九十話 私をダメにする専属クッション
いきなり何の計画も無しに炊き出しって出来るものなのかしら?
でも、材料とかどれぐらいの量を作るのかって考える必要があるわよね?
久々に、熟睡らしい熟睡をしてしまった気がする。
夢の中では、相変わらず私は『Mの屋敷』にて、超ドS様のお客様を今か今かと待っていたのだけれど、なんとそこにアーロンがお客様として訪問。いやいや、夢よね!?と頭では分かっているのに、超俺様モードで来客してきたアーロンに、ぽかーんとしていると『なにをぽかんとしている、このメス豚』と、かなりドキッ!としてしまう言葉責めをしてくるものだから興奮……もとい、最高の夢を見させていただいた。でも、一瞬で時が飛び、アーロンが帰るときにはめちゃくちゃ甘い王子様モードで『凄く可愛らしかったですね。また、お邪魔させていただきます』とにこにこと微笑み掛けてきながらお店から出ていく場面で夢は終了していった。
何処か甘いイイ匂いを感じながらゆっくりと目から覚め、目を開けていくとぎゅっと抱き込まれている私の体。昨日は、いつ寝入ってしまったのかよく思い出せないのだけれど、ここはアーロンの部屋。そして私を抱き締めている腕の持ち主もアーロンに間違い無い。それにしても、このちょっと甘ったるいイイ匂いは……?
軽く身動ぎをしつつゆっくりと顔を上げていくとまだ眠りについているらしく、目を閉じているアーロンの顔を覗き込んだ。
おおー!まだアーロンは寝ているのね!でも、しっかりと抱き締めている腕の力は強いものだから、抱き枕みたいに抱き着かれているんじゃないだろうか?と思いつつ、この腕の中から抜け出すのは難しいかなと考えると甘い匂いを堪能すべく、アーロンの体に擦り寄っていった。アーロンの匂いだろうか?でも、いつもこんな匂いをさせていたっけ?
不意に背中に回されていた腕がぴくりと反応したかと思うと、更に私の体を抱き込むようにぎゅうぎゅうと密着してくるものだから、『ぉわ!?』と情けなくも全然女性っぽくない声を上げ、アーロンの胸元辺りに顔を埋めていた。
むぐぐ、結構……苦しいわね……っ!!
自分の温もりじゃない温もりがとても暖かく感じのは、とても心地が良いものだし、このイイ匂いもとても穏やかな気持ちになる。心を落ち着かせる、とかリラックス効果とかがあるのかしら?えーっと、あまり植物には詳しくないのだけれど、ラベンダーとかの匂いもリラックス効果があるんだったっけ?私的には、くど過ぎることのない甘い匂いに『ほへぇ~』とだらしない顔をして顔もふにゃふにゃになってしまっているのだけれど、アーロンも同じ考えだったりしているのかしら?だいたい、私が目を覚ますとアーロンも同じタイミングとか先に目を覚ましていることが多いから、未だに寝ている様子?のアーロンには不思議だわ。
でも、私を抱き枕にしているってことは、逆に考えると私も大きな枕に包み込まれているとも考えられるのではないかしら!?ほら、人間をダメにするクッションとかってあるじゃない!アレよアレ!あれにぼふんっ!って飛び込むといい具合に体を包まれる感じがして気持ちが良いのよね!私の部屋には持っていなかったのだけれど、お店に置かれていた『お好きにお試しください』って感じで展示されているのを目にしたとき、思わず飛び込んでみたことがあったわ。そのときの気持ち良さといったら……昨晩のお風呂ぐらい?もしかしたらそれ以上に気持ち良かったかもしれない。ただ、即購入!……と考えられるほどに、そのときの私のお財布の中身は寂しかったものがあったので残念ながら未だに買えていないのだけれど……。
この体の大きなアーロンに包み込まれている感覚って、まさに人間をダメにするクッション感覚ね!そう思えば、こうしてぎゅうぎゅうに抱き込まれているのも、そう苦では無いかもしれないわ。それに、まあ……嫌いな人に、こう……密着されたら嫌な気持ちになるものだけれど、一応私とアーロンは許嫁という関係になった。それには、私にもいろいろと考えていることがあるからそう決めたことだったのだけれど……まあ、嫌いではないし、このまま許嫁としてアーロンを支えてあげるのも良いでしょうね。実際に、結婚するかどうかはまた別のお話よ。
「……んっ……」
お。
アーロンの口から、吐息混じりのセクシーが言葉がもれてきたからそろそろ目覚めるのかしら?未だに目を閉じたままのアーロンの表情を下からじっと覗き込むというのもなかなかにレアな体験だったりしているので、楽しんでしまっているわ。
軽く目元を震わせたかと思うとゆっくりと瞼を開けて、ぼんやりとした表情を私はニコニコしながら眺めていたんだろう。まだ寝惚けている様子のアーロンと目は合っているがぱちぱちと瞬きを繰り返してからそっと私の頭に片手を乗せるとよしよし、と頭を撫でてきた。
えーっと……これは、どういう意味があるんだろうか?
子ども?子どもに見えたのかしら?一応、許嫁……なのですけれど……。
「……おはよう……先に起きているなんて珍しいな?」
あ。
頭の方は、しっかりと働いている様子ですね。
「先、と言ってもほんの数分前に目が覚めたって感じでしたよ。でも、滅多に見られないアーロンの寝顔が見られたので得をした気分になりました」
「……熱で寝込んでいるときには、寝顔なんて見放題だっただろう?」
「あれは、寝顔とかを堪能するものじゃありません。寝苦しい表情ばかりでしたし、私だってあれこれと看病で忙しかったんですから」
「あぁ、感謝しているよ」
……朝は、穏やか……なのかしら?俺様モードっていうよりも、王子様モードにちょっとばかし、素のアーロンが混じっているような感じで、朝から『おらおらぁ!俺の言うことを聞け!』って感じにはならないのね。もしくは、寝起きだから俺様モードを発揮するのも大変だったりするのかしら?
「……それにしても……距離が近いな。苦しくなかったか?」
お互いの体は、ほぼ密着状態にある。
それはアーロンがしたことだったのだけれど、別にこれぐらいなら構わないわよ。
「いえいえ!全然!むしろ居心地が良かったです!」
「居心地?」
きっとアーロンには人間をダメにするクッションの話をしたところで通じないのは目に見えているものだから、アーロンの大きな体、そして長い腕に包まれて程よい温もりを味わっているのは居心地が良かったものだ、と説明してあげた。すると、ぱちくりと瞬きをしたかと思えば少しばかり気まずそうに……というか、珍しく照れたのかしら?片手で顔を隠す仕草をしてみたけれど、片手だけでなんて隠し切れるものではありませんよ?ほんの~りと、赤らんだ頬も耳も私には丸見えでした。それを目にすると、ついついニコニコと笑みが浮かんでしまうのだが、それが気に食わなかったらしく、私の視界を遮るように私の目元に片手を当ててきてしまった。
「あまり人の顔を観察して、楽しむな」
「観察していたつもりは無かったんですけれど、アーロンの寝起きってこういう感じなんだなあってしみじみと考えていたところだったんですよ」
見えなくなってしまったのはとても残念。でも、これ、絶対に気恥ずかしく感じているのよね。アーロンが!照れるとか、凄いレアな姿なのでは!?
「くっついて寝るのは、私も恥ずかしいかなあと思っていたんですけれど案外アーロンに抱き締められて眠るのは居心地が良いことが分かったので、これからはいくらでも抱き締めて眠ってくださいね!」
まさか、ここに来て人間をダメにするクッションのような存在と出会えるとは思わなかったけれど、人の温もりに包まれるのってこんなに気持ち良かったんだなあ。
「はぁ?……まあ、言われなくても抱き締めて寝るつもりだが……」
それを聞いて安心した私は、小さく『ふふっ』と満足そうに笑った。スッと目元を隠されていたアーロンの手が退かされると再び頭に置かれ、今度は髪を梳くように優しく撫でられていくものだから、朝から甘々モードかしら?と考えつつ、こういうま~ったりとした朝も良いものね!と心の中で満足モードの私がいたのだった。
アーロン=人間をダメにするクッション!(苦笑)まさかの、アレか!!でも、大きな体に抱き締められていると、ついついあのクッションを思い出してしまいます!!
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