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六十九話 アーロン、熱くないですか?

 イイ匂いの立ち上る紅茶をテーブルに、ソファーにはもちろんアーロンが待機していたが、普段よりもソファーに凭れ掛かり、だらけている様子。

 そんな様子を小さく笑いながら紅茶が入ったカップをテーブルに……アーロンの座る手前へと差し出した。

「どうぞ」


「あぁ、ありがとう……」


 自分もソファーに……アーロンとは向い合せになる位置に置かれているソファーに座ろうとしたのだけれど、アーロンに腕を引かれてしまって、彼の隣に座ることとなってしまった。

 すると、私の肩にアーロンが凭れ掛かってくるものだから、だいぶ疲れたのかな?……あれだけの多くの市民の人たちの前に立つってことはそうそう体験出来ないことだろうし、その上、アーロンは立派な挨拶をしたものね。そりゃあ疲れないって言う方が無理があるかもしれない。


「お疲れ様です。……お茶を飲んだら、少し横になった方が良いのではありませんか?」


「ん……その時には、もちろんレンも一緒にいるんだろう?」


「え、えぇ……その、つもりですけれど」


 私が用意した紅茶をゆっくりと口に運ぶと、安心したように『はぁ~……』と深い息を吐き、また私の肩に凭れ掛かってくる。

 もしかして今まで溜まっていた疲れがドッと現れたとか!?もしかして、医師とか呼ぶべきかしら!?


「……なんだか、俺は、これからもやることそのものは変わらないんだな……でも、レンはあれこれ考え出して、新たなことに挑戦していこうとする……何処からそんな考えが思いつくんだ?」


 あれ、ちょっと……もしかして、傷付いている?私が市民のために、あれこれしたいと考えて口に出しているものだからアーロンは自分は何も変わらないままでいることに……ショックというか、なんて言うんだろう……自分は国に対して何も出来ていないとかって考えているんじゃ……?

 不思議そうに呟くアーロンに対して私は『何言っているんですか』と話し始めた。


「アーロンは毎日のように仕事をしているでしょう?それって、自分のためじゃないですよね。国のため、市民の皆さんのために役立っているんじゃないですか?その、はっきりと目に見えるモノばかりではないかもしれませんけれど。アーロンが動かないままだったら、きっと帝国ってボロボロな国になっていると思うんですよね」


「……まあ、あんな王と王妃が国のトップにいるからな。……俺がやらなきゃ今頃、廃れているだろう」


「あー……はは、は……それは、考えたくないモノですね。でも、アーロンやフランがいてくれて良かったです。それに、私が最初に帝国に来たのも……もしかしたら運命だったのかもしれませんね」


「運命?」


 私の肩から顔を上げたアーロンは、不思議そうに私の顔を見てくる。それはそれは不思議そうに目を丸くしていた。普段よりも、幼く見えてしまって今は恰好良い王子様って感じよりも、可愛らしい動物って感じがする……あ、そう言えばオリーブはフランに預けたままだったわね。


「もしも騎士団が来てくれなかったら……もしかしたら他の国に連れて行かれていたってことでしょう?そうしたらそもそもアーロンとは出会えていなかったってわけですし、他の国では珍獣扱いとかも受けていたかもしれない。そんななか、アーロンは私を許嫁に、そして王妃の椅子に座らせようと考えてくれている。そんなこと信じられませんでしたよ」


 私のこの世界でのスタートは、夜盗に捕らわれていたところからはじまった。そして、ラウルやラインハルトたち騎士団が来てくれることによって、騎士団がいる帝国に。そしてアーロンに出会うことになった。普通に出会うことになるのならまだしも、私は『豊穣の女神』伝説に登場する救世主らしい存在そのものらしくて、そこに興味を持った。……でも、それだけじゃなくて私という存在に興味を持ってくれたらしくて許嫁にしたい、未来の伴侶にしたいと言い出したアーロン。

 最初はもちろんお断りしていた。私にもやりたいことがあったもの。でも、アーロンの生い立ちやらなんやらを聞いていくと、無視が出来なくなってしまって……しばらくはアーロンが落ち着くまで、帝国がしっかりと貧富の差が無い国に出来るまではアーロンとともに生活するのも良いかなと思ってしまって……今に至っている。まあ、たまにアーロンが素の俺様超ドSな雰囲気を醸し出してくれることもあるので一緒にいて私は得をしているときもあるしね。


「……あー……まあ、先に我が国の騎士が駆け付けて良かったと今更ながらに安心しているよ」


 私の腰に手を回して引き寄せようとしてくるものだから、たまたま手にしていた紅茶のカップを慌ててテーブルに置くと、更にアーロンの手の力が強まり、ぎゅうぎゅうと抱き締められてしまった。

 あったかいなあ……。

 なんだか、少し熱い気もするんだけれど……って、熱い……?


「アーロン?……えっと、少し、失礼しますね?」


 そう言えば、ちょっとおかしいとは思っていた。

 自分の部屋だからって、ソファーに凭れ掛かって座るような人だったかしら?それに、妙に甘えてくるというか……触れ合いばかりしているような……?


 キラキラと光る額に掛かる金髪をちょっと退けて額に手のひらを当てると……少し、熱くない?

 さっきまでは疲れただろうからソファーに凭れていたのかと思っていたのだけれど、もしかして、コレって熱があるんじゃないの?


「……アーロン……あなた、コレ、熱があるのでは?」


「……熱?」


「熱い、ですよ?」


 アーロンは自分の頬やら額やらをぺたぺたと触れては、次いで私の額やら頬に触れてくる。やっぱり、アーロンの手は、普段よりも熱い気がする……!


「……あまり、普段とそう変わらない気がするが……熱い、のか?」


「絶対に熱いです!風邪……って感じでしょうか……えっと、お城にもお医者さんっているんですよね?呼びますからアーロンは……っ、て、ちょっと!!」


 私は急いでお医者さんを呼びに行こうとソファーから立ち上がろうとするものの、そんな私を逃さないとばかりに、腕を伸ばしてぎゅうぎゅうと抱き締めてくるアーロンにさすがに困ってしまう。しかも、熱があるくせに腕力そのものは今のところ衰えていないようでアーロンが離してくれないと私はいつまで経てもこの場から動けないじゃない!


「……行くな」


「いやいや、そういう場合じゃないでしょう!まずは、アーロンは寝ていないと!もしかして熱が出るのは久しぶりだったりしますか!?なら、自覚は無いかもしれませんが放って置いたらますます熱が高くなるかもしれませんよ?」


「……医者を呼びに行く、だけか?……また、戻ってくるか?」


 うわー……。

 これは、具合が悪くなった人のありありパターンっていうヤツかしら。一人ぼっちにはなりたくないっていう子どもね。確かに具合が悪くなると一人で過ごすときって妙に寂しくなっちゃうから誰かにそばにいてもらいたいっていう気持ちは分かるんだけれど……。

 王子様とも、俺様とも異なる口調で、まさに子どものように何度も何度もたずねてくるアーロンに『もちろん、そばにいますから』と応えるとようやく腕を離してくれた。


「……立て、ますか?取り敢えず、ベッドに行きましょう……?」


 ゆっくりとアーロンがソファーから立ち上がるけれど、何処を見ているのかぼんやりとしているような気がする。

 いつから具合が悪くなったんだろう……?気疲れ、ってヤツなのかしら?でも、アーロンよ?


 そっとアーロンの体……背中に手を添えながらベッドに移動してもらうと、上着を脱いでもらい、なるべく楽な恰好になってもらえばその体をベッドの中に潜り込んでもらった。上着はちゃんと掛けているし、首元を飾っていたスカーフやらタイといったものも完全に外してもらって、ついでにシャツのボタンも幾つか外してもらっている。

 ……なんというか、目に悪い光景になってしまった。色気が、凄い……。ぐったりとしていて、体に触れれば熱い。そして目は少し瞼が降りてきていてぼんやりとしているから、心ここにあらずのような雰囲気。シャツのボタンもだいぶ外し、胸元を開けているから見る人によっては私がアーロンに手を出したように見えてもおかしくないかもしれない。が、断じてそんなことはしないから安心していただきたい!


「……で、では、すぐに呼んできます……」


 アーロンの部屋から出る時に、何か話し掛けられた気がしたけれど、とにかく早く医者を呼びにいかなければ!医務室……救護室とかにいるかしら。

 と、とにかく城の中で擦れ違う人を見つけては『お医者様は何処ですか?』と聞きまくって、ようやく見つけた医師を連れてアーロンの部屋へと戻ることになった。

 あら、大変!王子様でも熱が出るのね!?あらあら、これからは看病もしないと!


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