四十一話 クレイン国の妃に誘われてしまった……それ、プロポーズ!?
そう言えば……私がこのクレイン国にやってきてから、国民と接する時間(主に農作業とか食事を一緒にごちそうになっている)は、そこそこにあると思っているのだけれど、誰も私のことを『豊穣の女神』って呼ばないのよね。
もしかして、知らない……とか?
今日も今日とて民家にお招きされて食事をいただいている。お城には給仕なんていないし、当然、あんなお城で食事の用意なんてまともにできないものね。決して派手な食事ではないけれど、野菜がたっぷりで体に良い食事!っていうものをいただいている。
でも、そのなかで不思議に思っていることが一つ。
私が『豊穣の女神』ってことを誰も口にしないということ。もしかしてそういうことは知らない?でも、アーロンの話では昔から伝えられている話っぽいし、子ども向けにアレンジされている作品もあるのだとか。そうなると、単にそういった話が出回っていないとか、そもそも知らないという話になるのかしら?
「『豊穣の女神』?あぁ、その話なら聞いたことぐらいはあるさね。でも、あくまで伝説なんだろう?この国にいる奴らはそんな伝説めいた話なんて信じちゃいないよ~」
あら。
食事をごちそうになっている民家のおばさんに恐る恐る聞いてみたら、あっさりと伝説っていうことで済ませられてしまった。でも、私、銀髪……ですよ?珍しくないんですか?
食後のお茶(ここら辺では紅茶ではなく、どっちかと言うと日本茶にかなり近いもの。『豆花茶』って呼ばれているみたい。紅茶みたいな嗜好品は高いしこの国にはなかなか輸入されていないみたい。)をいただきながらなんとなくその話題を出してみるけれど『そう言えばお嬢さんも珍しい髪色をしているねぇ。滅多にいないよ、そんな綺麗な髪』と言われてしまうだけ。
「そんな話をしても無駄だぞ。『豊穣の女神』は物語の話だと思われている。特にこの国内だとな。他国から逃れてきた民たちも現実に絶望している奴らがほとんどだから今更そんな伝説を信じようだなんてバカはいない」
ほとんどお城には寝て過ごしているぐらい。もともとは立派なお城だったでしょうに……そして今住んでいるのはギルバートと私だけなんて寂しいわよね。
『今日もごちそうさまでした!』と民家のおばさんに挨拶すると『また明日ね!』と親戚のおばさんみたいな対応をされてしまった。実際、食事やお風呂は民家に頼っている。私が今着ている服はギルバートが何処からか持ってきてくれるのだけれど、きっと民家でいらない服をもらってきているのかもしれない。
なんていうか、大きな家族っていう国がする。それはそれは大家族になってしまうかもしれないけれど、誰もがギルバートを信頼し、ギルバートも同じく国民のために毎日働いて過ごしている。なんか、良いわね。こういうの。
「……でも、ギルバートは……信じてみようと思ってくれたのよね?」
「世界に神がいるか?祈れば何でも叶えてくれる存在がいるか?……最近、帝国が騒がしいからよく話を聞いていたんだ。そうしたら本当にお前がいたから最後に信じてみようと思った。……お前のことはよく分からん。だが、魔物は退くし、雨も降るし……信じたくなるだろう」
本当のところは分からなかったけれど最後の綱ってヤツで買い取ったってわけね。そうしたらいろいろと不思議なものを目にしていくから嫌でも信じざるを得なくなったってことなのかしら。
「だいたい話には救世主として語られているだけで、何をしたとか何をおこなったとかなんて書かれていないものがほとんどだろう。お前は読んだり聞いたことは無いのか?」
「……人から聞かされるまで知らなかったのよ」
「自分のことだろうが」
そ、そう言われましても私そもそもこの世界の住人じゃなかったので……気が付いたら夜盗に囚われていて……って流れだったのよね。
そうか……もし、そんな本があれば一度目を通してみるのも良いかもしれないわね。
それにしても……ちらりとギルバートの顔色を伺えば『なんだ』と低音ボイスで問われるが、随分と丸っこくなってしまったというか……初めて会ったときのようなトゲトゲしさのようなものがだいぶ和らいでくるように感じた。魔物を退けたから?雨が降ったから?それとも……国民に害がないと、信頼してくれているのかしら。
「……別に」
あ。そう言えば!忘れるところだったわ。
「雨が降る前に国の近くまで来た魔物がいたでしょう?彼……性別はどっちか分からないのだけれど、子どもが殺されたって言ってたわ。……その、ギルバート……何か知っている?」
「……お前は野菜も食べるし、肉も食べるだろう?この国内だけだと食用の肉を調達することが難しいんだ。時には、魔物を殺し、その肉をいただくこともある」
「あ……そういうのは難しい問題よね……人間も魔物も生きていかなくちゃいけないし……」
そっか。食べ物問題も大きな問題ね。食事ができることを当たり前だなんて考えたことは無かったけれど、それでも魔物の肉……もしかしたら今日食べて来た食事にも含まれているのかもしれないのよね。
「……そういうことは止めろ、とは言わないんだな」
「え、どうして?」
「あの時……魔物を退けた時。……魔物のことも気遣っているようなことを言っていただろう?」
そう、だったかしら。私は、ただ、ここで暴れたら国の人も危ないし、あの魔物だってきっと無事では済まないと思ったからだ。食事のこともそう。生きていくためには何かの犠牲が必要になる。だからこそ感謝の心を持たないといけないのよね。
「それは、そうだけれど……出来れば、魔物とも共存できればいいのにね……」
「本気で言っているのか」
「もちろん。冗談でこんなこと言わないでしょう、普通」
「……おい、レン」
「はい?」
あら、珍しい。ギルバートから名前をちゃんと呼んでもらうなんて。もしかしたら明日は雪……って、この世界に雪ってものは降ったりするのかしら?できれば雨の方が作物的には嬉しいわね。
「……この国の、妃になる気はないか?」
「は?」
「お前がいれば、もしかしたら本当にこの国は豊かになるかもしれん。……実際、少しずつだが良くなってきているからな」
これって……まさか……ぷ、ぷぷ……プロポーズ!?
「え、あの、私は……」
「お前はいくら言っても大人しくしている気が無い。だったら一緒に働いてもらった方が助かる。あいにく俺のような人間と……と考えるような物好きな女はこの国にはいないからな」
「ま、待っ……」
「モノとして買い取られて気分は悪いかもしれない。……が、ここまで一緒に過ごしてきてお前はクレイン国の害にはならないと理解した。どうだ。……俺と一緒に、これから先もこの国を支えていかないか?」
ちょ、だから、待ってってば!私、私は!別に王様のお妃様になりたいからこの世界にやってきたわけじゃなくて、超ドS様に会いたくて来たんだってば!だからお妃様なんて夢には思わないのよ!……って、そんな話をしてもきっと通じないのよね。……でも、ギルバートの目は大マジだわ。ど、どうしよう……。
あ!断る理由。一つだけあるじゃない!
「わ、私には……こ、心に決めた人が……」
「誰だ……」
「へ?」
「誰だ、そいつは」
さっきまで柔らかそうだった雰囲気はどこへ!?途端に真っ黒黒オーラが噴き出しているんですけれど!!なんか、このまま魔物でも人でも殺しちゃいそうなんですけれど!!
『超ドS様』って言えないから、会いたい人が、会うべき人がいるって応えようとしたものの、その誰かを今にも殺しそうなギルバートが……あわわ、ど、どうしよう!?
まさかのマジもんのプロポーズを受けるはめに!!ギルバートって許嫁とかどうとか言う前に、結婚してくれ(現代風に言うなら)とか、妃になってくれ(この異世界風に言うなら)とかってドストレートに言いそうじゃない!?
え、女子的には待ってました的な流れになるの!?いえいえ!でも主人公の目的がぁぁぁぁ!!!
ドタバタが絶えない主人公の周りですが、良ければ見守っていただけると嬉しいです。『ブックマーク』や『評価』などもしていただけますと幸いです。そして全ての読者様に愛と感謝の意味を込めて作品を書かせていただきます!!




