表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/105

五十話 二人の王子

 許嫁になるって何かすることとかってあるのかな?

 アーロンは、『そのままで大丈夫ですよ』、と言うばかり。

 改めてアーロンと話し合った。

 アーロンの仕事部屋で。

 お互いにソファーに向かい合って座りながら。当然、オリーブは私の膝の上。

 どうしてそこまで私と許嫁になりたいのか、そして王妃の座に私を座らせたいのかってこと。真面目な顔をしてたずねたら意外とすんなり応えてくれたわ。もしかして最初っからこうしていれば良かったのかしら?


「レンは薄々気付いているかもしれませんが、ここ帝国は本来ならば王族が治めているべき国になるんです」


「王族?……あれ、でもアーロンたちって確か、皇族でしたよね?」


「はい。もちろん皇族がトップになるのならば皇帝として国を治めていく話になるものです。ですが、この帝国のトップは国王を名乗っています。……その理由は……、私とフランについての生まれもお話しなければなりませんね」


 その時、少し……ほんの少しだけ寂しそうな顔をしたものだから私はおもむろにオリーブを抱っこしてスクッと立ち上がるとアーロンの隣に改めて座り直し、アーロンの手をそっと握りながら見つめた。その私の行為に小さく笑みを浮かべたアーロンはしばらくの間、口を閉ざしてしまった。いつまでも待ちます……と、アーロンのタイミングで話してください……、と伝わるようにしっかりとアーロンの手を握っていた。


「……ありがとうございます、レン。今の帝国のトップにいる、ユージン・ディランとモニカ・ディランは私とフランの実の親ではありません。私たちの生みの親は、現国王と現王妃の二人によって亡き者にされています」


「……お二人の、お墓は……」


 そうたずねるが、アーロンは小さく首を左右に振るばかりだった。まさか、お墓も無いの!?


「フランは生まれたばかり、そして私もまだ小さく幼かったので分からないと言うのが正しいかもしれません。ユージン氏とモニカ氏が皇族なのは間違いありません。ディラン家と言えば昔からそこそこ有名で実績もある家系でしたからね。ただ、ユージンとモニカの二人は欲でも出たのでしょう。当時、王と王妃として国をまとめていた王族の両名にあらぬ罪を着せて、処罰を下したのです」


「……罪って、アーロンはご存知なのですか?」


「よくよく聞けば有り得ない話だとすぐに分かるような内容ですよ。当時の王妃は敵対している国の出身だとか、この国を滅ぼすために送り込まれた間者だとかって言って詰め寄ったらしいです。もちろん周りの者たちだってバカではありませんから王妃がそんな出身の生まれではないことはすぐに分かりました。預言者殿は昔からこの国にいましたし、調べればすぐに分かったことなので。そこで、モニカは……レンにもおこなったような手段で当時の王と王妃を亡き者にしたのです」


「……毒物、ですか」


 こくり、とアーロンは頷くがいつの間にか私が握っていたはずのアーロンの手に、私の手が握られている形になっていた。アーロンの手が小さく震えているのは昔を思い出して悲しいのか、それとも憎しみゆえに震えているのか……。


「さすがにそれだけではモニカに疑いがかかる。そう考えたモニカは事前に用意をしていた手紙を亡くなった王妃の部屋に置いたそうです」


 『今まで黙っていて申し訳ありませんでした。私は、敵国の間者として送り込まれた者です。王は私をとても大切にしてくださいました。それが耐えられず、王とともに逝くことをどうかお許しください。二人の王子のことを、どうかよろしくお願いいたします』


 と書かれていた手紙の内容に、胸の辺りがざわつく感じがした。


「当時は、何の毒なのかさっぱりで、薬師や医学に詳しい者にも聞いてみたのですが分からなかったそうです。つまり、何処から毒を入手したのか、どんな毒だったのか分からないまま王と王妃を失うことになってしまったこの国は……どうなると思いますか?」


「それは、きっと荒れるはずでは……」


「そう、思いますよね。でも、不思議と世間は落ち着いていました。王妃の事情を突き止めたということでモニカには栄誉が与えられたそうです。そこで一つだけお願いしたいことがあると周りに伝えたところ、自分を王妃に、そして愛する夫のユージンを王にすることを願い出た。そこであっという間に世間では失われた王と王妃の話題は無くなり、現国王と王妃の出来上がり、というわけです」


 皇族が王・王妃の位につくのは前代未聞のこと、おそらくそれは世間的にも隠しておきたかったのかもしれない。そうして皇族という身でありながらユージン・ディランとモニカ・ディランは国のトップになった。


「その……皇族もそこそこ地位があるとは思いますが、栄誉が与えられたからと言ってすぐに国のトップになれるものなのですか?」


「私とフランがいたからですね。王族の血を本当に引いている二人の王子がいることは世間では知られていましたし、この世界では金髪ばかり。多少、性格が違っても見た目だけならば親子として見られるでしょう?それに、モニカは最初の頃は、きちんと育ての親として私たちの面倒をみてくれていたのですよ。今の様子を見るととても信じられないかもしれませんが、子どもは好きだったようです。が、現国王と王妃の間には悲しいことに子宝には恵まれなかったようで、私とフランが成長するに従って王族としての血を強く感じるようになったのでしょう。モニカはどんどん自由に過ごすようになりました。そして子どもたちの面倒はもちろん見ない。一度は、本当に母と慕っていた人だった。が、あるとき書庫にて書き連ねてあった先代の王と王妃の退位理由、そしてその毒を用意したのがモニカであることを知った私はすぐに現、王と王妃にその座を退くよう詰め寄ったのです」


 もちろん上手くはいきませんでしたが……と呟くアーロンはとても疲れた顔をしていた。毎日、山のように積み重なった書類と睨めっこをしていたってここまで疲れた顔を見たことはない。今は、昔話をしてくれているだけ。それでも、精神的に参ってきているのか疲弊具合が尋常ではなかった。


「アーロン……少し、休みましょう?ゆっくり、ゆっくりで構いませんから。……その、今にも倒れてしまいそうで……」


「はは、自分ではイラつく昔話をしているだけなのですけれどね……でも、久しぶりにこんな話をするので……疲れました……。少しだけ、膝をお貸しいただいてもよろしいでしょうか?」


「膝?は、はい。構いません。どうぞ……」


 『失礼します』と一言つげてからゆっくり体を倒すと私の膝の上に頭を乗せてきたアーロン。もともと膝の上にいたオリーブには、ソファーに移動してもらって、私のかたわらにいる。


「……すみません。いきなり、こんな重い話をしてしまって……それに、聞いていて気分の良い話でもないでしょう?……でも……どうしても、レンには…………」


 ?


「アーロン?」


 急に静かになって、何も話さなくなってしまったアーロンを心配して、そっと声をかけると『スースー』と寝息を立てていた。

 ……アーロンって、眠っているときもキラッキラの王子様なのね。こんなときに言うのは変かもしれないけれど、寝ていても王子様のオーラが凄いわ。

 でも、眠ってしまったのなら仕方がない。そーっとアーロンを起こさないようにしながらもキラキラと輝く金髪に手を添えて、そっと頭を撫でてあげた。どうか、夢の中では本当のお父様とお母様と会えますように……そう願いながら、頭を撫で続けていた。


 それにしても、あの両親からアーロンとフランっていう出来の良い王子がいるなんて信じられないと思っていたけれど、本当に血の繋がりは無かったのね……それに、モニカ様……なんてことを……まだ幼い王子二人が両親を失うツラさなんてきっと分からないのでしょうね。フランは生まれたばかりだって言っていたけれど、アーロンは親を失ったときのツラさや悲しさをどうやって発散させていたのかしら。もしかしたら、発散できないまま成長しちゃったんじゃないかしら。そんなの、悲しすぎるわ……そして、モニカ様……私、あなたのこと、嫌いです。もともとモニカ様のこと好いてはいなかったけれど、これで私も決心が付きそうだわ。


「あなたを……そこから、退かしてみせます……」

 言っちゃったよ!昔話!昔話とは言っても、アーロンからすれば、つい先日にあった物事を話すような気持ちで、語ったのでしょうね。でも、やっぱり思い出すのと、口に出すのとでは精神的にクるものが段違い!今はせめて静かに、落ち着く場所(レンの膝の上)で休んでもらうことにしましょう。


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお伝えしていきますよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ