二十四話 災難、城下町トラブル!
私の紅茶は多くの人たちに満足してもらえているみたいね。休憩がてら紅茶を淹れてあげると美味しい美味しい!と喜んでくれる。もちろん嬉しいわ。でもちょっと厳しめなご意見も聞いてみたいところなのよね……『まずい、淹れ直せ』って言いながら紅茶カップを投げ付けてくるなんて最高だわ!あ、でも陶器は顔とかにぶつかったりしたら痛いわよね……。『飲み物ではないな。淹れ直せ』と言いつつ床に投げるなんてどうかしら!?素敵よね!!
って、あら?茶葉が残り少ないわね。そう言えばお城で食べる食品とか嗜好品とかってどう仕入れているのかしら?
「茶葉が無くなりそう?」
今日も今日とて仕事部屋にて書類の山(アーロン的にはたいした仕事量ではないとのこと)と向き合っているアーロンに紅茶の茶葉が残り少なくなってきていることを告げるとアーロンは『在庫確認がなっていませんね』と困ったように眉を下げた。
「そもそも食品とか嗜好品ってどのようにお城に仕入れているのですか?」
「基本的には業者が決まった日に届けてくれますよ。ただ、嗜好品となると個人個人で城下町に行って買いに行きます」
あ。
それは、もしかして城下町に行くチャンスじゃないかしら!もしかしたら城下町にまだ私が出会ったこともないような超ドS様がいるかもしれないじゃない!
「買いに行きたいです!」
「レン?妙に目がキラキラしているのが気になりますが。ふむ……ラウルを同行者につけましょう。彼女と一緒に必要なものも買って来ていただけますか?ラウルなら城下町にも詳しいので」
OKいただきましたー!
やった!やったわ!っと、さすがにオリーブは連れて行けないわよね。ちょっぴり残念だけれどアーロンの仕事部屋のソファーに座らせ『大人しくしているのよ?』と言い聞かせていた。その間、アーロンが微笑ましく私とオリーブのやり取りを眺めていたのは気のせいではなかったみたい。
城のなかでは、そこそこお嬢様風のドレスを着ているのだけれど、城下町に出るのであればあまり目立ちたくはないわね。ただでさえ私の髪や目の色は他にいないみたいだし。すると同行してくれるラウルは自分はお手伝いさん風のワンピース姿のままであったが私へ『下町で働く女性』風のワンピースを用意してくれた。そして少しでも髪の毛が隠れるようにと、ひとまず髪の毛を一つに結い上げ、スカーフのようなもので髪を覆い隠した。おお!これなら目立つのは目ぐらいだわ。これなら問題無さそうね!
「他にも不足していたものがありましたのでちょうど良かったです。レンは確か茶葉が必要なのでしたね?」
「はい。そう言えば最近多くの人たちに紅茶を淹れていたような気がします」
「そうでしたか。私も是非飲んでみたいです。よろしければ今度私にも淹れていただけますか?」
「もちろん!」
あ、こういうのってガールズトークになるのかしら。そうよね!城のなかではどうしても男性陣とばかり話すことが多くて(オリーブは性別どちらなのか未だによく分からないし)唯一自由に話せるといえばラウルぐらいなのだけれど、彼女だって騎士としての鍛錬も必要だからいつでも話せるというわけではないのよね。王妃様……とは、あまり仲良くなりたくないわ。うん。
そして久しぶりに城内の外へ出るとそれはそれは立派な城下町が広がっていた。もちろん国の周りには塀だったり門や砦といったものもある。それを通り、城下町へ入ってしばらくすると城へ着くという道のり。最初初めて来たときには馬で一気に城まで向かったんだったわ。城下町を落ち着いてみる暇も無かったのよね。
パッと見では、何屋さんなのか分からずそのたびにラウルに説明してもらっている。本当に彼女は城下町に詳しいみたい。ちょっと抜け出して軽食をとるなら、あの店が良いとかスイーツなら最近絶品のお店があるのだとか、完全なるガールズトーク。
そして活気があって良いわね。やっぱり国の城下町となると元気な市民も集まるのかしら?いえ、違うわね。きっと、良い市民たちがいるからこそ良い国が成り立つのよ。まあ、今の王制にはちょっと疑問だけれど。
「レン。ちょっとここで待っていてください。こちらで医療品を補充してきます」
この世界。異世界ならでは、となるかもしれないがやはり治療に使われるのは薬草であったり、ちょっと特別な力が込められている飲み物だったり薬品だったりしている。元の世界で言うところの『薬剤師』のような存在もこの世界にもいるらしいが、その数はとっても少ないみたい。やっぱり多くの知識も必要となるみたいで大変らしい。体に良い薬草に関する知識はもちろんのこと、時には毒物への対処も必要となることがあるらしくて毒の知識、と対処の知識も必要となるみたい。聞いているだけで頭がパンクしてきそうだわ。
次は嗜好品が揃う雑貨屋に向かうらしい。通称、何でも屋。大抵のものであればこの店を利用すれば買えるとのこと。在庫切れでない限り食べ物から装飾品まで揃ってしまうらしい。凄いわね!
「こちらです。すみませんが、紅茶の茶葉をいただけますか?」
「あ~ら、ラウルじゃない。今日は……あら、女の子連れだなんて珍しいのねぇ。あらあら~、そちらのお嬢さん。綺麗な宝石。さぞかし売れば高値で買い取ってくれそうねぇ~」
「店主。彼女は、レンです。まだここら辺には不慣れなのであなたの冗談もほどほどにしてあげてください」
緩くウェーブがかっている金髪にそこそこの化粧。そしてその化粧は嫌味ったらしくなく、その店主にとても似合っているものだったからグイッと顔を覗き込まれてきてもすぐに反応できなかった。
「ほ、宝石?」
「お嬢さんの目、よ~。綺麗ねぇ。あんまりここらじゃ見かけない顔だけれど……もしかしてワケありってヤツかい?」
「そんなところです。なので、からかうのもやめてあげてください」
一瞬、私の目、とられるの!?そして売られちゃうの!?と内心ヒヤヒヤしていたけれど気の強そうなキリッとした目にちょっとドキドキしてしまった。化粧がよく似合う美人さんだってこともあったかもしれない。
「は~いはい。紅茶だったわね。もちろん在庫あるわよ。いろいろな種類があるけれどお好みはあるかしら?」
あ。紅茶は淹れていたけれど味?とか種類とかは気にしていなかったのよね。みんなどんな紅茶が好みなのかしら?
「でしたら、一通りください。確か5,6種類ぐらいでしたよね。そう重くないので十分持って行けます」
「あら。最近はもう少し増えたのよ~。この近くに美味しいスイーツを扱う店があるでしょ?そのせいで合う紅茶が欲しい!ってお客にオーダーさせられちゃったから全部で10種類あるわね。まあラウルならそれぐらい持って帰れるのは間違いないわね~」
店主のお姉さんはご近所さんとも仲が良いらしく、最近はどうのこうの……といった話をしながらも紅茶の茶葉を用意してくれた。茶葉は乾燥しているものを缶に詰めてくれたみたい。
「そうそう、ラウルなら知ってるかしら~?最近、城に変わった女の子があらわれたらしいじゃないの」
「「変わった女の子?」」
ついラウルと私の声がハモる。
「そうよ~。なんでも『豊穣の女神』があらわれた~とかで城下町でも噂になってるのよね。でも、なかには良く思っていない人間もいるから城下町では気を付けなさいよ~?」
その店主の言葉はまるで私に直接言われているようで、ドキドキしながら聞いていた。もしかしたらこの店主はいろいろと見透かしているのではないかしら?
「もちろん歓迎ムードの人間たちも多いけれど、なかにはそうでないっていう非情な人間もいるのよ。だから、二人とも気を付けて帰りなさいよ」
「ご忠告、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
『また、どうぞ~』と店主の声を背中に受けつつ店を後にするとふぅと息を吐いた。するとラウルが『大丈夫ですか?』と横から心配そうに見てくる。もちろん大丈夫!と顔をラウルの方へ動かしたときだった。風が吹き、頭部を覆っていたスカーフが風に乗って飛んでいってしまったのだ。
た、大変!
急いでスカーフを拾わないと!とスカーフが飛んでいく方向へ足を向けるとあちこちから向けられる視線があった。それはもちろん城下町に住む人たちのもの。でも、その人たちの目には、怯えや恐れといったものが浮かんでいた。あの王妃様から向けられたときのような目があちこちから向けられたのだ。
「レン!そんなものは良いので早く帰りましょう!」
「は、はい……!」
「ヒィィ!不浄!不浄の象徴だーっ!!」
「なんでこんなところにいるんだ!?消えろ!去れ!」
『不浄』?『象徴』?それってもしかして私のことなの?別にそんな言葉で泣いたりする私じゃないけれど今はラウルという同行者もいるから心配をかけてしまう。
一括りにしたものの周りとは全然違う銀髪の私。誰一人として同じ髪色の者はいない。不気味に見られた?と小走りで城への道を向かっているときだった。
「……っ……いた」
「レン!?」
ガツンと何かが頭に当たったのだ。コロリと足元に転がるのは小石。それが頭にクリティカルヒットしてしまったようだ。ぬるり、と頬に伝う何か。何かなんて言わなくても分かるわね。これは、血で間違いないわ。
「この、無礼な!彼女に失礼だぞ!」
ラウルは慌てて私を背にしてくれるが、飛んでくる小石はしばらく止まらなかった。そのたびに『汚らしい』だとか『人間じゃないわ!』といった悲鳴混じりの声に私のなかのドMはゾクゾクと興奮していたけれど、今は帰る方が先ね。
「何が『豊穣の女神』だ!笑わせるな!貧困の差は広がるばかりじゃねぇか!」
「税金減らせ!金返せ!こっちはその日食うモンにも困ってんだぞ!」
え。
そんな……だって女神がいれば国は豊かになるんじゃなかったの?もしかして嘘だったのかしら。それとも豊かになるまでには時間がかかるのかしら?と考えるなかラウルに強く腕を引かれつつ城門前まで走ってきた。二人とも頭部からは血を流しているし、顔にもすれ傷が……と思っていたけれど私は血は止まり、すれ傷は無くなっていた。頬に流れている血はそのまま固まっている、という、とにかく二人とも凄い見た目で城へ帰ってきたものだから大騒ぎとなってしまったのだ……。
楽しい楽しい城下町へのお出掛け……のはずが、とんだ災難に。
もちろん一部の人たち(困窮者)からの暴言です。城下町ではほとんどの市民が普通に暮らしていけるだけの生活ができていますが、一部の者たちは高い税があるようです。
雑貨屋の女店主は決しておばさんではありません!お姉さんです!!そしてある意味情報に詳しいので主人公たちに助言をしていたようです。が、残念でしたね……。
何かがおかしい城下町。さて、どうなっていくのか!?興味、関心など抱いていただきましたら幸いです!これからも見守っていきたいという方『ブックマーク』や『評価』などもしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者のみなさんに愛と感謝を!!