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八十九話 甘い匂いに要注意!

 確かにお風呂は良い匂いがしていたわね。

 でも、それって……その、好意がある人に有効ってこと!?

「別に風呂に限った話じゃないが、お香だとかも誘惑の効果があるだろう?」


「……さ、さぁ?そこまでは詳しくは無いものですから……」


 ちゃっかりしっかりとお茶の準備をし、紅茶を口にしながら当たり前のように香りについての効能とやらの話をアーロンから聞かされることになってしまった。

 多くは、所謂……新婚さん向けのお嫁さんに付けたりすることが多いらしくて、つまりは……夜の、そういうお話に繋がっていくらしい。正直に言えば、あまりそこまで詳しく聞きたいものではなかったけれど、アーロンとしては冷静に話しているものだから、別に効果が現れていないのでは?と思うけれど、気を抜くと私に触れたくなる……らしい。


「それを飲んだら先に寝ていろ。……どんな匂いかは知らないが、俺も風呂に行ってくる」


「って、今からですか!?」


 って、今何時!?と時計を確認すると、結構遅い時間になってしまっていた。長湯し過ぎた?それとも、アーロンとまったりし過ぎてしまったかしら。


「別に風呂は夜入るものだから問題無いだろう?レンが望むなら一緒に、また入るか?」


「い、いえ!遠慮しておきます……」


「俺が戻って来るまでに寝ていなかったら……さて、どうするか……意地悪でもしてやろうか?」


「い、意地悪って……」


 き、気になる……!って、そうじゃなくて、とにかく先に寝ていろってことよね!

 ドSな言葉責めでもしてくれるのかしら……って、変なふうに期待しちゃうじゃない!


「はは。冗談だ。……寝付きにくいようだったら俺が飲んでいる薬を服用してくれても良いから……きちんと一人でも大人しくしていろよ?」


 さり気なく、普段から常用しているらしい睡眠薬の入った棚を軽くコンコンと指先で小突いてみせるとそのまま背中を向けて部屋を出て行ってしまった。

 そう言えばアーロンって毎日睡眠薬を飲んでいたんだったわね……。そんなに強い効果があるのかしら?

 当然、疲れていないって言ったら嘘になる。今までに積み重なった看病疲れだとか、具合の悪い人に対しての心遣いとかで心身ともに疲れているのは事実。でも、これでベッドに横になったからって一気に睡魔が襲って来たりするのかしら?意外と疲れているときって布団にくるまったりベッドに横になっても、なかなかすぐには眠れないことってあったりするって聞くことがあるのよね……。

 おもむろに立ち上がり、棚の引き出しを開けてみるとそこには小瓶が。なかには睡眠薬と思われる錠剤がなかに入っている。これを……一錠?ごくごく普通の薬、みたいね。ちょっと怪しげな色とかをしていたらどうしようかと思ったけれど、試しに一錠手のひらに取り出してみると残っていた紅茶とともにゴクリ、と飲み下していった。


「……えーっと……さすがに、すぐには効果は分からないかしら?だったら片付けをして……ぇ……ぁ……あら?」


 そんなすぐには効果が体には出ないだろうと思い、その間にお茶の片付けでもしていようかと考えていたのだけれど空いたカップを手にした時だった。クラッと視界が揺れる感覚がしたかと思うと手にしていたカップ諸共床に倒れ込んでしまった、私。もちろんカップは床に落ちて割れてしまうし、私も打ち所が悪かったのか頭がクラクラしていて……って、これってもしかして睡眠薬の効果!?さすがに効果が出るまで早すぎなんじゃない!?

 必死に体を起こそうとするけれど体が重い、意識を保っていないとすぐに瞼が閉じてしまいそうで軽く唇を噛み締めながら痛みで意識を維持していくのだけれど私って怪我とか傷があってもすぐに治ってしまうんだったっけ。ほんのりと血の味が口内に広がりながらも、ぐぐっと重い体を持ち上げてうとうとしかける頭をブンブンと振りながらもう少し起きていなさい!と自分に喝を入れていた。


「……っ、まずい……割れちゃったわね……綺麗なカップだったのに、勿体無いことをしちゃったわ……」


 そこまで粉々に割れた感じではなくて、いくつかの破片に割れてしまった元カップたちを拾い上げていくとフラフラする足取りで、取り敢えず片付ける。この分じゃベッドに倒れ込んだらそのままぐっすり寝ちゃいそうね……と苦笑いしつつ、目元をごしごしと擦りながらもつれそうになる足を動かしてなんとかベッドまで近付けば倒れ込むようにそのままうつ伏せに横になるときちんと体にシーツも掛けないままにすやすや……と寝始めてしまった。



 ~アーロンの悩み~


「……この匂いか……」


 脱衣所にも微かに残る甘ったるいような匂い。

 そして風呂場に顔を出せば、よけいにムワッと漂ってくる甘い匂いに、変なふうに頭がクラクラしてしまいそうになった。


「これは……まったく、誰が用意したんだか……」


 風呂そのものには問題は無いのだが、何か……入浴剤の類を入れたらしい風呂に体を浸からせていくと、正直俺にはキツ過ぎるぐらいの甘い匂いに体そのものが包まれていく。ここに、先ほどまでレンもいたのか……。そんなふうに考えてしまうと良からぬ想像を抱いてしまいそうになるから軽く頭を振って気分を落ち着かせることにした。

 紳士やら淑女の嗜みの一つとして香水の類もあるらしいが、基本的には俺はそういった人工的に作られた香りというものは好ましくはなかったりする。なんでもかんでも『オススメ!』とかって言われていても、擦れ違う淑女から漂う人工的な香水の香りに何度気分の悪さを覚えたことか……。


 この風呂も、俺とレンの関係を思って用意してくれたヤツがいるのかもしれないが、余計な世話だな。だいたい、こんなモノが無くても俺はいつだってレンを抱ける気がする。ただ同意も無く、レンにもその気が無いうちに手を出したら嫌われそうなので行動を起こしていないだけだ。

 だが、先ほど部屋でレンのそばに行ったときに甘い匂いがしたときには、ついついレンの体をこの腕の中に閉じ込めたくなったのは事実だ。なんとか踏みとどまったが、元々女性としての魅力が高いのに、こんな甘い匂いまでさせていたらもしも近くにいたのが俺じゃなかったら……そこら辺にいる男なら簡単に手を出されてしまっていたんじゃないだろうか。

 やはりこういう類のモノは、女性よりも男性の方に効果が強いらしく、好意のある女性が近くにいれば少々危ないのかもしれない。……先に、寝てくれていれば良いのだが……それはそれで、少し危ない気がする……。


「……まさか、起きているとは思えないが……」


 彼女もここ数日、きちんと寝ていないはずだから、きちんと寝るときには寝て欲しい。それに、一応睡眠薬も勧めてみたのだが、彼女は服用するだろうか?


 自分からも甘い匂いが漂う感覚に少しばかり戸惑いつつ部屋に戻るが、普通に室内は明るかった。俺は毎晩服用することが癖になっている睡眠薬を服用していく。まだ寝ていなかったのか……と、これでソファーで寛いでいたら、それこそたまには意地悪でもしてやろうかと考えていたのだがベッドにうつ伏せになっている姿を見て首を傾げた。


「……レン?」


 寝るならちゃんとシーツを被れ、と言いたいところだったがどうやらベッドに来た時点で電池が切れたように寝ているらしい。


 仕方なく、彼女をなるべく揺らさないよう抱き起すと(彼女の体から香るまだ残る甘い匂いにクラクラしつつ)改めて二人してベッドに潜り込んでいった。


「?……血?」


 傷は見当たらないが、口端に残っている血を拭い取ってやるとぺろりと舐め取るが、何処か怪我でもしたんだろうか。

 誘惑されそうな匂いには必死に堪えつつ、久しぶりに腕の中にレンの体を抱き込むとなんとも言葉に表すのは難しいが、幸せのようなものを感じることが出来た。風呂よりも断然、レンの方が暖かく感じる。それに、余計な気をまわさなくてもレンからは健康的な、まるで洗い立ての洗濯物のような良い匂いがする。それを感じるだけで俺はレンに欲情することが出来るというのに……給仕の人間にも、もう少し考えてもらう必要があるかもしれない。


 薄暗くなった室内で、同じベッドに愛する人がいるとどうしても余計なことを考えてしまいそうになるが……寝よう……。これからも、お互いにいろいろ考えていかなければならないことも多いし、それに……俺の方から手を出すなんて、俺ばかりが好いているようで悔しい気がする。もっと俺に惹かれてくれないだろうか、いつぞやのときのように積極的になって俺を求めてくれないだろうか……そんなことを考えつつ甘い匂いに悩まされながら眠りについていった。

 いやいや、早すぎ!効果出るの早すぎでは!?だいたい、薬って飲んで20~30分ぐらいで効果が出るものよね!?あー……意外と効果が出やすい薬だったとか!?飲みなれないものだったし!(汗)


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