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八十八話 良い匂いの意味は?

 用意されていたのは、お城の……王子様の許嫁の女性が着る煌びやかなドレス……というわけではなくて、質素……とまでは言わないけれど、動きやすいワンピース。これなら一人でもきちんと着られるわ!

 気持ち良くお風呂を満喫した私は、それこそスキップでもしたくなるぐらいに気分もアガってしまっていた。まさに、ルンルン気分というヤツである。でも、これからは今まで以上にいろいろと考えていかなくちゃいけないことが待っているのよね……と思うと、アガりかけた気分を落ち着けていき、アーロンの部屋に戻って行った。


「只今、戻りましたー」


 そう言えば脱いだボロボロのドレスって脱衣所に残されていなかったわね。アーロンから借りたジャケットも無かったし(こっちはアーロンが着て戻ったと思うのだけれど)さすがに、あそこまでボロくなってしまったら復元させるのは難しいだろうから捨ててしまうのかもしれない。……ドレス職人さん、ごめんなさい!毎日、毎日、大切にドレスを着ていくので、どうか職人を止めないでください!


「!意外と早かったな。もう少しゆっくりしてきても良かったんだが……」


 部屋に戻れば、室内に置かれているソファーに座って寛いでいるアーロンを発見!またベッドとかでぐったりしていなくて良かったわ。

 それにしても……。


「……うん。良く似合っている」


 まじまじと私の恰好を眺めてくるものだから視線から逃れるようにそっぽを向きつつソファーに近付いていくと、アーロンが腰を下ろしているソファーと向かい合う位置に置かれているソファーに腰を下ろした。


「えっと……この服は?いつもの……その、ドレスって感じと違いますよね?」


「ああ。レンが、動きやすい服が良いって言っていたから用意した」


 そう言えば、そんなことを言ったような言わなかったような……。って、あれからだいぶ経つのに、アーロンだって具合を悪くしていたというのに、よく覚えていたのね……。確かに、この恰好ならあれこれするにも動きやすいかもしれない。どうしても淑女向きのドレスってスカート部分は大量の生地が使われているらしくてごわごわするし、慣れていないと歩きにくいものね。第一王子の許嫁が何を言いますか!って叱られちゃうかもしれないけれど、私はそういう立場だとか、王子様の許嫁だから派手なドレスを着なきゃいけないの?そういう無駄に装飾する余裕があるなら、その分を城下町だとか貧困で困っている人たちのために使ってほしいと考えている。変わり者?上等じゃない!


「!ありがとう、ございます……へへ、こういう服だと着やすいですし、脱ぐのも簡単なので助かります」


「ったく……だらしない顔しやがって……」


 アーロンが覚えてくれていたのも嬉しいし、実際に形にするまでも早い!と思ったけれど、素直に喜んでおくことにした。へらへら笑っていると呆れた顔をしているアーロンだったけれど、それでも私が笑っているから満更でも無さそうで口端を上げている。うんうん、こういう日常的な幸せって良いモノよね!


「……だいたい、ドレス姿で城下町で炊き出しをするなんて無理だろう?だから、少しでも動きやすい服で……それでも質素過ぎないデザインをだな……」


 なんだか……あれこれと考えてくれていたみたいで、ついニマニマしてしまう。てっきり『ドレス姿でも問題無いんじゃないか?』とでも言われそうだったけれど、そんなことはなく。きちんと活動しやすい恰好を考えてくれていたみたいで、しかも私に合わせたデザイン(ワンピースの生地そのものは、きっと何処にでもある感じかもしれないけれど私の髪色とかに合わせたんだろうか……白とか薄いブルーがかった色合いをしていて素直に可愛いワンピースだと思う)になっていてアーロンの仕事っぷりを改めて知ることになった。

 ほんっっっと、なんでも出来ちゃう人なのねぇ……。


「ふふっ、ありがとうございます。アーロンってよくよく私のこと見ているんですねぇ?よっぽど私のことが好きなんでしょうか?ちょっと照れますけれど」


「?好きなのは当たり前だろう」


「!?~っっっ」


 こっちがからかってみようと思っていたのに、真顔で『好き』と言われてしまったものだからこっちの方が気恥ずかしくなってしまった。目を丸くしてから、思わず顔を両手で覆ってしまう。


「ぷっ……くくっ……おい、レン。耳、隠せていないぞ?」


「っ~、もう!!」


 慌てて耳に触れてみれば、熱かった……。顔ももちろん熱が集まってきているから赤くなっているのだと思ったのだけれど、耳にも熱が集まってしまったらしい。まさに穴があったら入りたい気分に浸っていた。

 あ、そう言えばテーブルには何も無い。『お、お茶でも淹れましょうか』とソファーから立ち上がりかけるものの先に立ち上がっていたアーロンに肩を押されてソファーから立ち上がることが出来なかった。


「たまには俺に用意させてくれ。……ん?……レン……なんか、良い匂いがするな?」


 そばに来たからだろうか、ふわっと私から匂ったようでアーロンが匂いに反応している。


「あ、あぁ。そう言われてみるとお風呂が凄く良い匂いがしたんですよ。お風呂に入れる入浴剤みたいなモノってこの国にはあるんでしょうか?」


 シャンプーとかも元々良い匂いはしているとは思うけれど、今日はそれ以上にお風呂が良い匂いをしていると感じていた。だから誰かが気を配ってくれて気分転換!みたいな感じで用意をしてくれたのかも……と思ったのだけれど。


「……あぁ、好んで入れているヤツはいるらしいが……風呂に、そういうモノを入れる理由って知っているのか?」


「?気持ち良くお風呂を満喫したい!っていう理由じゃないんですか?」


 理由?入浴剤を使う理由って、お風呂に気持ち良く入りたい!っていうことじゃないのかしら。


「……いや、知らないならいい……」


 ちょっと間を置きながらお茶を用意をしてしまうから、微妙に気になってしまう。そこまで言うのなら、理由とやらを教えてくれても良いのに。


「気になるじゃないですか~。入浴剤?を使う理由ってなんなんです?」


「……はぁー……どうせ、俺とお前との関係を察したヤツが用意でもしたんじゃないか?」


「関係?」


 テーブルに湯気の立つ紅茶を置かれながら溜め息まじりに吐き捨てるように呟いたアーロン。私たちの関係は……許嫁ってことかしら?でも、それが?えーっと……どういうことだろう?


「本気で分かっていないのか。……好きなヤツが良い匂いをしていたら、気になるだろ?こんなふうに……触れたくなる」


 少し屈みながら私の顔に手を伸ばしてくるとそっと頬に片手を添え、先ほどまで熱が集まっていた耳に触れ、頬に触れ……そして、ふにっ……と指先で唇に触れてくるものだからぎょっとしてしまった。

 あちこちにアーロンの男らしい手が触れてきて、ビクついてしまう。……って、ちょっと待って!?触れたくなるって……入浴剤って、そういうモノ!?純粋にお風呂を楽しむモノじゃないの!?


「ぅえ!?そ、そういうことって……」


「さっきよりも赤くなったな。……やっと分かったか?敢えて言葉で説明するならば……好意があるヤツを夢中にさせるってことじゃないか?」


 意味が違う!絶対に現代じゃ、そんなふうに使わない!……と思う。たぶんね!

 アーロンは撫でるように私の髪に触れているだけのはずなのに、妙に気恥ずかしくて俯くことしか出来ないし、悪戯っぽい笑い声を出しているから俺様じゃなくて……やっぱり悪魔なんだわ……と思うのだった。

 え?いちゃいちゃ、ばっかりしてる?いやいや、このぐらいは……『いちゃ』ぐらいではなかろうかと!(苦笑)


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