四十二話 私は妃になるべき人間じゃない
ピチピチの十代。
そんな私、ピンチです。
なんとギルバートからプロポーズをされてしまいました!!!
ど、どど、どうしよう……!
「心に決めてヤツがいると言ったな……何処のどいつだ、それは」
「え、あの……」
完全にギルバートは『怒』!
座っていた椅子は勢いよく立ち上がった拍子にゴトリと横に倒れているのも気にせずに私にズカズカと歩み寄って……いや、詰め寄ってくる。私だって座ったまま待機している……なんて無理だから、慌てて壁際に逃げるわよ!
「帝国にいたんだったか。……帝国の貴族にでも将来を約束されていた、か?」
ヒィィ!
ち、近い!でも、低音ボイスが響いて、なんとも言えない気分になる!私に怒っているんじゃないんだとは思うのだけれど、その声色は怒り度マックス!っていう感じで背筋がゾクゾクしてしまう。あぁ、こういう声で罵倒されたら、きっと最高の気持ちになるのでしょうね!!
壁を背にしながら身を竦めていると私の顔の横にギルバートの手が置かれた。
通称『壁ドン』の完成である。
でもね!『壁ドン』ってされると結構、怖いのよ!高い人を目の前にして圧迫感があるっていうか、見下ろされている感も強いし、何よりお互いの顔が近い!!息がかかりそうになってしまうからまともに落ち着いて呼吸もできなくなっちゃうわよ!
「お前を売り払ったヤツは廃村の近くでお前を見つけたと言っていたが……本当は違うのではないか?帝国の……城の中で優雅に暮らしていた、か?」
片手は未だに『壁ドン』状態をキープしているけれど、もう片方の手で私の顎をくいっと持ち上げられて無理やりに顔を上げられると目線を合わせることに。マジ切れ……してない?こ、怖いのだけれど……。黒い瞳は真剣……今にも私は視線だけで殺されるんじゃないかってぐらいの圧!いい、その視線の強さ、最高よ!でも、今は命のピンチかもしれない!!
「答えられない、か?帝国……確か、貴族……今は確か無能な王が治めているんだったか……おおかた、そこの王子にでも求婚されたか?」
あ、当たらずとも遠からずと言うか……に、似たような感じなのかも……?そもそも許嫁ってどういう立ち位置になるのかしら。でも許嫁になったとしても必ずしもその人と結婚できるとは限らないわよね。突然、運命のお相手があらわれる可能性だってゼロではないのだし。そうすると……許嫁って、何でもない状態と変わらないのかしら。あ、でもまだ正式に許嫁になることをOKしてもいないんだったっけ。……え、っていうことは私って今は『フリー』ってことと変わらない?
「きゅ、求婚なんてされていないわよ!」
「なら、何ならされたんだ」
うっ……い、許嫁候補ってどういう感じなのかしら。えっと、あくまでそれは帝国で過ごして、もしもアーロンにこれから先も運命のお相手とやらが見つからなかった場合、候補として考えてあげなくもないって話はしたけれど……な、なんて答えるのが正解なのかしら。
「べ、別に……なにも……」
「は?なら、俺の妃になれ」
うわ。はっきり言った!ちょ、聞きました!?ギルバートって言いたいことはなんでもストレートに言い過ぎよ!さっきまでは『妃にならないか』ってちょっと柔らかく言っていたのに、今はもう『妃になれ』ずばっ!!!と言ってきたわよ。
なによ、この自信は!
「む、無理……です」
「なぜ?」
「わ、私は……こ、この世界をあちこち見て回りたいと考えていて……」
そう。この世界にいるであろう、超ドS様を探すために!
「あちこち?世界は魔物だらけなのに、か?お前なんてすぐに食われて殺されるぞ」
「!わ、分からないじゃない!この前だって魔物を退けたのは私なんだから!」
さすがに魔物の群れにでもこられたら……そりゃあ危ないかもしれないけれど。
って、これじゃあいつまでたってもこの状況から逃げられないじゃない!
「はぁー……やはり無理やりにでも妃になってもらうか?」
「無理やりにって……どうやって?」
「抱く」
はぁあああ!?いや、嫌よ!あ、ギルバートは確かにちょっと冷たい印象を抱く男性かもしれないけれど、そんな無理にいろいろされるなんて無理よ!むしろそんなことされたら大嫌いになるんだから!
「……そ、そんなことしたら……ギルバートのこと嫌いになります」
「俺のことは嫌われても構わない。お前がこの国で、民たちと幸せに過ごしてくれればそれで良い」
ぐっ……ちょっと、ちょっとだけ傾きかけたじゃない。自分のことよりも国民たちを大切にするなんて。良い王様……。そういうところは素敵よ!だけれど、私は別にお妃様になって国のトップのところに立ちたいわけじゃないのよ。
ドS様、超ドS様を探したいの!
「俺のことはどうでも良い。……だから、妃になってくれ……レン」
あ。
見つめてくるギルバートの目の真剣みが増した気がした。すると決して食べられそうな、勢いのあるものではなく、優しく重ねるように私の唇にキスをしてきた。それは、何度も繰り返されるものではなくて一度触れてすぐに顔を離してしまったものだけれど相変わらず見つめてくる瞳は大マジだった。
「……今すぐ、答えを出してくれとは言わない……が、考えてくれ。前向きに」
長いギルバートの指先が先ほどキスをしてきた私の唇をなぞり、呟く。とても小さく、消えそうな声だったけれど、私の耳元で『愛しているんだ』と呟かれた声にゾクゾクしてしまった。罵られたわけじゃない。罵倒されたわけでもないのに、ゾクゾクするなんて……私の頭、ショートしてしまったのかしら。
ぷるぷると小さく震えている私の体をそっと抱き締めてくれる大きな体。とても頼りがいがあって、国民たちからもとても慕われていて、それで……最初は私なんかをモノ扱いしていたくせに、愛しているだなんて言ってくるなんて……ずるいわよ。私、このままこのクレイン国にいなきゃいけないのかしら。帝国に戻りたいとかって意味ではなくて、世界を旅してまわることはできないのかしら。私が求める超ドS様は!?神様が言っていたじゃない。その人は一体どこに行ったら会えるのよ。
私は、よく分からない能力を持っているみたいだし。だけれど、どんなことができるのかはっきり分からないことだらけだし……ちょっと、疲れてきちゃったわ。……ちょっとだけ……ちょっとだけ、彼に甘えてみようかしら。これ、浮気?浮気になるのかしら?でも、アーロンの許嫁には……なっていないし……でも、これって私の本心?
ギルバートの背に手をまわしかけたものの、ハッと我に返って手をだらりと下げてしまった。
「……私、やっぱり……その……お妃様には……」
「俺が不満か?いや、この国の妃になるのが嫌か?」
「不満とかそういうことじゃなくて……」
どう言えば、どう説明すれば分かってくれるんだろう。私はこの世界の人間じゃなくて、しかも普通の人間じゃない設定をされているっぽいし。……世界平和……それは、本当にあったら良いなと思う。人間だけじゃなくて、魔物も人間を襲わなくて良い世界になったらどんなにいいか。
「ギルバートは、なんでお妃様が必要なの?」
「は?」
「だってそばにいるなら今のままの関係だって良くない?」
「……妃にすれば、他のヤツに捕られる心配が無くなるだろう」
何を当たり前なことを、とギルバートの顔に書いてあった。え、そういうもの?そういう理由で妃にしたかったってこと?妃にすれば自分のモノ!って決定事項みたいなところがあるのかしら。だって現代でも結婚していたって不倫だとか浮気だとかで別れる場合もあるじゃない。そういう考え方ってこの世界じゃないのかしら?
だめね。世界の知識もそうだけれど、考え方とかも分かっていないみたい。こんなんじゃ妃になったって迷惑を掛けるだけだわ。それに妃になる考えは……無いし。
しばらくギルバートの腕に抱き締められていたけれど、やっぱり妃にはならない方が良い。自分みたいな人間は妃にならない方が良いわ……と、ずっと考えていた。
ファンタジー系だと、やっぱり妃だとか許嫁とかって立場が出てくるかもしれませんが、そういうのって改めて考えてみると難しい……。あ、もちろん好きな同士だったら全然構わないと思いますけれどね!でも主人公は誰かが好きだとか、そういう感じじゃないので(汗)
う~ん……なかなか甘い雰囲気にも流されない主人公。取り扱いが難しい!!
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