二十六話 珍しいアイテム、ゲット!!ちゃっちゃら~。
城下町でちょっとした騒ぎになってから私は自分から『城下町に行きたいです』とは言いにくくなってしまったわ。だって傷付けられたのに(私はすぐ治るから良いのだけれど一緒に同行してくれる人が傷だらけになるのは申し訳ないものね)平平凡凡とそんなこと言えないでしょう。
でも、見てまわりたいお店はたくさんあったのよね……せめて、髪が……この色でなければ……と思っていたところにお城へのお客人が。あれ、あの人って確か……。
「エマ?」
「相変わらず地味~な雑務に追われているんだねぇ、アーロン。……っと、王子様。今日は面白いモノが手に入ったからね。ちょっと寄らせてもらったんだよ」
手伝えることは無いものの、自室で引きこもってばかりいるはずもなく、なんとなくの習慣としてアーロンの仕事部屋にお邪魔させている私とオリーブ。特に何かするわけじゃないのだけれど、休憩時間になれば私はお茶の準備ぐらいはさせてもらっていた。オリーブもとても良い子で大人しく過ごしているし、アーロンの仕事の邪魔をすることもない。なんっって良い子なのかしら!
そんなとき、仕事部屋の扉がいきなり開いたかと思えば城下町の雑貨屋の店主。あのウェーブがかった金髪をなびかせた化粧美人のエマが小袋を片手にズカズカと室内に入ってきたの。え、え?えっと、城下町の人たちってこんなにフランクにお城に、それも王子様の仕事部屋に堂々と入ってこられるものだったかしら?城門付近の兵たちは?普通に招待してしまったのかしら?エマさん、何者!?
「あぁ、この間のお嬢さ~ん!騒ぎを止められずすまなかったねぇ……怪我は大丈夫だったのかい?」
もちろん私のことも覚えているらしく『お嬢さん』として気軽に話しかけてくれる。もちろん私の怪我は城に着くまでに完治してしまっていたようだったし、怪我をしていたラウルも大きな怪我になることはなく傷跡も目立っていないようで安心したわ。
「いえいえ、私は全然。というか、私だってすぐ分かるんですね?」
城下町に行っていたときには、なんというか素朴なワンピースで行っていたし、城の中では垂らしている長い髪は結い上げていたからすぐに見抜かれるとは思わなかった。もしかして凄い観察眼とか持っているのかしら!?
「もちろんだよぉ!だいたい店に来る客人の顔は一度見たら忘れないもんさ。ふむ……そういう小綺麗な恰好も可愛いと思うけれど、城下町で見た格好も可愛かったねぇ~」
「え、は?」
「エマ。レンが困っているではありませんか。彼女を口説くのは私の特権なのでエマの要件とやらを聞かせていただけますか?」
「あぁ、ごめんごめ~ん!……きっとコレはお嬢さんの役に立つと思うよ」
化粧美人さん、もといエマさんは私に華麗にウィンクをすると手にしていた小袋をソファーとセットに置かれているテーブルに置いた。気のせいか、なかから液体のような音がしたような気がするのだけれど。
「で、中身はなんです?レンの役に立つとは?」
「昔はよく衣類の着色に使っていた植物なんだけれどね。それを加工して布以外にも染色できるんじゃないかと思って。町のなかは右を見ても左を見ても金髪金髪金髪だろう~?私も見飽きてきちまってさぁ~。そこで、お嬢さんもその綺麗な髪でお困りのようだし……コレ、試してみないかい?あ、風呂に入るときに髪を洗うときと同じように使うんだよ。私が試してみたときには暗い茶髪ぐらいに染まったかねぇ。お嬢さんは綺麗な銀髪だし……黒髪に近い色が出るんじゃないかい?」
なんと!
この異世界に来て、髪の染色ができるなんて思わなかったわ!元の世界にいたときにはもちろん真っ黒だった私の髪。少しでも客受けをするために定期的に明るい茶髪に染めていたのよね。懐かしいわ!
「え、こんな液体でレンの銀髪が染まるのですか?」
アーロンが小袋の中身を確認してからテーブルの上に取り出していく。いくつかの小瓶に入っている見た目は透明な液体。透明な液体?本当に染まるのかしら?ちょっと信じがたいのだけれどエマさんも試してみたって言っていたわよね。
「もちろん風呂場に入って流しちまえばすぐに落ちちまうから一回使ったら、また染めたいときにはまた使う手間はかかるんだけれど……お嬢さんを城の中にずっといさせるなんて可哀想じゃないか~」
「まあ、特に用事も無いことですし……」
「なぁ~に言ってんだい。用が無くたって散歩でもしてみたら良いんだよ~。そうすれば町の奴らのことを知られる。そして味方になってくれる奴らが増える!ついでに買い物をするときにはおまけもしてもらえるようになる!良いことづくめじゃないか~」
私が囚われのお姫様のように扱われていると思っているのかしら?さほど遠からずかもしれないけれど不自由を感じたことはなかったし、お茶を淹れることだって楽しみの一つ。だから城下町に行くのは最低限でも良いかなと思っていたけれど……まさか、ここにきてこんな嬉しいアイテムをゲットできるなんて!
「これは……一度にどれぐらいの量を使うんです?体に悪い作用などは無いんですよね?」
アイテムも薬も用法用量をきちんと守らないとね。でも、やけにアーロンは心配そうに、皮膚に影響は?髪質には影響はないんですか?といくつも質問をエマさんに飛ばしている。そこまで心配するようなことなのかしら?『オホホ!お嬢さんの美しい髪は私が貰っていくよ!オホホホホ!』……はっ!いけないいけない。エマさんが悪い人買い……ならぬ髪買いに見えてしまったわ。
「王子様~。アンタ、そんなに心配性だったか~い?お嬢さんに試すのが怖いならまずは自分の髪で試してみれば良いじゃないか。そうすれば安全性を確かめられるだろう~?」
「なるほど」
って、アーロン!?ただでさえ多くはない貴重な染髪料なんですよ!その貴重な一回をアーロンも試してしまうのですか!?
「あ、アーロン!アーロンの金髪もとても素敵なのですから染めたりしなくても良いのではありませんか?それに金髪ばかりの国といっても人によって濃淡はそれぞれちょこっとずつ違うように見えますし、アーロンは明るい金髪でとても恰好良いですよ!」
『おやおや~』とニヤニヤしているエマさん。ち、違うんです!これはアーロンの髪を褒めた言葉に聞こえたかもしれませんが、少ない染髪料をアーロンに使わせたくないという私の考えなのです!
「エマが試したときには茶系になったとのことでしたね。一日であったとしても私の髪色が変われば印象も変わるのではありませんか?」
そりゃあガラリと変わるでしょうね。髪を染めるのってそういう理由があって(印象を変える意味)みんなやっているんですもの!元いた世界では今や黒だの金髪だのって言う時代じゃありませんからね!赤や青や緑だってあって色とりどりなんですから!
「あ。コレを気に入って在庫が増えるようになったら店にも並べるつもりだし、なんだったらお嬢さんたちには優遇して届けてあげようかい?」
「ふむ……取り敢えず試してから、ですね。レンもそれで構いませんか?」
「あ、はい……」
アーロン、試すの?試しちゃうの!?金髪王子様が……ど、どうなっちゃうのかしら。
「それじゃあね。あ、お嬢さん。またお店にも寄っておくれよ~。可愛いお嬢さんならいつでも大歓迎だからね」
ぽんぽんと私の肩を叩くと『それじゃ、またごひいきに~』と定食屋の店主辺りが使う挨拶を気持ち良く言い残して部屋を出て行った。わざわざ、コレを渡すためだけに来たのかしら?エマさん……めちゃくちゃ良い人じゃないの!
「さっそく今夜、私が試してみますので……あ。レンも一緒に入りますか?」
「ばっ……そんなことしませんから!どうぞ、アーロンは試して自分の新たな姿を楽しんできてください!」
数本置かれた染髪料と思われる小瓶を見ては本当に大丈夫かしら?と不安に思いつつ本日の紅茶を用意させてもらうのだった。もちろんこの紅茶はエマさんの店で購入したものよ。
主人公は『染髪料』をゲットした!たったら~!!
現代では当たり前のように使われている染髪料ですが、もしも異世界にもあったら……たぶん主人公の髪を心配して(髪質とか)アーロンは自分で試してみると思います。もしくは部下に犠牲になってもらって……。さて、王子様はどのように変わるのでしょうねぇ?楽しみです!
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