六話 『豊穣の女神』とは? 昔むか~しのお話です。
城へと連れてこられれば誰だってSな王様との謁見を迎えるかと思うじゃない?でも実際に私が出会ったのはこの帝国貴族の第一王子様である『アーロン』だった。
そこで私はアーロン王子から、長い歴史のなかでずっとずっと伝わり続けてきているとあるお話を聞かされることになった。でも、それって私に関係あることなのかしら!
『大昔の人々は魔法の扱いにも慣れず、毎日のように魔物からの脅威にさらされていた。便利なはずの魔法は魔物相手にまったく歯が立たず、魔物たちの存在によって絶え、滅ぼされる村や街は多かった。だが、天からの恵みによって一人の救世主があらわれることになったという。その救世主とは魔物の頂点に立つドラゴンが生み出した存在とも言われており見た目は死人のような銀の髪、それから今まで多く流されてきた血のように真っ赤な瞳を持つ人間の女性だという。この救世主があらわれると世界の均衡は一気にバランスを取れるようになった。魔物たちは必要以上に人間たちの生活を脅かすことはなくなり、人間たちは生活にゆとりが取れることによって腕が立つものは剣術を磨き、魔力に秀でる者は安定した魔法を扱えるようになったという。その救世主は世界を豊かにした存在として、『豊穣の女神』と呼ばれるようになった……』
というのがアーロン王子から聞かされた帝国に古くから伝わるお話。堅苦しい歴史書として残されている本もあれば、まるで童話のように子ども向けにアレンジされた絵本のようなものもあるのだそうだ。しかし……ちょっと気になったのだけれど。
「そのー……お話と私と、関係っていうのはあるのでしょうか?」
普通にファンタジーな異世界であればどこにでも転がっていそうな話ではあるかなといった感想を持ってしまった。だいたいファンタジーと言えば魔物の存在があって魔法も使えて……だけれど、いつの時代も混沌としている部分があってそこに颯爽と勇者だったり救世主だったりする存在が世界を幸福へと導く旅に出かける……っていう冒険モノが多い。
私が不思議がっていれば近くから呆れた溜め息のようなものが聞こえてきた。ラインハルト隊長だった。
「……貴様、今まで殿下の話を聞いていなかったのか?」
うっ!!
その冷たい瞳で『貴様』って呼ばれるのは最高ですね!!もっと呼んでほしいぐらいです!……が、このままでは話が先に進んでいかないだろう。
「き、聞いていましたよ!もちろん!」
「……レン。君は自分の見た目をきちんと見たことがないのかい?」
「えっと……確かに髪は銀髪ですけれど、これってそんなに珍しいことなのですか?」
アーロン王子とラインハルト隊長は互いに視線を合わせてから目を点にしつつ私を見遣る。(片方は睨みつけてきたっていうのが正解かもしれない!その鋭い視線も最高です!ラインハルト隊長!)
「この帝国内、いや世界において銀髪はそうそう生まれることはないよ。遠い東の大陸から移住してきたとされている先祖の血を引く者たちもそのほとんどは黒髪だそうだ」
東の大陸……まるで日本みたいな言い方よね。でも絶対に『日本』っていう名前じゃないんだろうけれど。でも私たちは普通に日本語としてお喋りをしている。西洋風の見た目の人たちからすんなりと出てくるのが日本語だなんて違和感が凄いのだけれど、そこはファンタジーあるある!ってことなのかしら。
「そして、レンの瞳は……血のように美しい赤い色をしているよ」
「殿下……その言い方は褒めているのか貶しているのか分からないんだが……」
「もちろん褒め言葉だよ」
赤い、目……?
本当かしら?
でも、銀髪に赤目って……ちょっと違うけれどホラーとかに出てきそうよね。『お前の血を飲ませろぉぉ!』って感じで。
「いやいや、でも、私はそれらしい特別な力があるわけでもないですし……」
「ドラゴン」
「え?」
「ドラゴンを唯一手懐けることができると言われているのがこの『豊穣の女神』に出てくる救世主しかいない。どんな強者であったとしても、どんなに手強い魔物を退けることができる魔法使いであったとしてもそれは今まで聞いたことがないんだ」
ドラゴン……確かに最初は大暴れしていてさすがにピンチかと思ったのだけれど『やめろ』って声をかけたら途端に大人しくなっちゃったんだっけ?人語を理解しているのか分からなかったけれど、それって私の声に反応したってことなのかしら?
「我ら騎士団が到着したとき、既にドラゴンは大人しくしていたようだ。……しかし、このような者が本当にその存在なのか信じられないのだが……」
「預言者殿の言葉は当たるよ。あの者は人間にも魔物にも味方することはあるが、その言葉に嘘はみられない。だからレンが言い伝えの女神である可能性は高いんだ」
う、う~ん……。
でもなぁ……これは私の勘でしかないのだけれど、今の世界っていうのはそんなに荒れているのかしら?夜盗とかが出てしまうのは仕方のないことっていうか、世界は広いんだもの。どこかで悪事を働いている者たちがいてもおかしくはないじゃない。
それにーーー
「もし、私がその女神であったとして……私はこれから何かしていかなければならないんでしょうか?」
無い。
できれば何も『無いよ』と王子様スマイルでお返しください!私には使命があるんです!超ドS様に会うという大事な使命が!!
「もちろんあるよ」
「え……」
「それは私の妃、もしくは妃候補の前段階として許嫁という立場でこれから一緒に過ごしていくことだ」
王子様からのスマイルはもちろんいただくことができましたが、それと同時に残念なお言葉を頂戴してしまいました。
え、っていうか、お妃様?王子様の!?
それは、つまりこの王子様と結婚しろっていうこと!?
「……殿下。世界が安定すればこのような汚らわしい女とわざわざ結婚までする必要は無いのでは?」
そう!そうよ!ラインハルト隊長の言う通りだわ!
確かに見た目優れていそうで穏やかそうで第一王子ということは将来は王様候補なのでしょうし、未来は幸せが待っていること必須なのかもしれないけれど、どうせ結婚するんだったら優しそうな王子様よりもいつも厳しく文句を言わない日は無いといったようなラインハルト隊長の方が私個人としては良い!
毎日、ドS様の言葉のなかで過ごしていたい……。
「んー、だめ」
ちょっと可愛らしく考え込んでから小さな子どものように言い放つアーロン王子。
「な、なんでですか……」
「なんでって……もちろん女神という存在を近くに置いて世界を安定させておきたい気持ちもあるけれど……レンに一目惚れしちゃったから、かな」
ドキッ
柔らかな笑みとともにアーロン王子は私を見つめてそう言った。これにはさすがに面を食らってしまった私はドキッとさせてしまったけれど!
って、違うわよ!今のは聞き慣れない言葉だったからついドキドキしちゃっただけでドMの私として喜んだわけじゃないんだからね!?くぅ……ドMな私でも爽やかな王子様スマイルを向けられたら多少はドキドキしてしまうけれど、本当に私が欲しいのはS様からの俺様発言だったりするんですーっ!!
『超ドMは超ドSに会いたくて……』お読みいただきありがとうございます。
まさかの王子様からの求婚(求婚で良いのかな?)!自分ももっと絡むのであればラインハルトのような男の方が……(ぇ)なんちって。
ちょっと変わったタイトル作品ではありますが、ご興味や共感などしていただけましたら『ブックマーク』や『評価』などお待ちしております!
異世界というファンタジーな世界観をもっともっと広げていくためにいろいろなキャラクターややり取り等楽しみにしていただけますと幸いです!