四十六話 最近、俺様化することが多いですね
アーロン……やっと会えた!と思った。
もう会えないと思っていたから凄く嬉しかった。
でも、まるで私のことなんて見えていないかのように……あれ、なんで……なんで目も合わせずに帰っちゃうのよ……お願い、私を見てよ……アーロン……。
「……あれ」
目を開けると、そこはお世話になっているクレイン国の自分の部屋じゃない……この匂いは……消毒?城下の民家に来ちゃったのかしら。
よいしょ、と起き上がろうとしたが……起きれなかった。
あれ、前にもこんなことなかったかしら?あの時は、確かフランが背中から抱き着いて寝ていたんだったっけ。
でも、フランは確かクレイン国には来ていないはず。じゃあ、この腕は誰……?
ごそっと身動ぎをすると私の腰にまわされている腕の力が強まった気がした。え、まさか起きてる?
「あの、えっと……起き上がりたいんですけれど……」
「……久しぶりに会ったのに、ツレないんですね。もう少し一緒にゴロゴロ寝ていましょうよ」
あ。
この声は……。
「アーロン……」
「はい、私ですよ。……迎えに来るのが遅くなってしまい……というか、そもそも貴女を商品のように売買させていたなんて……すみませんでした」
背後から、私に腕をまわしながら謝罪の声を飛ばしてくる。そんなこと気にしなくて良いのに。むしろ会えて良かった。本当に会えないと思っていたから凄く嬉しいのに……アーロンは謝ることしか口にしてくれない。会えて良かったと思っているのは私だけなのかしら。
「謝ってもどうにもならないことは分かっているのですが……その、母上にも酷い扱いを受けたと耳にしましたので……本当に、申し訳ありませんでした……」
「……別に、私は……何ともありませんから……」
するりと腕が解かれると先に起き上がったアーロンに見下ろされる。その顔は今にも泣きだしてしまいそうな小さな男の子のようで……とても見ていられなかった。
「なぜ……そんな顔をしているのですか?」
「え」
「レンは……今にも、泣きそうな顔をしていますよ?」
それはアーロンの方です。
アーロンの方が、情けない顔をしているじゃないですか。いつもニコニコしているのに……そんな顔、アーロンらしくないです。
「ひ、久しぶりに……会えて……う、嬉しいんです。正直、また会えるかわからないって思っていたので……」
ぷいっとすっぽを向くと目をぎゅっと閉じて流れてきそうになる涙を堪えた。
「レン……私もですよ。見つかって良かった。こういう言い方はあなたに失礼かもしれませんが、売られた先がこの国で良かったです」
ぐしぐしっと目元を袖口で拭くと私も起き上がって同じ目線でアーロンを見つめた。
「……それって、ギルバートと……その、お知り合いだったから、ですか?」
「このクレイン国に来て分かったかと思うのですが、ギルバートは国民に優しいですから。だから例え帝国から売られたあなたであったとしても一度信頼を築いてしまえば虐げられるような目には遭わないと思っていましたよ」
あぁ、ギルバートが自国愛が凄いってアーロンは知っていたのですね。それに、やけに親しそうでしたし……喧嘩をするほど。マジで剣を向けてしまうほど仲が良さそうでしたね……。
「でも……さっきのは、ヤり過ぎだったと思います。ギルバートはこの国の王様なんですよ?ギルバートがいなくなったら悲しむのは国民たちです」
「もちろん本気で斬るつもりはありませんでしたよ。……反省は、していますが……」
そう言うと私の頬に片手を添えてくるアーロン。凄い真剣な眼差しで見つめてくるものだから目を逸らすことができない。見慣れたはずのアーロンの目なのに、久しぶりに会うせいかしら。凄くドキドキする。……あれ、ドキドキ?
「ギルバートには話を付けてあります。一緒に、帝国に帰りませんか?……そして、王妃として隣に座っていただきたい」
「え?」
「今回、母上は……あの人は、踏み越えてはならない線を越えたのです。それ相応の罰を受けるべきだ。そのためにも、あなたが必要になります。すぐに王妃として過ごさなくても構いません。ただ形だけで。ですが、将来は私と……家族になっていただけませんか?」
帝国に、帰る?え、でも、私……売られてここにいるのよね。そんな簡単に帰られるものなの?
それに、王妃って……確かに、高飛車王妃様は近衛の方たちにばかり酷いことをさせて自分の手を汚そうとはしなかった。それは確かにイライラする。でも、私が……?王妃に?
それは……。
「あの……私は、王妃にならなければいけないのでしょうか?」
「私とレンがいれば、今の王と王妃をその座から退かせることができます。なので、レンの力を貸していただきたい」
こんなワケの分からない人間を王妃に?国のトップの隣に並んでいいものなの?だって、本当に人間なのかどうかも分からないのよ。ギルバートに誘われたときだって自分は王妃になるべき人間じゃないって自分に言い聞かせていたじゃない。アーロンに誘われたら『はい』って受け入れるつもり?違うわよね。
「私は……」
「ダメ、でしょうか」
「コイツに、頼んでも無駄だぞ。それになんだお前……その気持ちの悪い口調は。素で話せ、素で」
途端に第三者の声が聞こえたものだから、びくっと肩を上下させて驚いてしまった。恐る恐る声が聞こえた方向に顔を向けるとやっぱりギルバートがドアの付近に立っていた。
「コイツは何かしろと言ってもそう従うようなヤツじゃないから無理やり従わせろ」
「ちょ、なんでそういう言い方しかできないんですか!?私だって……たぶん、この国に来てから結構役に立っていたと思いますけれど」
「ああ。確かに畑でギャーギャー騒いでいたのは滑稽だった」
「ちょ、ギルバート!」
もちろん話に乗っていけないアーロンはぽかんとするばかりで一体何があったんだ、と私を見ていた。
「確かに役に立つ。が、別にこの国に縛り付けなくても豊かにさせてくれるんだろう?『豊穣の女神』とやらは。だったらこの国だけでなく、世界をなんとかしてみろ。貧困で苦しんでいるのはここだけじゃないんだからな」
「……世界……」
本当に……本当に私の力が、世界をどうにかさせることができるのならば……『王妃』とか『国』とか関係無いわよね。どこかに拠点みたいなものは必要になるかもしれないけれど、それは、ほら、生きていくための住居みたいなところ。現代でだって自宅にいながら世界と繋がって仕事ができる時代になっているじゃない!
それと同じように考えていければ……。
「あの、アーロン……」
「……そんなに、王妃の座が不満なのか……それとも、俺が不満か?」
あ。この言い方って……もしかして!
キッと鋭い眼差しを向けてくるのはもちろんアーロン。あ、俺様アーロン様だわ!苛立ちを隠そうともせず、マグマのような熱さを眼差しに含んだかのような熱さがあった。
「順番は逆になるが、お前が孕めば……次期王妃として、縛り付けることもできるんだぞ」
は、孕むって!ちょ、そんなこと考えてるの!?それ、王子様としてどうなのよ!!
「俺の隣に座ると言え!誓え!」
ガッと痛いぐらいに力強く私の二の腕を掴みながら詰め寄ってくるアーロンにさすがにヘルプを求めてちらりとギルバートを見るが、静かにこちらの様子を伺っているばかりだ。あ、ラインハルトは!?彼はどこに行っちゃったのよ!?
「他の男を見るな!お前は俺だけを見ていろ!」
「あっ……い、いた……痛いです、っ……アーロン……」
苦痛をもらしてもキツく掴んでくる手を緩めてくれる気配が無い。アーロン?どうしちゃったのよ!そりゃあ、俺様態度で命令してくる言葉をバシバシ向けてくるのは私の中のドMには最高の刺激になっちゃっているのだけれど、アーロンらしくないじゃない。
あら。あららら、どうしちゃったんでしょうねぇ、アーロン。おほほ!素直に王妃になろうとしない主人公にモヤモヤしまくってくださいな、王子様!(ドSか)
かなり変わったタイトルのようで(苦笑)え、怪しい内容なの!?と思わないでいただきたい!怪しいのは主に主人公の妄想なので!(汗)ちょっと変わった主人公があっちこっちフラフラしながらその秘めた力を発揮していく物語だとでも思って楽しんでいただけると嬉しいです!
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