八話 異世界のお風呂はバカみたいに広かった!
アーロン王子とラインハルト隊長を残し、女騎士の姿だったはずのラウルはいつの間にかお手伝いさんのような恰好をして私を浴場へと案内してくれた。
そこには、デッッッカイお風呂場が!!!!
というか、これはこの帝国貴族様たちの愛用しているお風呂場ってことよね!?ひ、広すぎなんじゃないの!?お、王様とか王妃様とかがラブラブ状態だったならば一緒に入るかもしれなくても、ここは一緒に何十人もの人たちが入浴したとしても悠々と足を伸ばして寛げる広さがあった。
もう広すぎて言葉が出ないわよ。
テニスコート六面分以上?あるんじゃないかしら?さぞかし一人で入るときはとても気持ちいいのかもしれないけれどお掃除が大変そうよね!
「レン様、お背中はお流しいたしましょうか?」
脱衣所も広々スペースが確保されている。そんな端っこで簡素な衣服を脱いでいればここまで一緒に案内してきてくれているラウルの姿が。まだ、いるじゃないの!!
「い、いえ!自分で、自分で洗えますので!」
同性。それほど気にすることは無いかもしれない。それでもラウルは金髪碧眼の美人さん!そ、その美しい瞳は真面目そうで堅実そうで素敵なのですが、できることならば『さっさと脱ぎなさい!私が洗って差し上げます!』などと罵ってくれても良いのですよ!
「では、着替えをこちらへ置いておきます。そちらは処分致します。外でお待ちしていますのでどうぞごゆっくり」
ま、真面目だなぁ。
歳は、私とそう変わら無さそうだからできることならばお喋りを楽しみたかった。が、最低限の挨拶だったり言葉を交わす程度しか今のところできていない。もしかして私?私の態度が話しかけてはいけないオーラでも放っているのかしら!?
だったら表情筋をもっと緩めないと!
だだっ広い風呂場に私一人。
ひっっっっっっろ!!!
いや、バカみたいに広いじゃないの!これ、毎日どれぐらいのお湯を消費しているのかしら?水道代金……とかこの異世界ではどんな風になっているかが気がかりだわ。
備え付けられている液体で髪の毛、そして体を洗っていく。一度、頭からお湯を流したときそれはそれは汚れたシャンプーが流れ落ちてきたものだから慌てて二度、三度、と洗い直したわよ!
そしてこれまた広い、湯気がほかほかと立ち上るお風呂へ。
いきなり飛び込むなんてことはしないわ。まずは桶のようなものでお湯を何度か体にかけてから、いざ足からゆっくりと浸からせていく。おぉー!いい湯加減だわ!ぬるすぎることもなく、熱すぎることもなくて気持ちいいわね!
広い浴場にはホカホカと湯気があがり、私がちょっと身じろぎするだけでお湯のはねる音がぴちゃぴちゃと鳴るだけ。それも反響して聞こえるものだからその浴場の広さというものは少しは分かってもらえるかしら!?
「……銀髪に、赤い目、ね」
鏡を見て自分の姿に驚いたわよ。
見事なまでの銀髪(どうやったらこんな色になるのかしら?)そして赤い瞳。(赤いカラコンを付けたとしてもここまで鮮やかに赤色を出すのは難しいんじゃないかしら?)そして手足は細く(どんなふうに生活していたのかしら?)肌もツヤツヤだ。
正確な年齢は分からないがやはり十代半ばぐらいだろう。元いた世界の私の十代の頃なんてたびたび肌荒れを起こして大変な毎日を過ごしていたというのに!なんて羨ましい体なのかしら!
不意に元の世界にいた自分の肉体が劣っていると自覚させられた気がして、この自分の体に対して文句を抱きながら風呂からあがった。
用意されていた着替えは……
「えっと……これは……」
ワンピースと一言で表すには派手。そして社交界に着ていくドレスと言うには控え目な上下が繋がっていてスカートがふわりと広がっているデザインで薄~いブルーカラーの……
「宝〇の脇役Aが着ていそうな西洋ドレスって感じかしら?」
そう決して派手過ぎることはない。たぶん一般的には。それでも西洋風のデザインは私の目には新鮮だわ!綺麗ねぇ~……私が着ても良いのかしら?
ここに置いてあるってことはラウルが持ってきてくれたのよね?……ラウルの私服なのかしら?
恐る恐る袖を通してみるが、サイズに変なところは無さそう。え、私のサイズってラウルと一緒だったりするのかしら?そうだとしたらラウルも相当スタイルが良いってことよね!それなのに騎士としても頑張っているなんて、恰好良いじゃないの!
おぉー、裾がふわふわと揺れる!楽しいわね、これ。
子どもほどにはしゃぐわけじゃないけれど肌触りの良い服に気分は上げ上げよ!
脱衣所から広い廊下に顔を出すと壁際にラウルがきちんと立って待ってくれていたわ!え、ずっとそうやって待っていたのかしら、もっと早くあがってくれば良かったわね……。
「!お湯加減は如何でしたでしょうか?そのドレスも良くお似合いですよ」
とっても気持ち良かったです、と答えればラウルはやっと笑みを向けてくれた。び、美人が笑うと迫力があるわね!なんだか同性なのを忘れてドキッとしちゃったじゃない。
「あ、ありがとうございます。あの、またさっきの部屋に戻るんでしょうか?」
「さっきの……殿下たちのいらっしゃる部屋ですね、はい、もちろん」
「……私って所謂住むところ無し、着るもの無し、持ち合わせも無し状態なのですが……その、できれば帝国で働かせていただけるお店とかあると教えていただけないでしょうか?」
「は?」
「いや、だっていろいろとされているのに、この恩はお返ししないと」
「レン様は殿下の許嫁になるのではないのですか?」
「は!?」
え、ちょ、その話どこから流れてきたのでしょうか!?その手の話ってアーロン王子とラインハルト隊長しか聞いていなかったのでは!?もしかしてラウルを呼んだときにアーロンから『彼女は私の許嫁になるからよろしくね』とでも紹介されていたとか言わないよね!?
「い、いや、それは……」
「レン様は『豊穣の女神』に語られている女神そのものかと思うのですが。てっきり殿下とご結婚されるかと思っていたのですが」
「結婚!?」
え、その女神様っていうのは王子様と結婚しなければいけないルールでもあるんでしょうか?無いですよね。無いなら私はゆっくりと衣食住を確保してから超ドS様を探していきたいのですが!
って、この人たちにS様を探したいと言ったところで通じないだろうなぁ、きっと。私は超ドMなのでS様がそばにいないと精神的に無理なんです!と伝えても首を傾げられて終わりだろう。こんなに日本語がスムーズに伝わるというのにマニアな話はノーセンキュー!という世界なのかしら!?
「私たちの勘違いでしたら申し訳ありません。ですが、こんなにお美しい方が妻となるならば国王様や王妃様たちも安心なさると思うのですが」
あー、そう言えばアーロン王子はまだ王様って地位ではなかったのよね。お父様とお母様が今の帝国をまとめているが、実際は第一王子であるアーロンが国をまとめていたり仕事をしている……とかって聞いたような……。
「アーロン王子には私の他に許嫁などはいないのですか?」
ちょっと失礼な質問だったかしら?それでもあんなに見た目は良さそうな王子様なんだもの。きっと『許嫁にさせてくださいませ!』とかって言いよってくる女性とかいないのかしら?それともこの世界では女性たちはお淑やかでそんなことは言わないものだったり?
「いませんね。それらしい候補がいたというお話は今まで聞いたこともありません」
え、勿体ない!
私はもっと俺様系!な感じがタイプだけれど、アーロン王子だって魅力的な方だろう。というか世の女性たちよ、見る目が無いのでは!?
「レン様が許嫁になるならば私も嬉しいです。こんなに美しい人に仕えられるのですから。……さ、付きましたよ。何か必要なものがあればまた仰ってください」
ラインハルト隊長は『仕えるのはごめんだ』などと言っていたがラウルは私の存在に好意的なようだった。うーん、好意を向けてくれるのであればもうちょっと楽にお喋りもしたいところだけれど忙しいのかしら?
「ありがとうございます。あ、必要なものってわけじゃないんですが、これからは私のことを『レン』って呼んでください。様って呼ばれるとちょっと畏まってしまうというか……慣れるまではゆっくりで構いませんから。友人感覚のように接してもらえたら嬉しいです」
そんな恐れ多い!と顔に書いていたが私はそんな高貴な生まれでも上司でも無いのだからフランクにいきましょう。と微笑みながら告げると目を丸くしてから急におどおどしたような口調で『は、はい……か、かしこまりました……レン……』と言いなれないながらも私の希望に応えてくれたので私は大満足だ!
仕事が残っているとのことでアーロンの部屋の前で別れたがきっとラウルとは良い友人関係が築けそうな気がする。
が、今この部屋のなかにいる二人は今どうなっているだろうか……大喧嘩に発展していなければ良いのだけれど、でも静かだしお互いに剣を取って切り合っている、なんてことは無さそうだ。
アーロンと私が……本当に結婚なんてするんだろうか?アーロンは国のためそして一目惚れだのなんだの言っていたが、本当なのだろうか?でも慕われている部下らしきラインハルトには反対されているっぽい。反対を押し切るタイプなのだろうか?う~ん、いまいち読めない人間っぽいのよね。何を考えているのか分からないって感じ。
取り敢えず、私の就職先について相談してみようかしら。
『超ドMは超ドSに会いたくて……』ラウルと少しは距離が縮まったでしょうか!?う~ん、まだまだですね。
お城のお風呂はバカ広いというイメージが私のなかでは定着してしまっています。昔に観たアニメで、とあるファンタジーものなのですが、そこに出てきたお風呂場もだだっ広かった記憶が!!!城だもの!お風呂場をケチケチしちゃダメよね!とも考えた末の案です。
ちょっと変わったタイトルの作品ではありますが、私の趣味設定作品みたいなものです。え、私はどちら属性か?……ど、どっちなんだろう???(笑)
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