四十七話 甘い時間
アーロンが、らしくない。
俺様な言葉で従わせようとしてくる。それ自体は、私の中のドMは喜んでいるのだけれど……何か、変よ?
「俺の隣にいろ!妃候補として、許嫁になれ!」
「ちょ、アーロン……っ……」
ど、どうしちゃったの!?俺様アーロン様にしては、焦り……のようなものを感じるし、相変わらず掴まれている腕が痛い!
「はぁ~……おい、そこのアホ王子」
バシッと良い音がした。
ギルバートが近付いてきて思いっきりアーロンの頭を引っ叩いたのだ。それに合わせてアーロンに捕まれていた手が離れて良かったのだけれど、ちょっと腕がひりひりする……これ、痣とか赤くなったりしているんじゃないかしら。あ、でも私って怪我とか完治しちゃう体だったわね。
「……っ、ギルバートの言う通りだ。レンを妃にするには無理強いでも何でもするしか……」
「このアホ。いい加減正気に戻れ!」
ハッと我に返ったらしいアーロンはビクリと体を震わせると両手で自分の顔を覆って項垂れてしまった。どうしたのかしら。もしかして気分でも悪い?私が、いつまでも中途半端な返事しかしないから怒っているのかしら。
「あの、アーロン……前に……城下町で二人で出掛けたときのこと覚えていますか?」
「……覚えて、いますよ。もちろん」
「だったら、そのとき……私があなたに言ったことは?忘れてしまいましたか?」
「……私に許嫁候補があらわれなければ、レンが候補に考えてくれると言ったこと……?」
「そうです。もちろんその気持ちは変わっていません。でも、私は……もしかしたら明日急にフッとこの世界からいなくなるかもしれない。そうなったら残った人たちを傷付けることになってしまう。それが嫌で、申し訳なくて、だから……いろいろ言い出すことができないんです」
本当のことは言えない。私がこの世界の住人ではないということ。今はすっかりこっちの生活にも慣れてきているし、このままこちらで生涯を過ごすのも良いかと思ってはいるのだけれど、やっぱり何があるか分からないから。もしかしたらアーロンに素敵な女性が見つかって許嫁にしたいと言い出すこともあるかもしれない。そうしたら私の存在は邪魔でしかないものね。
「レンが……いなく、なる?死ぬ、ということですか……?」
「……似たようなことだと思ってください」
「持病か何か!?あなたのその容姿に何か関係があるのですか!?」
「それは、分かりませんが……それに、私の治癒力がこんなに高いなんて異常じゃないですか。普通の人間なら有り得ないことです。だから、もしかしたら……」
「嫌だ!……レンが、いなくなるなんて……そんなこと、嫌です!」
今度は力強くアーロンに抱き締められてしまった。ギルバートを見上げると『やれやれ』と肩を竦めてしまっている。まるで、今のアーロンは子どもだ。我が儘な子ども。
「せっかく心から愛せると思える女性だと……一緒にいたいと思える人なのです!それなのに、やっとそんな存在に出会えたのに、あなたが消える?いなくなる!?そうしたら私は……耐えられない!」
「……コイツの不可思議な力は未知数だからな。なるべく使わせなければ良いんじゃないか?だいたい伝説の話はどうなっているんだ。『豊穣の女神』は実際に何をしてきたんだ?そこら辺を……帝国みたいなバカでかい国なら文献の一つぐらい残っているんじゃないのか」
なるほど。
だったら、博識なサイモンや、本を調べてみるのも良いかもしれないわね。
「……あぁ、コイツは連れ帰っていいぞ。金は貰った。今のところ天候も安定しているからな。それに、またまずい状況になったら……なんとかしてくれるんだろう?」
「私、帝国に帰っても良いの?」
「なんだ、嫌なのか?コイツは、連れ帰るつもりでいるようだが?」
ぎゅうぎゅうと抱きしめたままのアーロンの頭をよしよしと撫でてあげるとようやく落ち着いてきたのか抱き締めていた腕を解いてくれた。
「……一緒に、帰りましょう」
「……はい」
ようやく言えた。
まだ、妃問題だとか許嫁問題だとかは有耶無耶になったままだけれど、もしアーロンに運命のお相手があらわれなければ許嫁候補くらいには考えてあげても良いかもしれない。ちょっと、今のアーロンって危ない気がする。なんだか、私のためならば戦争とかも平気で起こしてしそうな気がするもの。それだけは避けなくちゃね。
「……あの、そう言えば、ラインハルトとオリーブは?」
「オリーブ?あの小竜のことか?ラインハルトは農作業の手伝いだ。小竜は子どもたちの良い遊び相手になってくれているぞ」
……ラインハルト。ここに来ても働かされているのね。でも、農作業って楽しいわよ!虫……は、いるけれど、それは無視して作業に集中すれば良い気分になれるわ!
「なら、その二人……一人と一匹を呼んでくるから待ってろ」
疲れたように肩を落としながら部屋を出て行ったギルバート。あれ、それにここ、どこなのかしら。お城の部屋……じゃないわよね。
「あの、アーロン……ここって」
たずねながら顔を向ける私の髪に手を通しながら愛おしそうに目を細めて見つめてくるアーロンに何も言えなくなってしまった。あまりにも、その……アーロンの顔が優しくて。
「焦り過ぎたのでしょうか……でも、私は今すぐにでも今の王と王妃を……退かせたいのですよ。私は、もう二度と大切な人を無くしたくないと思っていたのに……レンを無くすところでしたから……その再会の、キスをしたいのですが……」
「え」
「……その、あまりにも会えていなかったので……あなたが不足しているんです……」
ダメ、なんて言えなかった。
だって何か言葉を発するよりも先に唇を塞がれてしまったから。私の後頭部、そして背中に手をまわされて、ほぼ密着しながら何度も繰り返されるキスに、頭がぼんやりしてくる。『まだ、ダメですよ……会えていなかった分、補充しなくては、ね?』とちょっと意地悪気に言ってくるアーロンに私の中のドMも喜んでいるみたい。あぁ、良い……もっと、もっとそういう言葉で……私を責めて、もっと責めて意地悪してください……。
何度も、そして離れてはすぐにまた塞がれる口付けに熱い吐息をもらしながら久しぶりのアーロンとの熱い時間を共有したのだった。そして唇を重ねるだけでは物足りなかったのか、私の耳元や首筋といった場所にも唇を落としてくるアーロン……だったのだが。
「……レン……ギルバートに、何かされましたか?」
「ふぇ!?あ、えっと……」
「されたんですよね?……隠しても無駄ですよ。きちんと証拠が残されていますから」
証拠?キスとかされた証拠って?
「アイツ……やっぱりちょっとグサッと斬ってやるべきだったか……腕の一本や二本なんか無くても王の仕事は成り立つだろうし……」
「……物騒なことは言わないでください」
軽くぺしん、とアーロンの額を軽く叩いてやると途端に大人しくなったアーロンにふふっと笑みをこぼした。そんな私の様子を見ていたアーロンも安心したように笑い合ったのだった。
よし!これで帝国に帰れる……かな、帰れるよね!!
アーロンとも甘く過ごせたし、これからはバチバチといろいろな問題を解決していかないとね!!
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