、何故か故郷を思い出させてくれるような……それでいて体がホカホカするのは単に、この汁物が温かいだけではありませんよね!?疲れた体、そして心にも響くようなこの温かな料理は一体何なのですか!?」


 お、おおぅ……!!

 まさかの、美味しい発言をいただけて安心しました。でも、多少は細かな味付けについて意見が貰えるかと思っていたら、すんごい食レポをしてくれるサイモンに目を丸くしつつも、この味に感動してくれる人がいてくれたことが嬉しくてついつい『ふふっ』と笑みをこぼしてしまった。


「えーっと、私的には『豚汁』と呼んでいます。なかに使われている肉類は豚肉を使っていますが、それよりもたくさんの野菜類を使用しているので一杯召し上がるだけでも多くの栄養を摂ることが出来ると思いますよ」


「豚汁……?初めて、聞きますね……レン様の故郷のお料理だったりするのでしょうか?」


「そ、そんなところ……です。でも、大して難しい料理では無いんですよ。とにかく具材を鍋にぶち込む!そして煮込む!そして味付けをすれば完成出来てしまうという簡単な料理になります!」


 サイモン様から故郷、の話が出ると少しばかりドキッとしてしまうが現代ではごくごくありふれた料理の一つだったものね。ちょっとおかずを作ることが面倒くさいと思ったときなんかには、この豚汁さえ作ってしまえば、ご飯と豚汁だけでじゅうぶん一食分の食事になったわ!


「……美味しいねー……レンの愛情ももちろん入っているとは思うんだけれど、なんだろう……ホッとする味がするっていうか……」


「フラン様もそう思われますか!?実は私もそう考えていたところだったんです。何故かホッとする感じがして……こういうのもちょっと妙な言い方かもしれませんが、母親の味を思い出すというか……」


 フランからもラウルからも取り敢えず美味しい意見をいただくことが出来たみたいね。

 特にフランはスイーツ作りが得意らしいから細かな味にもいろいろと意見を貰えそうだったのだけれど、美味しい美味しいといってしっかりと具材も食べてくれている。ラウルは、母親の味を思い出してしまっているのか、つい感極まってしまっていて涙ぐんでしまっているようだけれど……だ、大丈夫かしら!?


「ラウル、大丈夫?」


「!す、すみません。大丈夫です……別に悪い意味ではなく、その……ホッとしてしまって、騎士団に入りたての頃、厳しい訓練や鍛錬に思うように体が追い付かず焦ってばかりいた私に母が優しく声を掛けつつ私のために料理を用意してくれたことを何故か思い出してしまいました」


 さすがに多くの人の目があるからボロボロと泣くわけにはいかなかったんだろう。それでも、目に浮かんでくる雫を袖口を使ってごしごしと拭き取っていくラウルに、小さく笑みを浮かべてしまった。


 あと、感想を聞けていないのは……アーロンとラインハルトだったわね。


「アーロンとラインハルトは、如何でしょうか?」


「……家庭料理、なのだな?これは」


 物静かに口にしていたラインハルトが不意に口を開いたかと思うとじっと私を見つめてきた。え……あの、結構、真顔で見つめられるとちょっとばかしドキドキしてしまいますが……。


「正直、こういった料理を用意してくれる嫁がいたら家に帰ることが楽しみになると、思う……」


「おや。ラインハルトもなかなかに言ってくれますね」


 それって、美味しいって意味で良いのかしら?出来れば、美味しいなら美味しい。ちょっと味が合わないなら合わないと言ってもらいたかったのだけれど、口には合っているようで安心したわ。アーロンはどうなのかしら?先ほどから他の人たちの意見ばかりに聞き耳を立てているようだけれど、アーロンから直接『美味しい』という言葉はいただけていないはず。……もしかして、ずっとお城で過ごしてきているからこのような庶民風の料理には口には合わないのかしら?


「……その、とても美味しいです。何処にでもある食材でこのような料理が出来るだなんて思いませんでしたし、レンも料理が出来るなんて知りませんでしたからいろいろとビックリすることが多くて……」


 本当は素のアーロンから意見を貰いたかったところだけれど、ここには他にも人がいるものね。どうしても王子様モードで話すことしか出来ないんだろう。でも、取り敢えずこの場にいるみんなからは『美味しい』意見を貰えたようで安心したわ!


「良かったーっ!この分なら、炊き出しはこの『豚汁』を用意させてもらうことで、よろしいでしょうか?」


 もちろん聞いてみたのはアーロンへ。


「!もちろん。この料理なら問題無いと思いますよ。……少々、城下町の方々が羨ましいですが……そこは、目を瞑ることにします……」


 うん、良し!

 材料的にも問題は無さそうだし、特別な何かを使っているということも無いから取り敢えずお城で用意出来るもので作り、城下町で運んで炊き出しをするのが一番良いかもしれないわね。

 改めて少しばかり余った豚汁を自分でも食してみたのだけれど、基本的には塩と醤油で味付けした豚汁に自分でもなかなかに満足のいく出来になったと思うわ。これなら、炊き出しも無事におこなえるかもしれないわね!

 味見、完了~!いいねぇ、私も食べてみたいです!


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