四十八話 別れは涙とともに……
私はクレイン国に売られたはずだった。
でも、アーロンたちがやってきてギルバートといろいろと話し合っていたみたい。
私は……帝国に帰れる!!
アーロンは正式にギルバートと友好国の話をつけたらしい。
そうした方がこのクレイン国のためにもなる、とアーロンの考えだったの。とにかくクレイン国は貧しい代表の国といったところだった。なので、物資の補給だったり希望があれば帝国への移住も許可を、とアーロンは話したらしいのだがこのクレイン国のみんなはギルバートと一緒にいられる、この国でずっとこれからも暮らしていきたいとの考えらしい。ギルバート!あなたって本当に国民たちから慕われているのね!
国民が移住をしないのならば、せめてできることはなんでもする……ということで農作業に熱心なクレイン国のために必要なものは定期的に帝国から輸出するようになるらしい。もちろん高いお金をクレイン国が出すわけじゃない。友好国になったのだからほとんど無償に近い形で。でも、クレイン国で口にした『豆花茶』を気に言ったらしいアーロンは、お金の代わりにその『豆花茶』の栽培方法やその茶葉などをいただくように話を交わしたらしい。
きちんと話せば分かる。分かり合えるということに私は一人で感動していた。
私は不思議な力があるみたいで魔物とコミュニケーションすることができるけれど人間同士ならばきちんと落ち着いて話せば争いだって無くすことができるのでは?と考えている。だって人間同士よ?人間と魔物がコミュニケーションを図るのはとても難しいことかもしれないけれど、人間ならきちんと言葉が通じるものね。
ただ、私としてはこのまま素直に帝国に戻っても良いのか……と不安が残ってしまっていた。
短い間だったけれどクレイン国のみんなにお世話になっていたし、少なからず農作業で仲良くなったという人たちもいる。もともと帝国にいたからってそうすんなりと帰っても良いものなのかしら?
「……レンお姉ちゃん……帝国に行っちゃうの?」
畑であれこれと虫を見せにやってきて私を遊んでいた子がなんとも寂しそうな目を向けてくる。
うっ……そんな寂しそうな目を向けられるのが一番ツライわ……。そんな顔をされると帰ろうにも帰れなくなってしまう。子どもの素直な表情というものには誰だって弱いのよ!
「……そう、ね。やることがあって一度、帰らないといけないの。でも、もう会えないってわけじゃないのよ?これからは帝国とクレイン国は友好国……えっと、仲良くなっていくの。だから会おうと思えばいつでも会えるの。もちろん私だって会いに来るから……だから、泣かないで?」
よしよし、といろいろとお世話になることが多かった子の頭を撫でてあげると余計にそれがまずかったのか大声で泣き始めてしまった。
どどど、どうしよう……!?
「おい。男が泣くな。……お前も男なら、こういうときは黙って見送ってやるものだ」
助け船を出してくれたのはギルバートだった。
ギルバート……あなたはそう言えるかもしれないけれど、この子はまだ小さいのよ?ちょっとはこの子の気持ちにもなって考えて物事を言わないと……って私が文句を飛ばしてやろうと思っていたら、その子は目元をぐしぐしと拭いていた。またあふれ出そうになる涙を必死に堪えているみたい。
うぅ……こっちまで泣きそう……。
「……短い間でしたが、レンがお世話になりました。これからはいろいろと補給物資を運ばせていただきますが、足りないものがあればその都度ご連絡をください。それから、こちらを」
アーロンがギルバートと向き合って挨拶をすると籠に入った……鳥?のようなものをギルバートに授けた。
え、鳥?
「レンは見るのは初めてでしたか。こちらは帝国との友好の印として……主に伝書鳩の代わりのようなものですね。緊急の連絡などは手紙を鳥の足に付けて飛ばしていただければ帝国に……というか、私のところに飛んでくるようにしているのですよ」
ほぇ~……知らなかった。
鳥かごに入っている子は、真っ白な鳥。鳩っていう感じじゃなくて、現代で言うと……普通に、鳥っぽい子。敢えて言うならば、インコみたいな感じかしら。
「レン。もしも、コイツに嫌気が差したらいつでもコッチに来ても良いからな?」
「レンが私に嫌気が差すなんてことはありませんから!どうぞ、ご心配なく!」
挨拶とともに握手を交わしていたアーロンとギルバートだったが、なんとなく握手しているお互いの手に力が入って……アーロンなんてめちゃくちゃムキになっているじゃない。
「はは……でも、アーロンが嫌にならなくても、こちらには来させていただきます。また、農業のお手伝いさせてください」
「……虫がいるぞ?」
「…………虫は、ギルバートに追い払ってもらいます……」
お、思い出させないでーっ!
虫って聞くだけで体中がぞわぞわしてくるじゃない!まったく、意地悪なんだから!
「……では、私たちはこれで失礼します。レン……こちらへ」
私の肩に手を置いたアーロンに促されてラインハルトとオリーブが待機している馬車に向かった。
泣くな、泣くな、私!
さっき自分でも言っていたじゃない、一生会えなくなるわけじゃないって!また会おうと思えばいつでも会えるって!だから悲しくないのよ!
ぎゅっと握っていた手に気付いたのかアーロンは小さく困ったように苦笑いを浮かべていたけれど、それは私には見えなかった。だって、私はずっと足元ばかりを見ていたんだもの。馬車に乗り込むときだってなるべく気にしないように、後ろを振り返らないように、と思って下ばかり見ていた。ラインハルトからオリーブを私の腕に抱えるときだって『きゅう~?』とオリーブは不思議そうに私の顔を見上げて鳴いていたけれど、私は極力口を開かないように努めていた。
馬車の中では私の向かい側にアーロンが座ったところで、馬車は走り出した。
「ギルバートですか……もしかして、本当に彼とクレイン国で暮らしても良いかと考えていたのではありませんか?」
「……っ、そんなこと、は……」
「ふふっ、その涙がギルバートたちを想っての涙なら羨ましいことこの上ないですね。まったく、羨ましい人たちですよ……そうやって泣いてくれるレンがいるのですから、彼らは幸せ者です」
口を開いたからだろうか、ついポロッとこぼれてしまった私の涙。慌てて片手でごしごしと目元を擦るとぷいっとアーロンから顔を背けた。我慢しようと思っていたのに、泣いてしまうなんて……。
「帝国に戻ったらレンにはしてもらいたいことがたくさんありますから。どうか、今はギルバートやクレイン国のみなさんを想って泣いてください。きっと帝国に戻ったら忙しくて泣く暇なんて無くなってしまうかもしれませんからね」
「……アーロン……っ、ぅぅ……ひくっ……ぅぅっ」
アーロンに微笑まれて安心した気持ちもあったのか、しばらくの間、馬車の中では私の泣く声と、オリーブの『きゅう~』という小さな鳴き声だけが響いていた。アーロンは私とオリーブの様子を黙って静かに見守るばかりで、特に何か言葉を発したりするわけでもなかったのに、私は思いっきり涙を流し続けていた。
たまに大きく揺れる馬車だったのだけれどあまりにも泣き過ぎてしまった私は、泣き疲れてくたり、と眠ってしまった……。
私が眠ると分かったアーロンはそっと私の体を支えるために向かいの席から隣に移動して抱き締めながら私の体を支えてくれていた。帝国に、お城に着くまで……。
何か友好国になったのだから形あるもの、形になるものを……と考えたときに、連絡もすぐに取れる、鳥をご用意させていただきました。
きっと帝国と友好関係にある国には同じように鳥がいるのでしょうね。
ギル、また会いましょうね!!そして、アーロン、これからまたよろしくお願いしますね!!
ちょっと感動しながら文章を書き連ねていた作者です。ちょっとホロリと涙が出そうになった話になりました。みなさん、いかがだったでしょうか。
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