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七十四話 薬は愛のこもった口移しで

 熱でぼんやりとしながらも久しぶりに会話らしい会話をアーロンとしている。

 それが嬉しくて嬉しくて、幸せな気持ちになった。

「あ。……また、寝ちゃう前に薬を!……せめて、寝る前に薬を飲んでください」


 ついつい熱い手のアーロンに甘えたくなってしまうが、このままだとまずい。起きている今、きちんと薬を飲んでもらわなければ!でも、アーロンは面倒くさいのか、薬に手を伸ばそうとしてくれないのよね……。困ったわ……。


 うーん……仕方ない。

 私はおもむろに一錠の薬を自分の口に放り込むとコップを手にし、少しばかりの水も口に含むとそっぽを向いているアーロンの顔をこちらに向ければ強引に唇を重ね、そして無理やり口を開けてもらうと水とともに薬をアーロンの口内に押し込んでいった。もちろん自分で飲んで貰うことが一番だったのだけれど、アーロンは頑なに薬を拒否していたみたいだったからここは気恥ずかしさとかを考えているわけにもいかず、アーロンの体のために、と考えて口移しで薬をアーロンの口の中に入れたのだ。


 ゴクリ……。

 アーロンがまさか私が口移しで薬を飲ませてくるなんて思わなかったらしく驚きに目を丸くしながらも口内に入ってきた薬を水とともに飲み下した音を近くから聞くと安心したように小さく笑みをこぼした。


「……ようやく、飲んでくれましたね?」


「……やられた……だが、強引だったな?」


「だって、なかなか飲んでくれないんですから……こうでもしないと!と思ってしまって」


「……なら、もう一回だけ……キスをしよう……お前とキスをすれば安眠出来そうだ」


「え。あの、それは……な、治ってからでは……ダメですか?」


「今更だろう。……口移しをした人間が何を言っているやら……ほら、早く……」


 キスをねだるアーロンは私の頬に熱い手を添えながらじっと見つめてくる。その目も、熱を帯びているせいか、いつもよりも色っぽく見えるのよね……。王子様スマイルとはまた違った威力があるからさすがの私だってたじたじになりながらゆっくりとアーロンの顔に自分の顔を近付けていくとチュッと軽く合わさる口付けをした。……でも、こんなに弱弱しいアーロンを目にしたせいか、つい私もアーロンともう少し触れ合っていたいと考えてしまったのか、寝ているアーロンの上からチュッと何度か唇を重ねると……ついつい、アーロンの唇を軽く舌先で舐めるとそっと開いたアーロンの口内に舌先を差し入れて深く口付けをしていく。もちろんこんなキスなんて自分からしようだなんて考えは思い浮かばなかったわよ。だけれど……ここにいるのが、ちゃんとしたアーロンその人だってことを確認したくて……それで、深い口付けをしてしまった。アーロンは熱が出ている?しんどそう?……今だけは、許して……とばかりに、アーロンも舌先を出してくれると熱い舌先に自分の舌先もぺろりと舐め絡めながらチュッチュウと口付けを交わしていた。

 唇を離すと熱のあるアーロンはもちろんのこと、私も息が上がり『ハァハァ……』と吐息をもらした。アーロンとの口付けは危険だ。ある意味、中毒性があるというか、一度するとしばらくしたくなってしまって夢中になってしまいそうになる。それをなんとか我慢して、唇を離すとアーロンも顔を赤らめながら満足そうに私の頬に手を添えて微笑んでくれた。


「……随分、積極的だったな?」


「……すみません。具合が悪いのに……」


「バカ。……もっと、したかったぐらいだぞ?」


 さすがにこれ以上は、体がツラいだろうと思って優しくアーロンの頭を撫でて上げると、また眠気に襲われてきたのか、うつらうつらとしはじめている。


「……ゆっくり、休んでください……ちゃんと、そばにいますから……」


「……手……握ってくれ……。これは、うつらないんだろう?だったら、お前も隣に来い……」


 薬の影響か、眠そうに言葉も途切れ途切れに発しながらシーツから差し出した手は私を求めているようだ。私も、看病にだいぶ疲れていたところだったし……少しぐらいなら良いだろうか、とアーロンの横に寝転がり、アーロンの手をきゅっと弱い力で握った。

 それを確認したアーロンは安心したように瞼を閉じ、すぐにまた寝入ってしまったようだった。


 もしかして、私、とんでもない行動を起こしてしまった!?それに相手は病人よ!?それなのに、あんなキスをしてしまうなんて……これで、アーロンが余計に具合が悪くなったら確実に私のせいってことになっちゃうわよね!?……ど、どうか……キスぐらいは許してください!ついついアーロンの色気に私もアテられてしまったみたいなんです!


 アーロンに心の中で謝罪をしながら、すぅすぅと寝入っているアーロンの額に改めて冷たく濡らしたタオルを置くと、再びアーロンの手を握りながら横に寝転がらせてもらうことにした。

 手が熱い……それに、近くに寝転がっているだけだというのに、アーロンの熱が私にまで届いてきそう。こんなに病ってツラいものなんだ……エマさんからの薬も飲んだし、少しぐらいは良くなってくれると良いなあ……。さすがに、何度も口移しで薬を飲ませるのはいろいろと大変なので、これからは自分で飲んでもらいたい。


「……ふふっ、どうか早く良くなってくださいね……」


 具合悪い人と添い寝なんてなかなか出来ることじゃない。一般的には、移るからという理由で、一緒に寝たりはしないだろう。でも、今回の病は魔力を持つ人だけが罹るという病だから私が添い寝をしたとしても私には影響は無いらしい。

 いつもだったらこんなことしないんだから……と、アーロンの熱い体に距離を詰めてぎゅっと抱き着くように添い寝をしながら私もだんだんと重くなってくる瞼に我慢することなく、久しぶりに深い眠りについていくことにした。こんなにまともに眠りに落ちるなんて何時間ぶりだろうか。それだけアーロンが心配で寝られなかったってこともあったのだけれど、よく分からないアーロンから生まれた人格が気になってしまって落ち着かなかったということもある。きっと、彼はそう頻繁に表には出てこない存在なのかもしれない。それはなによりだ……。


「……愛していますよ、アーロン。……ですから、治ったら構えなかった分、いっぱい私を構ってくださいね?」


 愛……か。

 こんなに素直に愛情を口に出すのも自分では珍しいことかもしれない。でも、こうやっていろいろなアーロンの姿を目にしていくと、それだけ愛おしくなってくる自分がいた。普段はキラキラ王子様、そしてたまに降臨してくる俺様にドキッとしつつ、さらには病でダウンをしてしまった弱弱しい姿も見せてくれて甘えてきて……好きにならないはずがない。私は、アーロンに恋をしてしまったんだろうか……?でも、許嫁で終わりにしようと考えていたつもりだった。でも、今はアーロンに愛を伝えてしまった。つまり、好きってこと?

 本当に?たまたま弱っている人間を看病し続けてしまったから、そんな感情が生まれてしまっただけでなく?……もしも、本当にアーロンのことを好きになってしまったのなら……私は、これからもずっとアーロンのそばにいたいと考えてしまうのだろうか。戻る世界があるというのに……でも、今更、彼のそばから離れるなんて……私には出来ないかもしれない。

 私にはアーロンが必要だ。国のために、私を使ってくれ、と言ったけれど、アーロンのそばにいて、ずっと支えていきたいと、改めて思うようになった。これ、大丈夫かしら?私、どんどんアーロンに夢中にさせられていない?私がこれだけアーロンのことを想っているのだから、アーロンだって私のことを想ってくれないと割に合わないわよね。……看病が終わり、体の具合が良くなったらいっぱいいっぱい構ってもらうんだから……嫌だって言っても、構ってもらいますから、ね?

 キャッ!まさかまさかの口移し!!!大胆ね!!凄いわ!!やるじゃない!主人公!!


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