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六十二話 ハレの日

 準備は順調。

 そして、ある朝。

 私は花火の音によって起こされた。

 その日の朝は、花火のような打ち上げられる音で目が覚めた。もちろんアーロンと一緒に寝ていたベッドから目が覚めた私。


 ドン ドンドドン!


 と、それはそれは朝から数回に渡って慣らされた花火の音。花火と言っても夜空にキラキラ光るっていう感じの花火じゃなくて、音だけが鳴る感じの花火。現代でも、お祭りの日の朝とか運動会の朝とかに鳴っていた花火ってあったでしょう?それよ、それ。

 私よりも先に目が覚め、支度を整えていたらしいアーロンは城にまできちんと聞こえてくる花火の音に多少はビックリしていたものの、ついに『始まったか』と面白がるように笑みをつくっていた。アーロンは元々、仕事をしている毎日の中でも正装姿で過ごしているのだけれど、今日はより気合いを入れているみたい。何度も鏡の前で服装のチェックをしていたし、首元に巻かれているスカーフやタイが乱れていないかチェックしていた。

 そして、私はやっぱりドレスに着替えるためにラウルを呼び、アーロンには一旦外へ出てもらうことに。ちなみに私が今日着るドレスは、私の銀髪がより引き立つかのように作られたものなのか、淡いピンク色のドレス。私の銀髪そのものが日光に当たると反射してキラキラと輝いているので、ドレスの装飾そのものは控えめにされているらしいが、裾はふんわりと広がり、所々にバラの刺繍が入れられているそれは美しいドレスだった。これを仕立てるために、一体どれほどの人たちが時間をかけてくれたんだろう。どれだけの人たちが苦労してくれたのだろう。それを考えると着るのは少し躊躇ってしまうが、今日は『大切な日』なのだ。

 おまけに普段はそれほど髪の毛をイジることもしないまま、垂らしているだけで過ごしているのだが、ラウルは気合いを入れて私の銀髪と櫛を片手に鏡と睨めっこをしながら、『ふんわりとさせた方が良いでしょうか……あぁ、でもせっかくの美しい髪ですから多少は残した方が……』とあれこれと悩み、考えを口に出しながら私の髪の毛もセットしてくれた。ふんわりとだが全体的に一括りにした後、片方の肩口からまとめた髪の垂らし、髪の毛の途中にはドレスの刺繍にも入れられているバラのコサージュを付けてくれて何処のお姫様!?っていう感じに立派に整えてくれた。ラウルって何でも出来るのね!


 私の支度も終えるとアーロンを呼びに行ったラウル。支度を終えた私の姿を目にしたアーロンは、面白いぐらいに真顔で、しばらく私から視線を外せずにいた。


「どうしました?アーロン。せっかくの男前が台無しですよ?」


「……っ……お、お前の美しさに見惚れていたんだ。悪いか」


 お、思わず吹き出しそうになってしまったけれどせっかくドレスもヘアセットも整えてもらったのだから崩すわけにはいかなくて心の中で笑うに留めていた私を褒めてもらいたい。だって『見惚れていた』ですって!あのアーロンが、よ!!確かにドレスは凄い一品だし、ラウルの手によって整えられたヘアセットなんて普段はしないものだからアーロンからすれば新鮮なモノでも見ている気分なのかもしれない。私も驚いたけれどね。


「ふふっ。でも、今日のレンはいつにも増して美しいですよ!このまま式を挙げてもおかしくはないお姿です!」


「式!?」


 さすがに、それは行き過ぎ!いろいろすっ飛ばし過ぎ!


 今日は、アーロンと私が二人揃って城下町へ行き、許嫁宣言……アーロンが許嫁になった私を紹介するというもの。城でやれば?と思っていたけれど、お城でやったら何人来ると思うのよ。それに市民たちを大切にしているアーロンだから、どちらかと言えば市民たちに安心してもらいたい気持ちがあったのかもしれない。年頃のアーロンにもやっと許嫁が!って安心してもらいたい人もいるだろうし、もしかしたらなかには嫉妬に燃える女性たちもいるかもしれないけれどね。

 年頃のアーロンやフランに許嫁の『い』の字も出なかったのは、密かにイイ人がいるんじゃないかとか、実は女性には興味が無いのでは?といった噂というものもあったらしい。だいたい王子様ともなれば小さい頃には許嫁っていう存在がつくられちゃうものらしいのだけれど二人は決まって『許嫁はいりません』と断り続けてきたらしい。相手の女性たち……残念だったでしょうね。


「でも、本当に綺麗だ。……くそ、こんな姿を市民に見せるのか……やっぱり止めにしないか?」


「……お祭りは、はじまっていますよ」


 アーロンと私の関係を公表するのはもちろんのこと、城下町ではちょっとしたお祭りを開催しているらしい。これはアーロンとエマさんとのやり取りで決めたことらしいのだけれど、ただ二人の関係を公表するだけっていうのはちょっと寂しい……だったら、もっと楽しく、多くの人たちが楽しめるようなものになれれば……と考えた末に、あちこち露店のようなものが出される予定だし、普段は店内に入らないと買えないようなものでも店の外に商品を並べることで、より人の目に付くように、そして多くの雑貨や品も広場の中で出店を開くらしい。食べ物の出店もあるとか!それは、ちょっと……いえ、かなり楽しみね!


「そうですよ!こんなに美しいレンの姿は多くの市民に見せなければ!」


 ラウルもすっかりノリノリの様子である。もちろんラウルもこの後、自分の支度を整えて私のドレスの後ろ部分が無駄に傷ついてしまわないように持つ役を担ってくれるらしい。

 フランや事情を既に把握しているサイモン様たちもきちんとした正装をすることで脇に控える役目を担うらしい。オリーブは一時的にフランに預ける予定にしている。それをつげたときサイモン様がちょっとだけ物寂しそうな顔をしていたのは……見なかったことにしよう。ラインハルトは騎士団長として暴動などが起きないかきちんと見守るらしいわ。預言者様は……相変わらずよく分からないのだけれどそれなりに楽しみにしているみたい。


 ただ、この朝から聞こえるドンパチ騒ぎ。

 もちろん王や王妃たちの耳にも聞こえているようで、廊下からは慌てた様子で走ってくる音が。王妃様ってこんなにバタバタと走れるものだったのね。履いているものはヒールでしょう?そんなに急いで走って大丈夫なのかしら。


 ちょうどアーロンの部屋から三人揃って出てきたところで息を切らした王妃……モニカ様と顔を合わせることになった。当然のごとく、モニカ様は顔を真っ赤にしている。そして私の姿を見ると目をこれまでもか!と言わんばかりに丸くしていた。


「朝からなんですか、この騒ぎは!それに……そのドレスは……一体、あなたたち何をするつもり!?」


「何って……私がレンと許嫁になったという報告を城下町でおこなうだけですよ、母上」


「……城下町で?」


「えぇ。城で貴族だけを呼ぶ招待なんてつまらないではありませんか。帝国は市民たちも大勢住んでいるのですから城下町の広場で大々的におこなった方が楽しいでしょう?既に城下町ではお祭りムードで盛り上がっていますからね。……良ければ、あなたも見に下さってもよろしいんですよ?まあ、あなたにその気があれば、ですがね。あぁ、なんだったら父上と一緒に母上も挨拶の一言や二言下さっても構いませんよ?私とレンを歓迎するお言葉でもどうぞ。ただ……これほど美しいレンの前に出る勇気があなたにあるか……分かりませんけれどね」


 アーロンも意地悪なこと言うなあ……。つまりは、面倒くさがりなモニカ様も王様だって市民のお祭りなんかに来るわけないでしょう?『誰が市民の集うお祭りなんかに行くものですか!』って言うに決まっているじゃない。

 レンが今回着たドレスはめちゃくちゃ煌びやかです。あ、もちろんデザインそのものはレンを引き立てなければならないので一見すれば淡く普通のドレスかもしれませんが細かな装飾や刺繍が丁寧にされています。


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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