九十一話 レッツ・クッキング!
アーロンも完全に仕事に復帰!
だったら私の悩みを聞いてもらわないとね!
アーロンの仕事部屋に行くことも久しぶり。そして……久しぶりに目にする、机の上にドンッ!と重ねられている紙の塔につい無言になって見つめていたもののアーロンとしては何も気にしていないようでデスクワーク……もとい、椅子に座って一枚また一枚と書類に目を通し、サインが必要ならば適宜必要な処理をおこないはじめていった。
どうやらフランも完全復帰したようで今では前までのように城下町に出向き、今日も新たなスイーツ作りに精を出し始めているという。さすがに食べ物屋さんにオリーブを連れて行くことは躊躇われてしまったようで今ではオリーブは再び私の腕の中、そして膝の上に戻ってきた。気のせいかしら、オリーブの体が以前よりもだいぶ重くなったような気がするけれど……それは、久しぶりに抱っこをするから、と思いたい。
「……アーロン、ちょっとキリが良いところになったら相談したいことがあるので教えてください」
「相談?別にそれぐらいなら、今でも良いが」
「……いえ、さすがにその仕事をしている最中に話すのもどうかと思いますから……」
アーロンの仕事の集中力というものは知っている。そして、例え仕事をしている最中だとしてもちょっとした話ぐらいだったら問題無く受け答えしてくれるということも分かっている。でも、私がこれから相談したいことはアーロンにも一緒になって悩んでもらいたいことだったりするので、それを仕事をしているアーロンに話し掛けるのはちょっとどうかと思ったのだ。
「別にレンの話ならいくらでも聞く。暇を持て余しているならお茶でも淹れてくれても構わないが?」
「……分かりました」
すぐに、話し掛けるのもどうかと思い、一旦オリーブをソファーに座らせてあげると私は紅茶の茶葉が入れられている缶を手に取り、蓋を開けるとふわっと香る紅茶の良い香りに顔を和ませつつアーロンと自分用にと紅茶を用意していった。
さすがにアーロンの机の上は、書類がいっぱい。この上に紅茶でもぶちまけようものならばアーロンは静かな怒りを私にぶつけてくるだろう。もしかしてめちゃくちゃ怒鳴ったりするんだろうか?でもアーロンの性格的に、ニコニコしながらも背景には鬼を生み出して無言の圧力といったものを向けてくるかもしれない。……美人とかイケメンが怒ると怖い、ってよく言ったものよね。ここは、準備が出来たとしても仕事部屋に設置されているソファーの間に設置されているローテーブルに置いた方が良さそうだわ。
「こちらに置いておきますね。キリが良いところで休憩をなさってください」
「!あぁ、悪い。……なら、冷めないうちにいただくとするか」
デスクワークを一旦止め、椅子から立ち上がり、ソファーに腰掛けて私が用意した紅茶を口に運んでいくと、それはそれは優雅で、とても様になっているのよね。さすが王子様。でも、久しぶりの仕事……というか、たくさんの書類に目を通していくものだから多かれ少なかれ疲労を感じているらしく、アーロンにしては珍しいのだが砂糖をいくつか紅茶に入れて飲んでいた。
「……それで、相談というのは?」
「城下町での炊き出しのことなのですが、私としてはすぐにでも取り掛かりたいとは思っているんですけれど、さすがに考え無しに動いたらいろいろと不足したり人手も足りないごちゃごちゃな状態になってしまいそうなのでアーロンに意見を聞いてみたくて」
「あぁ、なるほど。……残念ながら帝国には、どれほどの貧困層が住んでいるのかまでは把握しきれていない。そのため、どれぐらいの材料が必要となるのか、そもそも炊き出しをどれだけの人数が必要としているのかが分からないんだ。だから材料そのものは多少多く用意しても良いだろうな。あと、ラウルや俺も使って良いから人手は城にいる者でもいくらでも使えば良い」
「……でも、アーロンには日頃のお仕事がありますよね……」
ちらっと視界に入れてしまったのは机の上に積み重なっている紙の塔。一体、何枚ぐらいあるんだろうか。それに、よくあれだけの塔を築いているというのに、グラグラと倒れてしまうことは無さそうだ。凄いバランスを保っていると思われるわね。
「別に、それぐらい手伝う分には問題無いだろう」
「……疲れが、溜まるのでは?」
「平気だ。あと、寝るときにお前を抱き締めさせてくれれば一日の疲れなんて吹っ飛ぶ」
くっ……この王子様。俺様モードで素で話しているかと思えば、不意に、たらしな言葉もさらりと口に出してくるものだから困りものね!
「だいたい何を作るつもりなんだ?レンが作るのか?」
「!はい、もちろん。私だって一応料理は出来ますし……」
「……レンの手料理を食べてみたい……」
もちろん現代とこちらの世界では少々異なる具材もあるようだけれど、基本的な料理のシステムとしてはそう変わらないわ。今まで披露する機会は無かったのだけれど現代では一人暮らしをしていたのだから簡単な料理ぐらいならば可能よ。
でも、そう私が料理は出来ると言えばちょっと間を置いてからアーロンがぼそっと呟きをもらした。
「は?」
「許嫁なのに手料理一つも食べたことが無いなんて……そんなこと有るか?無いよな!?……城下町の人間の方が先にレンの手料理を味わうことになるなんて……なんか、嫌だ」
私は目をぱちくりさせながらアーロンの言い分を耳にしていると時間を置いて理解した。つまり、アーロンは、私の手料理を食べてみたいってわけね!うんうん、やっぱり私ってアーロンからめちゃくちゃ愛されているじゃない。ちょっと拗ねたような表情も珍しくて、そして可愛らしく見えてしまって『ふふっ』と失笑してしまったわ。
「笑うな」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、アーロンでもそんなふうに考えたりするんですねえ。好きな人の手料理が食べたいとか」
「当たり前だろう。好きなヤツが作る料理だぞ?食べてみたいと思うのは変なことか?」
「いえいえ。……でも、アーロンですよね。ずーっとお城のシェフさんたちの料理を食べて過ごして来ているんでしょう?私の作る料理が口に合わなかったりしたら……」
「合わないことは100パーセント無いから安心しろ。……それに、レンの愛情入りだから例えマズイモノでも食べきる自信がある」
す、凄い自信だわ。
それに、私の愛情入りって……ちゃんとそこは理解してくれているのね。私の方から愛情マシマシで作りますから美味しいですよ!って言いたかったところなのに。そう言ったら戸惑ったり照れたりしてくれるのかも……と考えていたのだけれど、そこはアーロンの口の方が早かったらしい。
「えっと……じゃあ試しに数人分の量で料理を作ってみます。一応、炊き出しで作る予定をモノを作るので、味見はアーロンやラウルたち……舌が肥えていそうなフランたちも呼んで味見をしてもらいましょうか」
「そこは俺だけじゃ、ないんだな」
少しばかり残念そうに言うアーロンが可愛らしく見えてしまったのだけれど……ごほん。これは、重大任務だわ!もちろんマズイものを作るわけにもいかないし、城下町の貧困層の方々に用意する予定のモノなのだから栄養とかも考えていかないと!多くの人たちが口に出来そうで、そしてあまり小難しいモノではない料理……そして、炊き出しということを考えていけば……作るモノは、やっぱり『アレ』しかないわね!
「今日のお昼……もしくは、午後にでも作ってみる予定でいます。もちろん材料があれば……ですが」
「何を作るつもりだ?」
「!もちろん、出来上がってからのお楽しみですよ、アーロン」
ニコリと笑い掛けると、一瞬アーロンが固まったような気がしたが、すぐに紅茶を飲み干してしまったので気のせいだったんだろう。固まった?何か変なことでも言ったかしら?
さて、何を作る予定なのでしょう??
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