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四十四話 苛立つ『風』

 さすが魔物のトップ。

 そのドラゴンが巻き起こす風は建物を、そしてこの国には欠かせない作物たちも壊そうとしていた。


 何があったか分からないけれど、大人しくしなさいよ!!

 急に風を巻き起こしはじめたドラゴン。この子、絶対にオリーブよね……。

 でも、そんなことよりも……国中は大混乱。小さな子どもたちはドラゴンという存在にも恐れていたけれど、急な突風にあちこちから悲鳴が上がる。そして、脆くなっていた建物の破片があちこちに吹っ飛んでいっては落ちてくるので非常に頭が危ない。女性も男性も大人も子どもも関係無しに一秒でも早くこの脅威が去ることを祈っていた。

 オリーブを大人しくさせないと!このままじゃ、この国が……この国民の大切なものが壊れてしまう。


「離して、お願い離してください!あの子を……ドラゴンを止めないと!この国が危ないんです!」


「でも、お嬢さんはここにいた方が……」


「ギルバートが言ったからですか……私は、あの子を大人しくさせることができます!だから、お願い!道を開けてください!」


 それに下手をすればギルバートがその腰元にある剣を抜いてしまうかもしれない。魔物は脅威だと、国に害をなすものには制裁を!と立ち向かっていくかもしれない。それだけは何としてでも止めないといけないのよ!


「レンお姉ちゃん……本当に、大丈夫なの?」


「大丈夫よ!この私に任せておきなさい!」


 すると、国民たちは固まって避難していたが人一人ぐらいなら通れるスペースを作ってくれた。これなら行けるわね!


「ありがとう!みんな!」


 スタスタ……と歩いている余裕は無くて、バタバタと走って行った。少しでも早く、あそこにたどり着くために。


「おい!コイツをどうにかさせろ!このままだとこの国が滅ぶぞ!」


「くっ……一体どうしたというんです!?オリーブ落ち着いてください!」


 ラインハルトもアーロンにもオリーブの声は届いていないのね。落ち着かせる術を知らないみたいだし、ギルバートなんて……ほら言わんこっちゃない!剣を抜いているじゃない!


「だめぇえええーっ!!!」


 真っ先に抱き着いたのは剣を抜いているギルバートの腕。


「「レン!!」」


 ラインハルトとアーロンの声がハモって私の耳に届く。でも、それよりもギルバート……あなた剣なんて手にして何をしようとしていたの!?


「ギルバート!お願い!剣は向けないで!あの子は、本当に大人しい子なの!そんなもの向けられたら逆効果になっちゃうわ!」


「バカか!今のコイツが大人しく言うことを聞くと思うか!今の国を見てみろ!コイツのせいで国が壊されているんだぞ!」


 突風は止まない。お腹の底にまで響き渡るドラゴンの鳴き声はとても痛々しい。何処からともなく建物の一部が風によって舞い、近くに落ちてきた。あれがもし頭部に当たっていたら……ぞわっと背筋が震えて嫌な汗が伝うのが分かった。


「……止めるわ」


 ラインハルトもアーロンも、大人しくさせられないなら連れて来ないでほしかった。会えたのは嬉しかったけれど……でも、国民に被害が出たら……誰か傷付いたらどうするのよ!

 そっとギルバートから手を離すと近寄ってこようとしているアーロンに『そこで待っていて』と手で制した。

 暴風に髪を乱されながらも地面に足を付けているドラゴン……オリーブの下へ歩み寄った。そっと大きな体に手を添えて、額を押し付け……とにかく願った。私の想いが通じるように。


「オリーブ……私だよ、レンだよ。また会えて嬉しい……だから、風を止めて……また、前みたいに小さくなって、抱っこさせてよ。……こんなに大きいままじゃ、私オリーブのこと抱き締めることもできないわ」


『……れ、ん……?れん、レン!』


 一度、大きく鳴いたかと思ってぎゅっと目を瞑ってしまったけれど、その間に風は止み、オリーブもあの時のように眩しい光を発してゆっくりと時間をかけて、その大きな体を小さなモノへと変えていった。地面に足を付けていたはずのオリーブは小さくなって私の腕の中に見事に収まることができたのだ。


「オリーブ……ダメじゃない。暴れたらお仕置きしちゃうわよ……ふふっ……」


 私の腕の中で『キュウキュウ』とそれはそれは可愛らしい鳴き声を上げているオリーブを見てホッとした。ほんと、さっきまで暴風をつくっていたドラゴンとは思えないわよね。

 そう思いながら踵を返してギルバートたちのいる所へ戻ろうとすると背後から大きな腕に包まれた。び、びっくりした……。あれ、でも、この腕は……。


「……ギルバート?」


「アホか。……何とも無いのか?」


 えっと、いろいろとびっくりした。あちこちと人の目がある前で抱き締めてくるなんて……一瞬、アーロンかなと思ったから。まさかのギルバートに驚いてしまう。


「見て分からないの?何とも無いでしょう?」


 傷も無し、体に変なところも無し。

 ふふっと小さく笑って応えると小さく溜め息を吐かれながら腕を解かれた。


「……さっきの話。コイツのことか。コイツは、帝国が売っていたものだったから俺が買ったんだが……文句はあるか?」


 言いながらその大きな手を私の頭にポンと置いてくるギルバート。……その手の置き方は背が縮む可能性があるのでやめていただきたい。私がじろっと見上げると私が言おうとしていることが伝わったのか、次にはポンポンと頭を叩いてきた。ムカッ!

 そしてアーロンを睨み付けてはバカにするように笑ってみせた。


「……それは……事実なのでしょうね。ですが、それは一部の悪者が企てたもので」


「一部だろうがなんだろうが、アンタの国の者がしたことだ。王子だか何だか知らないが……アンタ、自分の国にいる者がいつ何をしているか把握していないんだろう。だからこんな犯罪が終わらないんだ。アンタ売られたヤツの顔を見たことはあるか?生気を失い、死ぬことしか考えられないヤツの顔を真正面から見たことはあるのか?」


「おい。いくらなんでも言い過ぎではないのか。殿下は必死になってここまで来たんだぞ」


「ははっ、だから何なんだ。遠路はるばるご苦労様……とでも言ってほしいのか?『伴侶探し』とか言ったか。アンタの伴侶になる女はここにはいない。だいたいコイツは俺の妃だ」


 ラインハルトとアーロンは驚愕し、私はぽかーんとするばかり。


「ちょ、なにを……!」


「魔物にも立ち向かう変わった女だが、今時の女はコイツぐらい強気な方が面白い。『豊穣の女神』がいると国が豊かになる?違うな。コイツのような女がいるから国が豊かになるんだ。アンタら、伝承だかおとぎ話だかに惑わされるのはやめたらどうだ?」


 ギルバート……えっと、いろいろたくさん言ってて全ては理解できなかったけれど良いこと言ってくれるじゃない!かなり見直しちゃったわ!


「ですが……レンは、私の許嫁に……」


「へぇ?そうだったのか。だが、所詮は許嫁。他の女でも見つけろ。王子様はモテるだろうからな。だが、コイツは渡さない……俺のモノだ」


 顔に影がかかると思ったときには、既にギルバートにキスをされてしまっていた。しかも、ラインハルトとアーロンに見せつけるように堂々と。私は腕の中にオリーブを抱えているので体はフリーズするばかり。


「ちょ、ぎる……っ!」


「うるさい。あの王子を黙らせるチャンスだろうが……少し、付き合え」


 そう耳元で囁いてくるギルバート。見え方によっては首筋にキスを落とされているようにも見え……って、首!首がなんか痛い痛いっ!!!


「ちょ、痛いったら!何してるのよ!!」


 いい加減、私が苦痛を訴えるとあっさりとギルバートは距離を取ってくれた。『悪い悪い』と軽く謝ってくるが、全然悪いと思っていないところが腹立つわね。


「……レン……本当に、この国の……?」


 顔を伏せて顔に影を落としながら(その様子を隣で見ているラインハルトはぎょっとしていた)ぶつぶつと呟きつつ怖いぐらいの声音で問いかけてくるアーロン。仕方ないから応える私。


「……か、買われたのは事実です。それに今までお世話になっていたのも事実です」


「……そう、ですか……なら、この男を殺せば……また『俺』のところに戻ってくるか……」


 はい?

 あ、今『俺』って言った?あの俺様アーロン様が降臨した!?って何がきっかけで!?

 アーロンの変化に目をぱちくりしている間に、アーロンは腰元から剣を抜き、ギルバートに向けてその刃を向けていた。

 は!?


「ちょ、ちょ!アーロン!?」


 剣を向けられているギルバートは何もせず、ただ立ってアーロンを見据えていた。冷たい瞳で。アーロンなんて、帝国の人間になんて剣を向ける価値も無いと言わんばかりに。

 え、まさかの俺様アーロン様降臨!?と思っていればギルのピンチ!!!

 取り敢えずオリーブは大人しくなってくれたけれどドラゴンなんかよりも恐ろしい人がいるじゃない!!!(汗)


 ギルとアーロン……仲悪そうだなぁ……あ、例え同じ国にいたとしても、っていう意味ですよ!(汗)


 いろいろとドンパチが絶えない作品ですが、温かく見守っていただけますと幸いです。良ければ『ブックマーク』や『評価』などもしていただけると嬉しいです!そして全ての読者様に愛と感謝を、作品を書くことでお届けします!!

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