三十六話 ギルバートの望み
痛い。
いつの間に気絶しちゃったのかしら。目が覚めたら覚めたで体中に感じる怠さのようなもので、起き上がるのも大変よ。
……簡素なベッドね。造りというか、部屋も掃除が行き届いていない感があるみたい。
ここは、どこなのかしら。
あ、サイドテーブルに水差しがある。喉が渇いていたから飲みたいわね。だいたい薬入りの紅茶を飲ませるなんて最悪だったわ。体があちこち怠いのもその薬の影響なのかしら?
水差しに伸ばす腕も重いったらありゃしない。
やっとのことで水差しを手にすると、コップに水を注ぎゆっくりと口元に運んだ。
「美味しい……水って、こんなに美味しかったのね」
「気が付いたか」
ビクッ
この声は。この冷たい声色は私を買った人!この俺様ドSの声は忘れていないわよ。
「……おかげさまで。ところで、ここって何処なの?」
「……ここは、クレイン国だ。この世界でも小さな方に部類されている国になる」
「クレイン国……。私はレンっていうの。あなたは?」
「……ギルバートだ。ギルバート・ウェイ。一応、この国の王をしている」
あ、王様だったの。従者とか、王様に仕えている人とかってイメージが浮かんでしまったけれど、王様……随分、若い王様なのね。ついついまじまじとギルバートの様子を眺めてしまった。
「いいか。この国に来たからには余計なことはするな。俺のそばにいろ。それだけで良い」
そう言う割にはとても冷たく感じる声色なのよね。
私が他人だから?よく分からない人だから警戒されているとかかしら?
「この国はどんな国なの?特徴とか……どんな国民がいるとか」
「お前に説明する必要があるか?」
あー……その俺様感は凄く素敵ね!でも、ちょっとぐらい説明してくれても良さそうなのに。
「……俺からも一つ良いか。『豊穣の女神』とやらは傷はたちまち完治してしまうのか?」
傷……そう言えば、お腹を刺されていたんだっけ!と腹部を確認してみると改めて自分の着ている恰好が随分変わってしまったように思う。えっと、一応女性モノだとは思うのだけれど、なんていうかとても質素って感じね。下手をすると城下町に住んでいたお嬢さんたちよりも質素なワンピースって感じじゃないかしら。
「あ、あぁ、傷のことね。私も不思議に思っているのだけれど、治ってしまうみたい。傷跡も無くなっているわ」
「傷跡は俺も確認した。が、本当に何事も無かったかのように無くなるんだな」
不気味、とでも思われてしまったかしら。
人間じゃない。まるで魔物のようだと思われてはいないかしら。
「悪いが、この国ではお前の世話係なんてものを用意する余裕が無い。むしろお前にお願いしたいほどに国の情勢は酷いんだ」
酷い?
そっと窓から外を伺い見てみると、災害でも遭ったのか土地は荒れているし、住居もボロボロ。よく見ればここだってボロボロじゃない。これが、人の住む国なの?
「ふん。今まで帝国にいたのだろう?さぞかし良い生活を過ごしてきたと思うが、ここに来たからには質素に暮らすことを覚えろ」
「ギルバートって言ったわよね。……あなたは、なぜ私を買ったの?いくら出したか知らないけれど決して安い買い物じゃなかったんでしょ?」
ギロリと冷たい眼差しを向けられた。
あら、素敵ね!そういう目で見てくる人ってあんまりいないから私の中のドMは喜んじゃうわよ。
「決まっている。この国の惨状をなんとかしたい。『豊穣の女神』は豊かにしてくれるのだろう?……だったら豊かにしてくれ」
「え、そうなの……でも、私、そんなこと言われてもどうしたら良いのか分からないのよね」
と言うと私の首を強い力で掴まれてしまった。
く、苦しいかも……。
「おい。なんだそれは。お前がいれば国がなんとかなると思ったから買い取ったんだぞ!」
尚もまだ私の首を大きな手で掴んでくるものだから、私はギブギブ!と相手の腕をバシバシ叩いて抵抗を試みた。
「細い首だな。このままお前の首をへし折るのは簡単そうだが、お前は国のために必要な存在だ。殺しはしない」
相変わらず冷たい『無』感情の声色で告げてくると首から手を離してくれた。一気に酸素が入ってきたものだからついゲホゲホと咳き込んでしまったけれど、そんな私の様子を見ても心配する言葉は一つも向かってこない。私には興味は無いのかしら。『豊穣の女神』としての私の力とやらにしか興味がないのかもしれない。
「最近は水不足で作物の育ちも悪い。まずは雨を降らせろ」
あ、雨を降らせろと言われてもどうするの?雨乞いをしろと?ど、どうやって?
「あまり役に立たないようなら……お前の体を使わせてもらうとするか?」
へ?と考えたときには私は今まで寝ていたベッドに強い力で押し倒されて押し付けられ、じっと黒い瞳で見つめられる。もしかして、体を使うって……そういうこと!?
「お前を抱くことでこの国が繁栄するのならいくらでも抱く。お前が嫌がろうと何をしようと縛り付けてでも抱く。……さぁ、早く雨を降らせろ」
「だ、だから!その方法が分からないのよ!私だって自分のことも全然分からないし……」
「んなわけがあるか。……人間は危機に陥ると不思議な力を出すものだろう?俺がお前に乱暴をすることでお前は秘められた力を発揮するんじゃないか」
そう言いながらなんと私のワンピースの襟に手をかけて、ビリビリと破きはじめていった。
「ちょ、や、やめ!」
「黙れ。……お前が力を発揮するまで、どんなことでもシてやる。お前に拒否権は無い。言ったろ?お前は俺のモノだと。お前は俺の言うことに従っていろ」
「や、やめて!!」
つい空いていた手で彼の頬をバチンと叩いてしまった。
叩いてしまった私も、しまった……と呆然としていたけれど、相手も一瞬目を丸くしてから『いい度胸だな』と口端を上げてニヤリと笑えば顔を落とし私の首筋に唇を落としてきた。ぞわぞわする感覚に体が強張る。チュッと音を立てて首筋や胸元に唇を落としていくと体が震えた。だってあちこちに唇が落とされているのよ!我慢していたって体が反応しちゃうじゃない!
「感度は、良さそうだな」
ぺろりと唇を舐めて至近距離から私の顔を覗き込んでくるギルバート。すると今度は私の顎を片手で固定し、叩かれないようにともう片方の手で私の両手首を押さえつけてしまった。そして、今度は私に有無を言わせないうちに唇同士を合わせてきたのだ。
「ん!んんー……っ、ゃ……め……っ、ん……」
「くくっ、やめない……やめて欲しかったら力を示せ」
ギルバートのキスは長くなるばかり。
苦しい。
酸素が欲しい。
ギルバートは慣れているのかいろいろな角度で口付けてくる。それに……ぬるりとしたモノを口内に感じた。まさか、これって!
「ゃ……ん、っ、ふ……ゃ、だ……」
深い深い大人のキスに吐息をもらしながら顔や体を捩って逃げようとする。こんなキス、アーロンにもされたことないのに。
体は正直なのかしら。熱いキスに頭はぼんやりとしてきて抵抗ができなくなる。
このまま、まずい展開まで進んじゃうのかしら……それは、さすがに、ダメよ……。
「んっ、はは……イイ顔をしている。女……まさか帝国では売りでもしていたか?その気にさせるイイ顔をする……」
信じられない。私が、売り!?そんなことするわけないでしょ!と言い返したいのに私が何度か呼吸をしてからすぐにまた口付けられる。まるで大きな獣に食べられてしまいそうな深い深いキスを。
「だ、め……っ、ん……おねが……や、め……っ……」
不意に口付けが終わると私は息も絶え絶え。でもギルバートはまだまだ余裕の顔をしている。それどころかまだシ足り無さそうな顔で獣のような顔で見つめてくるではないか。
「も、ゆる……して……ちから、使えるように、なる、から……」
「ふん。これぐらいのキスでへばったか?……力、扱えるようにしろ。出来なかったら分かるな?……お前を、犯す」
ゾワワワッ
い、いい……っ、やっぱりこのギルバートという人、いいわね!!!
超ドS具合は最高にイイわ!でも、ちょっと感情が『無』ってところが気になるのよね。
この国から出るためにも、私の力っていうのものきちんと使えるようにしないと。
でも、どうすれば良いのかしら。
空に向かってお願い、お祈りとかをする?つまり、雨乞いになるわけだけれど。雨が不足しているって話だったのよね……つまり、雨が降れば良いのよ。雨乞い……試してみないと。
大国よりも連れて行かれるならより状況が悪い小国の方かな、と思いました。
雨乞い、果たして成功するのでしょうか!?というかギルバートは力のためならすぐに手が出るようですね!!!俺様だー!
良ければ『ブックマーク』や『評価』などしていただけると幸いです。もちろん全ての読者様に愛と感謝を!!!