九十二話 愛情たっぷり詰め込んだ『豚汁』です!
味見をしてもらうためにも、今日のお昼か午後ぐらいには一度作ってみんなに食べてもらいたい。
……でも、私が作ろうとしている料理の材料ってここで気軽に手に入るモノだったりするのかしら?
お昼、もしくは午後までには材料を確保して数人分の料理を作り、味見をしてもらおう!もしもこの世界の人たちの味覚が私とズレていたら作り直す必要があるし、そもそも私が作ろうとしている料理の材料は気軽に手に入れることが出来るのかしら?
「では、私はキッチンにお邪魔しに行って来ます!オリーブはここに置いて行くので癒しが欲しかったらオリーブにお願いしてみてくださいね」
「あ、あぁ。分かった……」
アーロンにあれこれ言い残していくと軽く『バイバイ!』と手を振ってアーロンの仕事部屋から出て行った。
そして、何度かお邪魔させていただいている調理場に足を運ぶと、そのシェフ長さんからは『今回はどうなされました?』とたずねられてしまった。まあ、当然の反応かしらね。でも今回は、私はきちんとした恰好をしているし、他のシェフさんたちに見られても何の問題も無さそうね。
「実は、城下町で炊き出しを考えているのですが、試しに数人分の料理を作り、アーロンをはじめとして何人かに味見をしてもらい、実際に炊き出しで出せる料理なのかどうかを考えてもらいたいんです。あ、もちろん私が作りますよ」
「……レン様が、お作りになられるのですか?いや、でも、しかし……」
私自らが作る!と言えばシェフ長さんは目をぱちくりさせつつ、戸惑ったように眉を下げてしまうが大丈夫です!こう見えても簡単な料理であれば問題は無い、はず!
「ご心配なさらず!私、一応簡単な料理であれば作れますから!なので、ここには一体どのような食材があるのか教えてもらっても良いでしょうか?」
「そういうことでしたら。基本的な野菜、魚、肉類はいつでも在庫がありますよ」
基本的な材料は、いつでもある程度の在庫は揃っているらしい。
私が作ろうとしているモノは特別な材料はいらないわ。あくまでも何処の家庭でも揃えられるようなモノさえあれば問題は無し!
「……なるほど。それらを実際に目にすることは出来ますか?」
「えぇ、もちろん」
また第一王子の許嫁がとんでもないことを言い出したぞ、とヒソヒソ話をされているのが丸聞こえだったりするのだけれど、これは城下町で炊き出しをスタートさせるために必要なことだったりする。もしも材料の関係で私が考えているようなモノが不足、もしくは存在していないようだとイチから何を作ろうか……と悩むことになってしまうものね。
一応、私の頭の中では炊き出しには『コレ』!と作るモノを既に決めてしまっている。それは、温かくて、いろいろな具材も入っているから栄養もじゅうぶんに摂取することが出来る料理だったりするわ。
シェフ長に連れて行かれると調理場の奥にはドアがあり、その中には様々な食材が置かれていた。野菜をあれこれチェックし、肉類もチェックしていくと……私は満足そうに、うんと頷くことが出来た。
「すみませんが、もし空いている場所があれば少々キッチンをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「何かお手伝いしましょうか?」
「いえいえ、そんな難しい料理を作る予定では無いので大丈夫ですよ」
私に気を遣ってくれたらしいシェフ長も私が何をこれから作っていこうとしているのかが分かっていないらしく私がいくつもの野菜を抱え、そして肉類も手にしてキッチンの一角に立つと包丁と小鍋を片手に調理を始めていった。
他のシェフさんたちも私が何を作ろうとしているのかが気になるようで遠目からちらちらとこちらを伺い見ているのが分かってしまってついつい苦笑いを浮かべてしまうものの、そんなオシャレな料理では無いんですよねえ。むしろ家庭的というか……簡単だし、誰にでも作れてしまいそうなモノ。
とにかく小鍋に、小さく切っていった野菜類をぶちこんで軽く火を通していくと、同じく一口サイズ程度に切った肉類も切って小鍋に入れて火を通していった。あ、別に野菜炒めを作っているんじゃないわよ!?
体も温まる、そして出来れば人の心も温めることが出来れば万々歳!と考えながら私が調理をしているのは『豚汁』だった。野菜は、手にしていったモノのなかには見たことが無いモノもあったけれど、とにかくいろいろな種類を使って小鍋にぶちこむ。豚肉は当たり前のように在庫があったものだから少しばかり頂戴して小鍋に入れていった。そしてたっぷりの水と調味料で煮込んでいき、味付けをしていけば……うん、それなりに出来たんじゃないかしら!一応、自分でも味見をしてみたのだけれど、ホッと息を吐いてしまうほどに心身ともに暖かくなるし、そして具材の風味もしっかりと感じられる一品が仕上がったわ。
一人でてきぱきと調理をしていった姿を目にしていたシェフ長さんやシェフさんたちは最初はハラハラドキドキしていたようだったけれど(何せ包丁も使うし、火も使うものね)私の手慣れた様子にはそう心配することは無さそうだと思って、何が仕上がるんだろうと楽しそうに眺めていたらしい。
「良ければ、皆さんも味見をしていただけませんか?」
「……こちらは、どういった料理になるのでしょうか?汁物、ですかね?」
「一応、汁物で合っていると思います。でも、いろいろな具材を詰め込んでいるのでコレを食するだけで一気にいろいろな食材も食べられるので栄養も摂れると思いますよ」
小さなお椀に具材と汁を入れて、取り敢えず調理場にいた人数分を用意していくとそれぞれ口にしていく様子をじっと伺っていた。現代では当たり前のように目にしていた味噌らしきモノはさすがにこちらの世界では見つけられなかったので、味付けに使ったのは塩とか醤油だったりする。それでも、たぶんイけるかな?とは思うんだけれど……。
「!コレは、体が温まりますな。それに、レン様がお作りになったせいか、とても美味しく感じられます」
「う、うまいです!一気に体がポカポカしてきました!」
取り敢えず普段から調理を担当されている方たちからは好評をいただくことが出来たので素直に嬉しくなったわ。
「ほ、本当ですか!?良かった。この分でしたらアーロンたちに味見をしてもらっても大丈夫でしょうか?」
「おや、殿下たちにも?もちろんレン様が作られた料理なのですから喜んで口にしていただけると思いますよ」
味見程度にしか、この場の人たちに差し出すことは出来なかったのだけれど、それでもさすがお城でシェフを任されている人たちだろうか、具材はあれかなこれかな、と次から当てていき、さすがです!とついつい拍手を送りたくなってしまった。
「なるべく何処にでもある具材を使って作ったつもりです。ですが、あまりこのような料理は知られていなさそうですね?」
「汁物と言えば、どうしてもスープがメインですからな。このように具材がたっぷりと入っているものはなかなかお目にかかったことはありませんでしたよ」
美味しい美味しい!と調理場にいた人たちからは大好評を得られたので、時間的には……午後かしら。お茶の時間にお茶菓子ではなく、豚汁を振る舞うというのもなんともおかしな話になってしまうかもしれないけれど、午後になるとちょっとしたモノが欲しくなる時間ね。そこでみんなの感想を聞いてみることにしようっと!
「……ふむ。これは、レン様の愛情も詰め込まれているんでしょうなあ。殿下は幸せ者で、素敵な許嫁を見つけていただいて良かったと改めて思いますよ」
「う、ぇええ!?い、いや、それは……」
つい、愛情がどうこう(もちろん料理には愛情たっぷり詰め込んだけれどね)アーロンが幸せ者だと言われると、それって本当に私でも良かったんだろうか?と不思議に思ってしまうが、躊躇いながらも『支えていきたいと思いましたからね……』と照れ臭そうにはにかみながら告げていた。
さて、時間がありそうな人……なるべく一人でも多くの人には食べてもらって意見を聞いてみたいところね。アーロン、フラン、ラウル。ラインハルト辺りも時間はあるかしら?サイモン様も最近までフランの看病でぼろぼろになっていたし、ここぞとばかりに栄養を摂ってもらうのも良いかもしれないわね。
よぉーっし!私の豚汁作戦、そしてみんなの肥えた舌にはびくびくしているものの、こればっかりは食べてもらわないと分からないものね!
主人公が作ったのは、豚汁でした!豚汁は、とにかく、あるだけ野菜をぶちこみ、そこに肉類もぶちこみ!そして味付けをしてしまえば簡単に出来てしまうものです。それに、温かく作っているものなので心身ともに温かくなるのではないでしょうか!?
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