六十七話 王妃様は情緒不安定?
楽しかったわねぇ!もうちょっとゆっくりしたかったけれど、さすがにドレス姿であっちこっち出歩くのはマナーが悪そう?みたいだから。
それに、エマさんに今度こっそり相談してみるんだから!
許嫁宣言も無事に終わり、同じく広場にあったお店だけだったけれどそれでも見て回ることが出来たので楽しい一時を過ごすことができた。もちろん私の隣にはアーロンが付き添っていたのだけれど、まあ許嫁になっちゃったわけだし?別に、一緒にお店を見て歩くぐらいは……い、いいわよね!?変なことじゃないわよね!?
でも、馬車で城に戻った私の目の前には、眉間に皺を作り、なんとも苦虫を嚙み潰したような(だいたい虫を噛むって何よ、信じられないんだけれど!?)顔をしている王妃様こと……モニカ様が立ちふさがっていた。な、なんですか、その顔……もしかして、モニカ様もお祭りに行きたかったとか?だったら今からでも遅くは無いと思うので行ってくればいいじゃないですか!
「……可愛らしい恰好をして、どちらへ?」
「え?あの、城下町に行っていたんですけれど……」
「そういう事を聞いているんじゃないわよ!なぁーによ、二人して!アーロンが言うには私やら王が邪魔らしいじゃない。まったく、今まで育てて来たというのに自分がそこそこ大人になったら親なんて邪魔扱いするのかしら!?恩知らずな息子だこと。それに……何処から連れて来たのか、あなたみたいな存在が急に出て来てしまうしねぇ!!」
うわー……ご立腹ですねえ。最近は、ここまで気に食わない相手に向かって暴言をすることも見られなくなってきているから(現代だとパワハラがあるとすぐに訴えられちゃうでしょう?だから文句やら愚痴があっても注意する時代になってきているのよ)これはこれで見応えがあるわね。
「だいたい何よ、アンタの血を貰ってみたのだけれど全然効果なんて無いじゃない!ただ、まっずい血を飲むことになっただけだったわよ!まったくわたくしの苦労を返しなさい!」
「え、血を飲んだんですか……ある意味、凄いですね……」
「どういう意味よ!!」
「い、いえ……」
それにしても迫力満点だなあ。いつもこんな調子なのかしら?そのうち、ピキッと血管の一本や二本ぐらい切れてしまってもおかしくないような気がする。健康状態は問題無いのかしら?
でも、モニカ様の健康状態は気にしつつも、あなたや王様たちが今までやってきたことを考えるとどうしても許せないんですよね……。
あれ、そう言えばアーロンは?先に着いたんじゃなかったのかしら。
「あなたも堂々とアーロンの許嫁になることを宣言したのでしょう?ふふっ、そしてアーロンの子を授かって、そうそうにわたくしを王妃の座から退けるつもりかしら?でも、わたくしはそう簡単に王妃の座は譲りませんからね!」
え、いや、あの……まだ許嫁になったばかりなのに。エマさんといいモニカ様も、なんで子の話になっちゃうんですかね!?私とアーロンはそういうことはしていませんから!一緒の部屋で寝ているだけですから!!
「!母上。そんなところでレンと何をお話されているんです?先日、言いましたが、レンに何かすれば……あなたの首が飛ぶかもしれませんよ?」
何処からともなくやってきたアーロンは、ニコニコと話しているもののその背後には黒いオーラのようなものが見えてしまった。あー、笑っているけれど、これは笑っていないわね。怒りながら黒い笑みを浮かべているんだわ。
「!う、うるさい!子どもは親の言うことを大人しく聞いていれば良いのよ!なんで二人ともわたくしの言う通りに大人しくしていられないの!?」
突然、癇癪を起したようにぎゃあぎゃあと騒ぎ始めたものだからアーロンと目を合わせると一緒になって?マークを浮かべてしまった。ど、どうしたのかしら……。
「やっとの思いで王妃の座を掴んだのに、今更手放すなんて出来ないわよ!一生遊んで過ごすことができる!自分のしたい時間を過ごせる!なのに、なぜわたくしを王妃の座から退かそうとするの!?わたくしは、わたくしは……絶対に、あなたなんかに譲りませんからね!」
とにかく言いたいことを言うだけ言って、ズカズカと城の奥(きっと私室とやらに)に引っ込んで行ってしまった。特に私は聞き役ばかりに徹していて、あまり反論らしい意見は言わなかったはずなのだけれど、モニカ様は一人で盛り上がって、一人で勝手にいろいろ決めつけて去って行っちゃったわね……。
「な、なんだったのかしら……」
「……はぁー……あんなヤツのことなんてすぐ忘れていいさ。……その見事なドレス姿を拝めなくなるのは残念だが……着替えた方が良いだろう?その方が動きやすいし」
「……そう、ですね。でも、本当に綺麗なドレスでびっくりしちゃいました」
「ああ。とても綺麗だよ。この恰好で社交界に行けば……いや、無駄に男の目を集めて危ないかもしれないな……止めておこうか」
「アーロン?……社交界っていうところは、私も行った方が良いんでしょうか?」
「まあ、社交界っていうのは上流貴族たちの挨拶をするような場だ。知り合いがいるなら近況報告のようなものをするぐらいで、別に俺たちには必要無いんじゃないか?」
「そういうものなのですか?」
ちょっぴり憧れた『社交界』という場。でも、そうか……他に貴族の知り合いみたいな人は私にはいないものね。わざわざそんな所に行く用事みたいなものは無いってことか。
アーロンに肩を抱かれながらアーロンの寝室に入ると、途端に私の体はアーロンの腕の中に抱き込まれてしまった。長い長い腕でしっかりと私の体を包み込んでくるからあたたかい。そして、私の肩辺りにアーロンの頭が押し付けられると小さく『ふぅ』と溜め息を吐かれたものだから思わずビクッと体が震えてしまった。え、いや、あの……吐息に、びっくりしてしまっただけで……。
「……それにしても最初は緊張して話せなくなったのかと思ったが、いろいろ話しだしたよな。なんだ、あれ。急に。しかも、炊き出しか?別にするのは構わんが、いきなりどうした?」
「わ、私だって帝国で何かしたいと考えていたんですよ。国民の皆さんと何が出来るかなぁって考えていたときに帝国でも貧困に困っている人がいると聞いていたものですから炊き出しを思いつきました」
「……俺の部屋で、俺に紅茶を用意してくれる役目は?」
「もちろん、それもしますよ。でも、他の時間は……えっと、城下町に行きたいです……」
「……名前も知らんヤツに、レンの手料理を振る舞うってワケか……気に食わん」
「あはは、手料理だなんて……」
「炊き出しだってじゅうぶん手料理に入るだろうが」
拗ねて、しまったんだろうか。ちょっと子どものように感じたアーロンの頭に手を伸ばすと『よしよし』と眩しい金髪を撫でてあげた。すると意外にも単純なモノで、それだけでだいぶ気分を良くしてしまったみたい。……ちょろいわね。
「さて。……脱がすか」
「……は?」
「あ。今、ラウルはいないぞ?広場の片付けに加わっている」
そう言いながら私の腰元からスッと手を滑らして背中に手を回すとキュッと絞められている紐を次々に緩めていった。マジか!?このままだとアーロンの前で、ドレスを脱ぐことになっちゃうじゃない!さすがにそれは避けたい!
「じ、自分で脱げますから!」
「これぐらい手伝ってあげても良いだろう?遠慮するな」
するする、と紐を緩め、付いていたチャックもジィーと下ろしてしまえば、あとは腕をドレスから引き抜いてしまえば簡単にドレスが下にするっと落ちてしまう。でも、胸元をしっかりと押さえることでドレスが落ちないように留めていた。
「……どうした?脱がないのか?」
「……だって、は、恥ずかしいですし……」
「はぁー……じゃあ、後ろを向いているから、脱いで違うドレスに袖を通したら教えてくれ」
「は、はい……」
胸元を押さえていた手を離すとふんわりとドレスは床に落ち、着替えようとしていたドレスに手を伸ばしたところをアーロンの手に捕まってしまった。
アーロンはニヤリとした意地悪な笑みを浮かべていて、しかも視線は私の体をばっちりと向いている。
「ちょ、言ってることと違うんですけれど!」
「たまには良いだろう?それに俺たちは許嫁だぞ?こういう交流があってもおかしな話じゃない」
アーロンはまだビシッと正装姿なのに、下着姿になってしまった私を正面から抱き締めると愛おしそうに私の後頭部を撫でてきた。
「こんなに魅力的なのに、これ以上魅力を上げてどうする?俺に襲われたいのか?」
そ、そういうわけじゃないのにーっ!!
ぽかぽか、とアーロンの胸元を軽く叩きながら意地悪な笑みを浮かべているアーロンと少しばかり抱擁の時間を過ごしていたのだった。
おいおいおい!下着姿になったらいろいろまずいだろう!せめてベッドに行け!(ぇ)
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