二十七話 アーロンがいない間にフランとティータイムを。
あぁ……貴重な染髪料がっ!!!
アーロンは素敵な金髪なのだから染める必要なんてないわよね!?
こういうものは必要な人にこそ使われるべきなのに!
「さて。雑務も終わったことですし……少し早いですが、先に入浴させていただきます。これは髪を洗うときのように使うのでしたね?」
「感覚としてはシャンプーで髪を洗うときと同じように使えば問題ないかと思いますよ」
大量に積まれていたはずの書類は、既にアーロンの手によって手続き済みとなった。は、早すぎでしょう!ちゃんと一枚一枚に目を通しているのかしら?でも、今まで書類にミスのようなものがあったという報告は受けたことが無さそうだし、こういう作業が元々得意なのかしら?
まだ夕食の時間まで余裕があるから、ということで早速アーロンはエマさんから貰った染髪料を試してみるみたい。今日!?早いのね!アーロン、ちゃんと染めることができるのかしら?初めて髪を染めるときって必ずといっていいほどに失敗してしまうものだものね。まあアーロンの頭のなかには失敗なんて言葉は辞書に無さそうだけれど。
「詳しいのですね?似たようなことを試したことがあるのですか?」
おっと、いけないいけない。
元いた世界ではばりばりに髪を染めたことがあった、なんて言えるはずもなくエマさんが同じようなことを言っていたのを思い出したからと言い足しておいた。
「一応、気を付けてくださいね」
「おや、そんなに心配なら一緒に入ってくださっても私は全然構わないのですが……っと、それではコレを持っていきます」
混浴!?まさかの混浴をすすめてくるのですか!?
そ、そういうのは今のところは……というか、別々で入りたいです!ただ……『脱げ、一緒に浸かれ。命令だ』とかってS様っぽく命令してくれるなら有りかもしれないけれども!今のアーロンから誘われてもそういう気にはなれないわね。
入浴に向かったアーロンを待つため、ソファーに座りながら同じくソファーの上でうとうとと眠そうにしているオリーブを起こさないように気を付けながら頭を撫でてあげた。
アーロンは入浴時間は長いのかしら?それともささっと洗って出てきちゃうような人なのかしら?
「アーロンはどんな髪色になって戻ってくるのかしらねぇ?楽しみね、オリーブ」
するとコンコンと扉をノックする音がしたため、本人でなく申し訳ないのだが私が声で応えると部屋にやってきたのはアーロンの弟で第二王子のフランだった。あら、今日は城下町には出かけていなかったみたい。
「あれぇ?兄上は~?」
「仕事も終わったので、早めですが入浴に行きましたよ」
「え、もう!?……早ー……相変わらずなんでもできるなぁ~……」
仕事済みとされている書類を見入っていくフランにそう言えば、と思っていたことを問いかけてみることにした。
「アーロンはそんなに仕事ができる人なのですか?まだ王子様という地位なのですよね?」
フランはまず最初にめんどうくさそうな顔をしてから、うんと頷き返してくれた。私の問い掛けに応えるのもめんどうくさいのかしら?
「レンも王様と王妃様……つまり、父上と母上に会ったでしょ~?あの二人がまともに仕事をしている姿って想像つくわけぇ~?」
失礼ながら、まったく想像つかないわ。
あの王様が仕事に向かう姿……無理ね。そして王妃様にこきつかわれている姿の方が想像しやすかったということは言わないでおこうかしら。
「無理無理~。あの二人に仕事なんてさせたらこの国なんて政治も経済もまわらなくなっちゃうって~。そんなことしたらこの国の人たちは生きていられなくなっちゃうよ~。……だから、さすがに見かねたんじゃない~?兄上って基本なんでもできる人だからさぁ。……ホント、同じ人間なのか怪しいって思っちゃうぐらいなんでもできるんだよねぇ。たまにはちゃんと休んで欲しいけれどー……まぁ、そういうわけにもいかないし~」
なんだか、あの両親から生まれたにしては凄いデキの良い王子様みたいね。
「レンは~、ちゃんと兄上に休憩を取らせているんでしょう~?羨ましい~。放って置いたらずーっと仕事タイム。終わるまでなら夜になったって仕事を続けちゃうような人だからさ、レンがいると休憩も入るし助かるんだよねぇ~」
「へ?あ、えっと……どういたし、まして?」
「うん。ありがとー」
するとフランは荷物のなかから紙製の箱を取り出した。なんだろう?見た目はお菓子屋さんとかで見かけるラッピング箱みたいにも見えるのだけれど。
「これ……えっとー……貰ったんだけれど、食べる~?」
「食べ物なのですか?」
「……ケーキ、みたいだけれど~……」
「ケーキ!食べたいです!」
あ。でもせっかくならアーロンがお風呂から上がったときに一緒に食べた方が良いかしら?フランはこの後は忙しいのかしら?どうせなら大人数で食べた方が楽しいじゃない!
「う~ん……結構、数あるみたいだからさ~……一つぐらいなら今食べても問題無いんじゃない~?食後のデザートとしても食べても良さそうだし~。今はおやつだよ~、おやつ~」
箱からひょいひょいっと私とフランも食べるのであろうパイのようなものを出してくれた。きちんと一人用のサイズにカットされている。しかもそんなに大きいサイズではないから胃への負担もそう大きくは無さそうね!
「じゃあ、紅茶を淹れるわ!フランは砂糖は?」
「砂糖はー……今日は、無しで~」
あら、珍しい。だいたいフランに紅茶を用意するときには砂糖も用意することが多いのだけれど今日は無糖なのね。まあ、パイもあるし甘さは補わなくてもいいって感じかしら。
ささっとアーロンの仕事部屋で紅茶の準備を手早く済ませれば温かな紅茶をフランと自分にも用意。
「これは、何の……パイなのでしょうか?」
「これはレモンパイ、みたいだよ~」
おお!レモンパイ!その名前を聞くだけでも美味しそうね!じゅる……あら、いけない。涎が出そうになっちゃったわ。
「いただきまーす!」
「……いただきま~す」
パクッ
一口サイズに切り分けたレモンパイを口に入れると程よい酸っぱさと甘さが口中に広がって、そしてパイ自体も美味しいから大変満足!!これ、もしかして売り物なのかしら、貰ったって言ってたわよね。凄い!
あ、でもフランはレモンパイの方にはまったく手を付けていないわ。さっきから、ずーっと紅茶ばかり口に運んでいる。実はレモンパイは苦手だったりするのかしら?
「フラン、とても美味しいですよ。……食べないのですか?」
「あ~……えっとー……取り敢えずレンの感想が聞きたいかも~。僕の分も食べて良いからさ~、感想聞かせてよ~」
ずいっとフランの分のレモンパイも私の目の前に向けられてしまう。サイズ的には食べられるサイズだとは思うけれど、せっかく持ってきたのに私ばかり食べて良いのかしら?
「でも……」
「いいから。……ほら、口開けて。食べて。そして感想言って」
あ、あら。
フランにしてはちょっと強引ね。そういうところ普段とのギャップがあって素敵だと思うわよ。『早く食べなよ。口開けないの?口開けて、ねじこまれたいわけ?ふふ、口の周り汚れちゃったね。舐めてあげようか?……どう?味は。ちゃんと言ってよ。うん、偉い偉い』……って、フランもこんなふうにSっぽくなることってあるのかしら!?ちょっと妄想しただけでドキドキしちゃったじゃないの!
「えっと、全体的な甘さは控え目でレモンの酸味が良いですね。紅茶とも合いますし、とても美味しいです!」
「ふ~ん。……まぁ、ありがとー」
アーロンが入浴している間に、私はフランとのティータイムを満喫してしまった。もちろんアーロンの分のレモンパイも残っているから安心してね。でも、こんな美味しいデザート……誰から貰ったのかしら?良ければ是非とも教えてもらいたいわね!
オリーブ?う~ん……さすがに砂糖とかいろいろ入っているし、食べさせるのは控えた方が良いかもしれない。ぽちゃぽちゃにさせるのも可哀想だし、変な病気になったりしたら大変だものね。
『めんどうくさ男』フランからの差し入れゲットです!
レモンパイ!美味しそう!!!個人的にはアップルパイが一番好きだったりするのですが、美味しいレモンパイがあればもちろん食してみたい!あ、自分で作っちゃうのも有りかもしれませんね!ちなみにレモン自体は好きなので、よく食べています(ぇ)
だんだんフランが何をして過ごしているのか予想がついてきたかと思われます。そしてアーロンの髪の仕上がりはどうなったのでしょうか!?楽しみですね!!
ちょっと変わったタイトルの作品ではありますが、良ければ『ブックマーク』や『評価』などしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様に愛と感謝を!!!