六十八話 普段着をラフに変えたいです!
一人はビシッとした正装姿。
もう一人は下着姿……という、はしたない恰好のままで抱き締め合っていた。
「……ふむ。髪は、しばらくこのままでも良いか……」
軽くまとめられていてバラのコサージュが付けられている私の髪をジッと見ると、崩すのは勿体無いとばかりに呟いたアーロン。そう思うのは自由なのですが、そろそろ着替えを……いつまでもこんな恰好(下着姿)でいたくないのですが……。
「線が細い。肌が綺麗だ。……銀髪も美しい」
「?急に、なんですか?」
まじまじと私を見ては、あちこちと褒めまくるアーロン。顔は大真面目だし。一体どうしたんだろう?
「俺がここまで言うんだぞ?……これ以上、どんな魅力を上げるつもりなんだ?」
「!あぁ、その話ですか。ですから、もう少し出る所は出ていても良いんじゃないかなあと思いまして」
エマさんに話していたことを気にしているんだろう。今の体型に不満があるわけじゃないけれど、もう少しグラマラスでも良いかなあと個人的には考えている。
いい加減ドレスに手を伸ばしたいのに、アーロンがそれをピシャリとダメだ、と言ってくるように私の体を抱き締めてくるものだからいつまでたっても着替えることが出来ない。いえ、あの……そろそろ体が冷えてきてしまうんですが……。
「アホか。これ以上、デカくしてどうする?それとも何か?お前は俺以外の男から注目されたいのか?俺たちは許嫁になったんだぞ?」
あ、一応意味は伝わっているみたいね。だったら話は早いじゃない。
「別に周囲の男性から注目されたいわけではありませんよ?たまには、アーロンをドキッとさせてみたいと考えていまして……」
「はあ!?」
『やっぱりアホだな』と失礼なことを言いながらようやく体を離してくれたものだからようやく替えのドレスに袖を通していく。が、どうしても紐を結い上げなきゃいけないところは自分では上手く出来なくて(別に、チャックは一応上げたからこのままでも別に不便は無いのだけれど……紐をたら~んと垂らしてしまうのはみっともないかもしれない)仕方なく、アーロンの手を借りることになってしまった。
頼めば、『はいはい』と手伝ってくれるアーロンの手付きに感心しつつ、豪華なドレスから普段着ている抑えめなドレスに着替え完了!先ほどまでの豪華なドレスは淡いピンク色をしていたからちょっと着慣れない感じがしたけれど、普段の淡いブルーがかったドレスは見慣れているせいか着替えると落ち着く感じがした。
「……ありがとうございます」
「別にこれぐらいは、な。だが、そろそろ一人で着替えられるようになった方が良いんじゃないか?」
「それは、まあ……考えてはいるんですが、なかなか難しくて……もっと、作りがシンプルな服があればそれが良いんですけれど……」
大げさな話かもしれないが、城にいるからって毎日のようにドレス姿で過ごさないといけないのだろうか。城下町では、シンプルなワンピースタイプを着ているご婦人方はたくさんいたし、そういうタイプの服って着脱も簡単だろう。ラウルも給仕をしているときには、シンプルな服装をしているのだし、私だってそういう恰好をしてゆーったり過ごしたいものだわ。
「一応、ここは城だし。王子の許嫁、だからなあ……」
「いえいえ、場所とか身分とかはぶっちゃけどうでも良いです。クレイン国にいたときを考えると、随分着るモノも違いましたから。ちょっとこっちの着るモノは堅苦し過ぎると思いませんか?」
「まあ、少しは……」
「でしょう?今度、ラフな格好……もっとシンプルな服で過ごすことが出来ないものか考えてみましょうよ!それに、そういう恰好をすることで城下町の市民の方の気持ちも分かるかもしれませんよ!」
要は、着るのも脱ぐのも時間が掛かってしまうドレスが大変……っていうことなのだけれど、それは男性であるアーロンにはなかなか分かってもらうには時間が掛かるかもしれない。男性は、正装だっていってもズボンを履いて、上着をバサリを着込む……って感じだけだものね。なんで女性ってこんな複雑な……時間が掛かる服を着たがるのかしら?
如何にもモニカ様って作りが複雑そうなドレスとかが好きそうよね。自分を綺麗に見せたがるためかしら?でも着るモノで、そんなに変わるものかしらねぇ?
「分かった、分かった。……取り敢えず、お前が面倒なのは分かったから。また、考えておくから……」
あ。なんか面倒くさそうだわ。これ、絶対に分かっていないでしょう。
「っもう、ちゃんと考えてくれないと私、お城から抜け出して城下町でひっそりと暮らしてしまうかもしれませんよ?」
「おい……」
「許嫁になったばかりだというのに女性に逃げられたらさすがのアーロンだって気まずくなるでしょう?だったら、ちゃんと考え……っ、んん!?」
言い終わるよりも前にアーロンに顔を固定されてしまって唇を合わせることになってしまった。ちょっとイラついていたのか、その口付けはちょっぴり強引で、私の息さえもアーロンに奪われてしまうかのように重ねられる。
ぐいぐい、とアーロンの胸元を押し返すものの、こりゃまたびっくり全然動かない。片手は私の後頭部、もう片手はしっかりと腰にまわされていてアーロンとの距離がかなり近い。
不意に、ジロリと蒼い瞳で見つめられるものの、また瞼を閉じてはキツいほどに私を抱き込んでいろいろな角度から唇を合わせていくものだから頭の中がとろ~っと蕩けてしまいそうになる。こうなると何が危ないって足が、膝が、がくんって崩れ落ちそうになるものだからそれを堪えるためにアーロンの上着に必死になってしがみついた。
まるで、それを待っていたかのように唇を離すと、先ほどまで重ねていた私の唇を片手の親指でそっとなぞってくる。『ハァハァ』と息を上げながらアーロンを見つめると、何かを言いたそうに見つめ返してくるのだが、これは……さすがに、先ほどは私が言い過ぎたんだろうなあ……。
「す、すみませんでした……」
「……分かれば良い」
私の謝罪に、満足そうに頷くと改めて愛おしそうに私の頬にチュッと口付けをして『よしよし』と満面の笑みを浮かべながら頭を撫でてくれた。……あれ、子ども扱い?これ、小さな子どもにしているような仕草に見えなくもないのだけれど……。
アーロンは着替えそのものが面倒だったらしく、首回りを飾っていたスカーフやらタイやらを緩く外しただけで、服そのものを着替えるようなことはしないみたい。う~ん、正装って堅苦しくないのかしら?と考えていればそれを見越したかのように『これぐらい慣れているから苦ではない』とあっさりと答えが返されてしまった。
「どうする?アッチで、まったり過ごすか?いつもの部屋に行くのも良いが……さすがに今日これから仕事だなんて俺は嫌だぞ?」
さすがに今日みたいな日に、これから山のように積み上げられた書類とは視界に入れるのも嫌らしい。でも、『アッチ』ってアーロンが指差したのはベッド……なのよね。え、もしかしてお昼寝っていう意味だったりする?お昼寝だなんてアーロンがしているところなんてほとんど見たことが無いのだけれど、意外と出歩いて疲れたのかしら。
「……私は構いませんけれど……あ、なんだったらお茶でも用意しますか?」
「!貰う」
私のお茶は、すっかりアーロンの胃袋を掴んでしまったらしい。いろいろな人に、美味しいと言われているがやっぱりアーロンも気に入ってくれているみたいね。
だったら、ベッドは危ないから、部屋に備え付けられているソファーとローテーブルでまったり過ごすことにしましょうか。
アーロンの部屋にもお茶一式が揃えられているから、きっと何か口にしたいときには自分で用意していたのかもしれない。でも、一人で過ごしていてお茶って……あんまり楽しそうじゃないわよね。
紅茶の準備をはじめながら、イイ匂いのする紅茶にうんうんと頷きつつ温かな紅茶が仕上がるのをしばらく待った。
普段着に苦情がある様子!普段着だもの、ラフなぐらいで良いと思います!とレン様がご要望だ!さて、王子様どうする!?城での過ごす衣類についてこれから考えていくのだろうか!?
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