百二話 同じ国民なら仲良くしたい
カトルをあのまま刺激していたら、まず撃たれていたわね。
それに、この世界にも拳銃なんてものもあったのね……それが不思議だったのだけれど。
「裏通りに、あんな歳若い少年がリーダーとして過ごしているだなんて知りませんでしたね……危ないところでした」
「背格好からして、まだ十代……でしょうね。それにしても……レン、もう少し大人しく出来ませんか?」
「え、私?」
裏通りにいる人たちを、まとめているのはカトルという名の少年だということは分かったわ。カトルを説得しないかぎり、裏通りにいる多くの人たちは裏通りでの生活を止めようとは考えないでしょうね。さて、カトルをどうやって説得していこうかしら……と考えていたところ、ラウルに注意を食らってしまった。アーロンも直接口には出さないようにはしているようだけれど、呆れた顔をして私のことを見ている。
「えーっと……そんなにマズいことでもしてしまったんでしょうか?」
「マズいというか、危ういというか……もう少し踏み込んでいたらレンを危険な目に遭わせてしまっていたかもしれませんから……」
カトルは、拳銃らしきモノも持っていたっぽかったものね。この世界に拳銃が存在するなんて思わなかったのだけれど、それをカトルぐらいの歳の子が自由自在に取り扱っていることにも驚きだった。裏通りって、いろいろと物騒なモノまで出回ってしまっている場所になるのかしら?
「ラウルの言う通りですよ。あのまま、あのカトルという少年を刺激していたら私たちの誰かに発砲していたかもしれませんし……」
「でも、声を掛けたことで、カトルがあそこの場のリーダーをしている子だってことは分かりましたよね?だったら、カトルを説得していくことが出来れば裏通りにいる多くの人たちも、危ない道から戻せるのではないでしょうか?」
「……まだ、そんなことを。だいたい少年がリーダーをしていることだけでも想定外ですよ。その上、あんな危険なモノまで持っているなんて……」
裏通りにいる人たちの多くは、みすぼらしい恰好をしている人が多そうだったし、それにその日暮らしがやっと。だけれど、そんな人たちの上にはカトルという歳若い少年がまとめ役として存在している。しかも、カトルの恰好は、どこからどう見ても裏通りにいるような感じの子じゃなかったわよね。確かに、粗暴とかは悪っぽい感じはしたけれど、それでもきちんとした身なりをしていたような気がするし、体だって健康そうな感じはしていたように思えた。
もしかしてカトルは裏通りの人たちをまとめているだけで、住んでいる場所は他にあるのかしら?もしかして、城下町の一角にある家とかで過ごしながら何か理由があって普段は悪さとかに手を出して裏通りの人たちと過ごしている……とか?でも、一体何のために?う~ん、分からないことだらけだわ。やっぱり、こういうのは本人から話を聞いてみるしかないのよ。だって、分からないままであれこれ勝手に想像だけしていて、あの子は悪い子だから近付いちゃダメよ!なんて失礼なことになっちゃうじゃない。もしかしたら、めちゃくちゃ良い子で、人のために活動しているかもしれないじゃない。
「……私は、やっぱりカトルとはゆっくり話してみたいと思います」
「ええ!?」
「レン。……あの少年から、警告を受けたでしょう?……この帝国に、悪意ある者がいるのは見過ごせませんが、それでもこれ以上あの少年へと踏み込んでいった場合、あなたの方が危険な目に遭う確率の方が高まるんですよ?」
私が意気込んでカトルと再び顔を合わせて話をしてみたい、と口にしていくもののラウルからは驚愕の声を上げられ、アーロンからは呆れを通り越して溜め息までも吐かれてしまった。二人の気持ちだって分からないことは無いわよ。これ以上、裏通りにいる人たちと関わりを持っていけば、もしかしたら危ない目に遭うかもしれない。さらに、身の危険にも晒されるかもしれない。それでも、こうして目に入れてしまったんだもの。今更、スルーすることなんて私には出来ないわ。
「それでも……だって、同じ国で過ごしている人たちなんですよ?同じ国民同士なのですから、少しは手を取り合うとか考えてみようとかは思いませんか?」
「それは……レンの考えることも分からないでもないですが……」
「私は正直、これ以上彼らに接していくことは止めた方が良いと思います」
ラウルも私の意見には少しばかり賛同しかけていたようだったみたいだけれど、アーロンからはズバリ!と即決されてしまった。これ以上、関わるな、ということらしい。でも、同じ帝国に住んでいる人たちのことなのよ!?それなのに、気にせずに過ごしていくことが本当に出来るの?
「それに、カトルだって初対面だったから警戒していたのかもしれませんし。二度、三度と顔を合わせていくようになれば落ち着いて話をしてくれるようになっていくのではないでしょうか?」
「う~ん……」
そうよ、きっとカトルは他の誰よりも警戒が強い子だったのよ。だからこそ、物騒なモノを手にしてここには来るな、って忠告をしてくれたんじゃないかしら。だって、その気になれば先ほど発砲していたっておかしくなかったわよね?でも、実際には一発も発砲されることなく、言葉だけのやり取りで私たちは仕方なく帰ってきてしまうことになってしまったけれど、あのままい続けていたとしたら……カトルは本当に発砲したのかしら?
「それに、カトルのあの恰好。……裏通りで過ごしている人とは少し違うような気もしたのですが……お二人はどう思われました?」
「!確かに。裏通りで貧しく過ごしているふうの感じでは無かったような気もしますが……」
「服なんて適当に窃盗でも何でもすれば手に入ってしまうかもしれませんが……まあ、貧困で苦しんでいるという感じではありませんでしたね。犯罪に手を染めているということはそれだけの体力や元気が有り余っているということですから、そこそこに元気ではあるのでしょうが……ただ、あのような子が城下町に住んでいるなんて話も聞いたこともありませんよ?」
「髪も、少し特徴がありましたよね。金髪に黒のメッシュが入っていて……なかなかに見られない髪色だったように思います。この世界では金髪しか生まれないとの話だったのですが、カトルのように一部分に他の色が入っているような人間って生まれることがあるのでしょうか?」
「……滅多には聞きませんね。例え、東方の血を持つ人間との混血であったとしてもカトルのように、あそこまで髪色にあらわれるような色が出るとは……珍しいと思います」
やっぱりカトルの髪色って珍しいのね。そもそも、他の色が混じった髪色があること自体が珍しいみたい。金髪しかいない国ならではだからこそ、って考えかしら。でも、カトルは自毛なのか分からないけれど、珍しい髪色をしていたわよね。
……もしかして、裏通りで過ごしているのはカトルの、あの見た目も関係している……ってことはないのかしら?金髪とも黒髪とも異なる髪色を持つ人間。他とは違うっていうことは、それだけで大勢の人たちからは疎外されてしまうものよね。だから、犯罪のようなモノに手を出すようになってしまったとか。他に行き場の無い人たちの集まりの場である裏通りのなかで過ごしていくうちにリーダー格のような存在になってしまって今に至る……んじゃないのかしら?
それにしても、カトルはずっと裏通りの奥にいるのかしら?もしかしたら、また声を掛けていけば顔ぐらいは出してくれるかもしれないけれど、何を話そうかしら?炊き出しをこれからも続けていけばいつかは顔を出してくれるようになる?ううん、カトルのあの口ぶりから察するとそんな感じにはならなさそうよね。困ったわ……。
「……せっかく同じ国の住民なんだもの。仲良くしていきたいわよ」
私の口から出た呟きには、ラウルもアーロンも苦笑いばかりを浮かべるばかりで、うん、とも、いいえ、とも言ってくれなかった。
同じ国民だものね。それに、出会ってしまったんだもの。出来ることなら仲良くしていきたいわよ。
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