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四十話 王様&女神様 畑パニック!

「大人しくできないなら城のことより、外に手伝いに行くぞ」


 そう言われてやってきたのは……え、これって……畑?よね。

 もしかして、ここって農業しているの!?

「おい。どうせ暇なんだろう。……城の掃除はしなくていい。大人しくできないなら外に手伝いに来い」


 外?

 確か、お城から見えていた景色は荒れているっていう印象だった。ちょっと前まで雨不足、そして地震も多いし、気を抜けば魔物もたびたび現れていたという話を聞いたものだからとても安心して暮らせる国っていう感じじゃないわね。でも、ここの国民たちは決していい暮らしをできているわけじゃないのに、全然不満そうな顔をしていない。誰一人として、ね。むしろ、ここに来て幸せです!なんて言う人が多くいるものだからびっくりしちゃった。


「……これは……畑、ですよね?」


「あー!この間のお姉ちゃん!今日はギルと一緒に手伝いに来たの?」


 明らかに畑……の光景が広がる一面を見ていると横(正確には下の方)から声をかけられたものだからしゃがんで目線を合わせればお城に魔物が出たことを知らせにきた子どもじゃないかしら。


「私は、レンっていうのよ。……ギルバートも畑で手伝いをしているの?」


 雨不足、という話だったが先日、やっと恵みの雨を受けたからか農作物たちは生き生きとしているように見られる。これは、サラダに出てくる野菜。それに、これって……小麦、よね。


「そうだよ!みんなと同じことをすることが仕事だってギルも手伝ってくれるんだ!」


 ……凄い自国愛ね。

 ラフな格好をしているのも農作業が楽だからかもしれない。まさか正装姿で畑にやってくるわけにはいかないものね。と言っている私だって身なりはすっかり畑作業に勤しんでいる一人の農家娘と化している。


「凄いのね……王様って、お城の仕事ばかりしているものだと思っていたわ」


「あ、ギルは特別なんだよ!……この国って、他から逃げてきた人たちが多いんだ……だから、この国が無いと飢え死にするか、魔物に殺されるか……どっちにしても僕たちが生きていられるのはギルがいるこの国があるからなんだ」


 うっ……いい話だわっ、思わず涙腺が緩みそうになるじゃない。私、この世界ではまだまだぴちぴちの十代かもしれないけれど中身はかなりのおば……年上のお姉さんなのだから、泣かせないでちょうだい。


「に、逃げてきた人たちって?他の国から追い出されちゃったの?」


「他国って税が高かったり、王様の支配が強くてまともに生きられないって人もいるんだって……だから逃げるんだって。外は魔物もいて危ないのに、それでも自分が生まれた国じゃなくて、ギルのいるこの国の方がずっとずっと幸せに暮らしていけるんだって」


「……そ、そう……ありがとう。少しずつだけれどこの国のこと分かってきた気がするわ」


「どういたしまして!」


「……おい。無駄話するな。手を動かせ」


 ビクッッッ


 いきなり背後から背筋がゾクゾクするような低い声が聞こえてきたものだから一瞬体が固まってしまった。もう、いるならいるって言ってくれたら良かったのに。


 それからは作物の育ちを良くするために雑草の後始末。それに、そろそろ食べ頃かな、という作物があれば片っ端から収穫。こっちに来てから土に触れるなんて滅多にないことだったけれど、こうして自分たちが食べているものをしっかりと見て、触れて……そして改めて感謝していくことって大切よね。


「私。ギルバートってもっと……なんて言うか、どっちかって言えば冷たい人なのかと思っていたけれど、とっても国民に愛されているし、あなたも国民のこと大切に考えているのね」


「自分の国の民のことを思わない王がいるのか?……あぁ、帝国はお前を売り払った国だから冷たかったんだろうな」


「そんなことないわよ!……みんな、親切にしてくれたし……」


「だが、平気な顔をしてお前を売ったのは事実だ。帝国には足を運んだことは無いが、なかには税で苦しんでいる民もいると聞く。……ある意味、お前は売られて良かったんじゃないか」


 そう言われると何も言えない。帝国にも貧しい暮らしをしている人たちがいた。だから私は城下町に出たときに暴言を吐かれる対象にもなっていたんだったっけ。でも……。


「私を売った人のことは詳しくは知らないけれど、それでも平気な顔はしていなかったわ。……離れる最後の最後まで、謝罪をし続けてくれた人だったもの。きっと……ワケがあったのよ」


「理由があれば民を売って生活して良いのか?……俺には、そんな国に住んでいるヤツらは信頼できない。お前は……少しは信頼しても良い人間かもしれないがな」


 ギルバート。あなたは……ううん、私も他国の情勢っていうことには詳しくはないけれど、あなただって帝国のことちゃんと見たことも行ったこともないのでしょう?だったら、そんな決めつけてほしくない。帝国にだって最悪な考えをしている人もいるけれど、優しい人だってちゃんといるもの……。


「ギルバート……」


「あ、レンお姉ちゃんの背中に虫ー!」


 む、虫ですって!?


「い、いやぁぁぁあああ!!む、虫!?無理無理無理!虫だけは無理なのぉー、いやぁぁああ!!ぎ、ぎ、ぎる……ギルバート、助けてぇええ!!」


 虫だけは無理。絶対に無理。小さいモノも大きいモノも。少しでも部屋に出ようものなら隣近所にヘルプを出すほどの虫嫌いなのだ、私は!!


「は、お、おい!」


「せ、せ、背中背中背中にいるのーっ!!!やだやだ、取って取ってーっ!!!」


 隣で作業をしていたギルバートに抱き着きながら一人悲鳴を上げている私。他には騒いでいる国民なんて誰もいない。『あの娘さん、魔物は平気なのに虫はダメなのか……』と不思議そうな顔をしている国民たちがいる。私に虫がいる、と言った少年は『あははは!』と無邪気に笑っているばかり。


「……落ち着け!取ってやるから!」


「うぅ~っ……もう、やだー……っ……」


「……魔物に身一つで立ち向かった女が、虫一つでこの有様か……」


 私の背中を軽く叩くことで虫を退かしてくれたらしいギルバート。ほんっっとに感謝しかないわ!


「あ、ありが……ありがと……」


 はぁー……これで虫に怯えなくて済むわね。私に再び安寧の時間がおとずれた……と思ったのだけれど。私は勢いのままにギルバートに抱き着いてしまったらしく、彼は畑に尻餅をついている。その上に私。


「ご、ごめ……!」


「なんだ、もう離れるのか?別に軽いお前ならいつでも乗ってくれて良いんだぞ?」


 慌てて距離を取ると『くくっ』と可笑しそうに笑っているギルバート。『誰が離れろと言った?俺の上で……俺を満足させてみろ』


 う、ううう、嘘でしょ、嘘でしょ!?

 そ、そそ、そんなことないない!今のは事故よ、事故!それなのに私の中に眠る超ドMは超ドSのギルバートに興奮していて……『今の声、俺以外には聞かせるなよ。……お前の髪も声も……俺のモノだ、レン』


 ヒィアァァァ!!!

 だ、だめよだめよ!た、た、確かにギルバートって俺様なところもあるけれど、ち、違うじゃない!凄い、いい王様じゃない!勝手に超ドSに想像させたらだめなのよ!!


「なんだ?……大騒ぎしたり、大人しくなったり……。だいたい虫が苦手でよくここに来たな」


 畑は、もちろん大自然。

 気を抜けば足元にはたくさんの虫さんたちが……ひぇっ!し、仕事とか作業に没頭していれば虫のことを気にせずにいられるのよ!でも一度意識しちゃうとダメなんだってば!


「た、食べ物には感謝しないと……うわぁ!……ちょ、こっち来ないで……ひぇっ……」


 しばらくの間、畑作業には身が入らず、意識してしまった虫たちとの格闘がはじまってしまった。子どもたちが調子に乗っていろいろな虫を私に見せてくるものだから、そのたびにギルバートの背に隠れたり、ギルバートの隣に避難したり……取り敢えず、国民のみんなは農作業もギルバートのことも大好きみたい。

 自分もどちらかと言えば虫はダメな方……でも、いろいろと菜園とかはやっています。虫はダメだなぁ……もう、背中とかがゾワゾワしてしまって(汗)今回、執筆中でもぞわぞわしていました。


 めちゃくちゃ良い王様っていうイメージが付いてきてもらえたでしょうか?ギル、冷たそうだけれどいい人!いい王様!ま、まさか、このギルに主人公がころりと……落ちるのか!?


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけますと幸いです。もちろん全ての読者様に愛と感謝をお届けしていますよ!!

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