八十話 口直しのデザート
アーロンの熱は下がったけれど、もうしばらくは仕事はダメ!
ラインハルトからも『しばらく休養させておけ!』と言われてしまった。
「いきなり食事を食べろ!っていうのも無理があると思うので、スープ類から食べられるようにしていきましょう!」
「コレは、レンが?」
「その、お手伝いしようとしたのですが……」
アーロンは別にまったく見知らぬ他人ってわけじゃない。
だからこそ少しでも胃に優しい食事を作るお手伝いでも……と城内にいるシェフの方々に頼み込んでみたのだけれど『レン様はお待ちください!火傷なんてさせられませんので!』と私は料理が仕上がるまで廊下で待たされることになってしまった。
そのお話をするとアーロンには『ぷっ!ははは!』と笑われてしまうし、意気込んでお食事の用意を!を気合いを入れていたのに、ものの見事に空ぶってしまったので、なんとも気恥ずかしい思いをしてしまった。火傷?そんな私ってドジに見られるのかしら。元々、現代においては一人暮らしをしていたのだし、簡単なモノなら私にだって作れるんだから。
アーロンの容態を伝えるや否やシェフの方々に用意してもらったのはスープ。スープ……の、はずなのだけれど、なんだかいろいろ入ってない?単純なスープって汁物よね?それなのに、コレには……明らかに固形物が入っている。栄養が不足しているから、と伝えたから少しでも栄養をとれるようにいろいろと詰め込んだスープになっているのかしら?
「まあ、コレぐらいなら問題無く食べられると思……っ……おい、コレ何が入っている!?」
ベッドで寝転がってばかりいるのもアーロンとしては飽きてきてしまったようで、ソファーで過ごすことも多くなってきているから食事ならソファー(すぐ近くにはローテーブルもある)で取ってもらうようにしている。
一口、スプーンで掬い口に含んでいくものの途端に口元を覆って、凄い剣幕でスープと私を交互に見始めたものだから私は『どうしました?』と不思議そうに首を傾げた。
「お前、シェフたちに何を言った!?」
「え。何ってアーロンの体調が良くなってきているので少しでも栄養の付くモノを、と……」
「栄養……確かに、栄養だが……」
「?何か苦手なモノでも入っていましたか?」
「あー、いや……苦手とかってワケでは無いんだが……」
「なら、ちゃんと食べないと」
一口食べただけで中に入っている食材が何か分かったんだろうか?そもそも私は廊下に出されて待機させられてしまったので、スープの材料に何が使われているのかっていうことは全然知らない。
一度は食べる手を止めてしまったアーロンだったが、小さくチッと舌打ちをしながらもスープを口にしていく。時々、固形物があったようでそれを必死になってもぐもぐと咀嚼しているのがよく分かる。
あ。
口の端に、スープでも飛んだのだろうか。
気が付いた時には手が伸びていてアーロンの口端をそっと指先で拭い取るとぺろっと手に付いたスープらしきモノを舐めた。……単なる、スープ……と思っていたのだけれど、今ちょっとだけ舐めただけなのに、なんかもの凄く苦くない!?
「うっ……!」
「!はは、お前もこの味が分かったか。このスープに使われている材料、きっとお前は聞かない方が良いぞ。たぶんひっくり返るか気絶すると思う」
な、なんという味だろうか。
あまり漢方薬とかには詳しく無いんだけれど、そういう系統の苦さなんじゃない!?コレって。
慌てて、いつもは砂糖も何も入れずに紅茶を飲むのだけれど今回ばかりは砂糖を入れて、ミルクも足してごくごくと紅茶を口にして口直しをしていった。
「き、聞きたくありませんよ。なんか、嫌な予感しかしないので……」
「ふふっ、なんだ。ようやく、らしくなってきたな?」
安心したように口元を緩めるアーロンだったのだが、それがどういう意味なのか分からなかった。
「?」
「いや、別に?」
この独特の苦さも慣れてしまえば苦にならないんだろう。なんとアーロンは残さずに綺麗に平らげてしまった。……もしくはお城に伝わる秘薬とか?栄養豊富な植物とかがあったりするんだろうか……いや、やっぱり考えるのは無しにしよう。
「……ごちそうさま」
「よく、食べられましたね……あ、お粗末様でした……」
まあスープを平らげた後には口直しだろうか、果物をもぐもぐと口にしていたから、やっぱり苦いモノは苦かったんだろう。果物の甘さで口直しをして、ホッとしていた顔を目にしてしまった。
「レンが食え食え、うるさいだろう?それと、もうこの手のスープはいらないからな」
「あははー……今度からはそう伝えておきます……」
そして私が淹れた紅茶を口にしていくと一気に体中の力でも抜けたかのようにソファーの背凭れ部分に背を預けてゆったりしはじめてしまった。
「……食うモノは食ったし……俺的にはデザートが食いたい」
「デザート?あー……フランは、まだ具合が悪そうですけれど……甘いモノでも用意してもらいましょうか?」
「違う。……ちょっと、こっちに来い」
アーロンが座っている隣をポンポンと叩いてくるから?マークを浮かべつつ隣に『失礼します』と言いながら座ると中途半端に空いていた私とアーロンの間の距離を詰められると私の顎に手を添えて顔を近付けてくるものだからビシッ!とまるで石か何かになってしまったかのように体が動かなくなり、チゥ……っと軽く触れるだけの口付けをされる間、目をまん丸くしてしまっていた。
「……デザートは、レンだ。俺の体はだいぶ楽になってきたから……もっと触れたい、キスもしたい……」
具合が悪かった時とは違う眼差しの強さにゾクッと背筋を震わせながら『えーっと……』と戸惑いがちに視線をあっちこっちに向けてしまった。
「薬を口移しで飲ませて来たのは何処の誰だ?」
「……わ、私……です」
「その後、熱烈なキスをしてきたのも……誰だったかなあ?」
「っ、わ、私ですよ!」
まだ記憶にも新しい口移しで飲ませた薬、そして具合の悪いアーロンの見た目にアテられてしまってもっと口付けがしたくなってしまって、普段しているモノでは無いキスをしてしまったのは私の方。あの時の私はどうにかなってしまっていたのよーっ!!!
「せっかく体調が良くなったのだから……あの時のように熱烈なキスをしてくれても良いんだが?」
顔も唇も熱かったアーロンを思い出してしまうと、再びボワッと顔に熱が集まるのを感じた。
「あ、えっと……アレは……」
「アレは?何だ?」
「アレはー……あ、アーロンの色気が凄かったんですっ!!」
「色気?」
なんだそれ、と言わんばかりに首を傾げているアーロンに、ぼんやりとした目に顔は赤いし、汗も掻いていて、シャツのボタンはいくつも外していて、とても色っぽかったんです!とここぞとばかりに熱烈に語ってみた。それでもアーロンには『なんだ、そんなことか』とあっさりとスルー。
「そりゃあ熱もあれば汗も掻くし、意識も朦朧としていたんだろう?」
「うぐぐ……っ……」
「看病そのものにはとても感謝しているが……なんだ。まさか具合の悪い俺でも見て、興奮でもしていたか?」
「~っ、そんなことはありませんっ!!断じて違いますから!!」
両手で顔を覆いながら思わず顔そのものを伏せていくとアーロンが視界に入らないように俯いた。だって、違う違うって言ってもアーロンには通じない気がしてしまったから。
「へぇ~?」
ゆるゆる、と首を左右に動かすものの熱を持ってしまった頬やら耳までちゃんと隠せなかったみたいで、それを横で見ているアーロンは面白そうに口端を上げて笑っていた。
「あぁ、確かレンは多少強く言われる方が好きなんだったか。……ふむ。色気のある俺に、欲情したか?あぁ、そうかそうか。俺は熱があって普段見られない姿も目にして、内心ではドキドキだったか。うんうん、気持ちは分かる」
アーロンは腕組みをしながら、ふふっと意地悪っぽい笑みを浮かべながら私の心の内を見透かしたように次から次へと私の気恥ずかしさを増すような発言を繰り返していくばかりだった。
苦いスープ……いやだなぁ、トラウマになりそう……(苦笑)
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