三十三話 イかれた王妃とドキドキお茶会
「え、母上と……お茶会、ですか?」
「えぇ。……その近衛の方から誘われてしまいまして」
ある日のこと、朝からあまり交流の無い王妃様の近衛だという隊士から声がかかった。それは王妃様が是非私とお茶会を催したいとのこと。もちろんアーロンたちは誘われていないらしい。私個人と話がしたいとか、なんとか。
……なにしろ初対面の時の印象が最悪だった王妃様。お茶会に行っても大丈夫なのかしら?
「おそらく、いや、絶対にあの母上のことですから、なにかしでかすつもりでしょうね」
息子のアーロンにここまではっきり言われていますが、それほどまでに信頼されていないのね王妃様。
「だいたい、今更レンとお茶会?何か企んでいるに決まっていますよ」
「あー……それは、確かに……」
あの高飛車王妃様。名をモニカ・ディラン。一応アーロン、フランのお母さんらしいのだけれど似てないわよね。あ、見た目の問題じゃなくて中身の問題よ。だいたい王妃様っていう地位にふさわしくないというか、ただ高いところから庶民たちを見下ろすことを楽しんでいるって感じがするのよね。特に仲良くなりたいとは思わない人だし……『オーッホッホッホ!私に跪きなさーい!ほぉらほら!女神?あなたみたいな小汚い小娘がなんだっていうの。何の力も無いじゃない。生意気な口を開くんじゃないわよ!』……う~ん、ドMの私としてはちょっと惹かれる部分は無いこともないのだけれど、人間性の問題として王妃様とは縁をつくりたくわないわね。
最初はもちろんお断りさせていただきます、と王妃様から命令されてやってきたであろう近衛の方につげていたのだけれど、これがまたしつこいったらありゃしない!何度断ってもまた時間を置いて、再び近衛の方が『王妃様がお呼びなのですが……』と誘いに。いやいや、何度も断ってるじゃないですか。王妃様の頭の中には拒否されるなんて考えが無いのかしら。
「……母上も、暇のようですね……」
息子に呆れられているお母さんって……。
でも、ここまで断りを続けているのに諦めない人なのね。それとも本当に私に用でもあるのかしら?
「……アーロン。このままじゃ、なんというか……近衛の方も可哀想に見えてきました」
「え。まさかお茶会に行くと、でも?」
「だって何度も行き来して……見ているこっちがいたたまれないですよ」
「まあ、それは確かに」
近衛の方は決して表情を変えることはしていないけれど、きっとお疲れだわ。それでも王妃様からのお言葉を忠実に伝えて、そしてお茶会に誘おうとしていて……なんて誠実なのかしら。あの王妃様には勿体無いわね。
仕方なく折れたのは私。
決して王妃様とのお茶会が楽しみだなんて気持ちはまったく無いわ。これ以上近衛の方を働かせるのが申し訳ないと思ったからよ。
「レン……その、くれぐれもお気をつけてください。オリーブも一緒に行けないみたいですし、騎士団の同行も禁じられているようなので」
「分かっていますよ。あ、王妃様ってどれぐらいの魔法を扱えるのですか?」
これは重要。
もしも、もの凄い魔法を使えるような人だったりしたらいつでも逃げられるようにしておかなければならないけれど……。
「母上の魔法ですか?ふっ、風の素質はありますが、大した実力はありませんよ」
あら、そうなの。
それを聞いたらなんだか安心したわ。それにアーロンが鼻で笑うほど。本当に大した魔法の素質は無いのかもしれない。
「とにかく。少しでも危ないと思ったら逃げて、もしくは大声を出してください。それが出来ないなら花瓶でも壺でも投げてとにかく暴れてください。物音で誰かが駆けつけてくると思うので」
それは、ちょっと花瓶や壺に申し訳ないわね。そうならないのが一番だけれど、とにかく物音を立てれば良いのね、うん。
「……そう遅くならないように、すぐに帰ってきます」
「えぇ、そうしてください。まったく……あの人は何を……」
ぶつぶつ呟いているアーロンに挨拶してから王妃様が待っているという庭園へ向かうことに。
庭園?
近衛の方が言うには綺麗な花が咲き誇っていて素敵な場所らしい。
実際に庭園に足を運ぶと色鮮やかな花が咲いていてとても綺麗だった。とてもじゃないけれどあの王妃様がお手入れしているんじゃないわよね。きっと専門の庭師か何かの人にお手入れさせているんじゃないかしら。そして王妃様はふんぞり返りながら美味しいお茶とお菓子でも食べているのよ、きっとね。
「あら、ようこそ。私の自慢の庭園へ」
先に席に着いていた王妃様が立ち上がって挨拶をしてくれた。仕方なく私もドレスの裾を持ち上げて挨拶を。
「……この度は、お誘いいただきありがとうございます」
「あら、そう言う割には最初は断り続けていたくせに。……来るならとっとと来なさいな。グズな女は好かれないわよ」
さっそく始まったよ、王妃様の言葉の嵐が。私のことを魔物だのなんだの言っていて騒ぎ立てていたくせに、そんな私とお茶会がしたいだなんて絶対におかしい。
「さあ、お座りなさいな。……素敵な場所でしょう?」
「失礼します。ええ、この場所はとても綺麗ですね。あなたがお手入れをしているのですか?」
「まさか。庭師にやらせているに決まっているじゃない。棘で手が傷付いたら大変でしょう?」
やっぱり。いや、絶対にそうだとは思いましたけれど、一応話のネタで聞いてみただけですよ。そうしたら案の定庭師がいるらしい。それに仕事をするなら手の傷なんて当たり前に付くじゃない。王妃様の手元を見ると全然汚れが見られない整った手をしている。でも、こういう綺麗過ぎる手って『何もしない手』って言うんですよ。
「さ、どうぞ。あなたのためにわざわざ用意させた紅茶よ」
「……ありがとうございます」
飲み物……一瞬、頭に浮かぶのは毒物混入。刃物で傷付かないのならば体内から……とかって考えてしまった。でも、紅茶の香りは、とても良い匂いがする。
「あら、そんなに警戒しないでちょうだい。別にあなたを殺すだなんて思っていないわよ」
ぎくっ
『殺す』の一言に体が強張るが、当の本人は優雅に紅茶を口に運んでいる。ごくごくと普通に飲んでいる。なら、中身は本当に普通の……紅茶?
「その、初対面の時のことを思うとどうしても……」
「あの時は失礼したわね。私も申し訳ないことをしたと思っているのよ?でも、あなたが『豊穣の女神』だと分かって、私は嬉しいのよ」
さすがにちょっと反省しているような言葉があって私に謝罪したかったのかな?と思っていたけれど、『嬉しい』?その言葉に気になってしまった。一体何が嬉しいんだろう……?
「嬉しい?」
私も紅茶を口にしながら王妃様の言動の内容を伺っていた。あ、うん。紅茶は普通に美味しいと思う。
「そうよ。『豊穣の女神』は傷付いてもすぐに完治する特別な体の持ち主。そんなあなたを形作る肉体はさぞかし他の者にも影響を与えるのではないかしら?例えば……そうね、あなたの血は。伝わる話に『豊穣の女神』の血を与えられた者には不老不死になるという物語もあるのよ。私はこのまま醜く老いたくはないの。そして死にたくもないの。いつまでも美しいまま、妃として過ごしたいのよ。……この気持ち、あなたには分からないわよね?あなたは憎らしいほどに美しいわ。その美しさ……私にも分けてくれないかしら」
は?血……ですって?
それに、この人、何かやっぱりおかしい!頭がイかれてる!
「そんなお話は聞いたことなん、て……っ……ぁ……」
「あら。ようやく効いてきたのかしら。もちろんあなたを殺すつもりなんて無いわよ。でも、あなたの血を……その肉を……少ーしだけ、いただきたいの。抵抗して暴れられたらお互い大変ですもの。あなたにも痺れ薬は効くようね。ちょっと多めに入れたけれど気分はどうかしら?」
「……ぅ……ぁ……っ……」
「あらあら、まともに言葉も話せないの?可哀想に。……お前たち!」
王妃様が合図を出した途端に庭園の裏に控えていたと思われる近衛たちが数人姿を現した。
やば、体が……声も、出ない……っ……。ビリビリ、いや、体の感覚がどんどん無くなっていって、とうとう椅子から転げ落ちてしまった。体を打ったはずなのに、その痛みもほとんど分からなくなっていて、でも聴覚だけはしっかりと働いているようで高笑いしている王妃様の声だけが庭園に響いていた。
「オホホホ!あまり長引かせると女神様もツラいでしょうから急いでちょうだい!別に殺すわけじゃないの。サクッと切って血を採取。肉片……は、いらないわね。血だけ採れるだけ採ってちょうだい!」
近衛たちは躊躇いながらも王妃様の命令に従うことしかできないみたい。腰元から剣、ナイフなどを手にすると私にゆっくりと近付いてくる。その目は怯えの色をしていた。王妃様の命令に逆らえばどうなるか私には分からない。でも、こんな非情なことに手を出すのは嫌だってことを目に宿していた。
「……っ……すみません、女神様……!」
一人の近衛が目から大粒の涙を零しながら謝罪すると、次の瞬間。私の腹部目掛けてナイフを突き刺したのだった……。
し、しし、主人公ピンチ!!!
おそらく主人公は、遅効性もしくはすぐには効果があらわれにくい痺れ薬を服用させられたらしく声を出すことも自分で動くこともままならないようです!
何が可哀想って、やっぱり近衛の方たちですよね……。この王妃様、どうやって罰を下してやろうかしら!!!
王妃様に怒りを抱いてくれた方、嬉しいです!え、もっとおやり!と考えた方、なかなかのS様ですな!!それもいいですね!!近衛が可哀想と考えた方、分かります!凄く分かります!!いろいろな感想を持っていただけると嬉しいです!そう!喜怒哀楽を持って作品をお楽しみください!
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