百一話 リーダー格の少年
貧困層の人たちは、こちらに警戒しているらしくてなかなか顔を出せないらしい。
だったら、こっちから行けば!とも思うのだけれど、そもそもあまり治安が良いところではないから行くのも憚られているのだという……どうすべきかしら?
このまま広場で待っていたとしても貧困層の人たちが集まって来てくれる確率はかなり低そうよね……。城下町に家がある人たちでわいわいと笑いながら豚汁を口にしている姿を見ると、ついつい興味を持ってしまうかな?と思っていたのだけれど、それはそれは甘かったらしい。
貧困層の人たちというのは、とにかく他人に対しての警戒がめちゃくちゃ強いみたい。まるで、野良猫とかそんな感じかしら?でも、そのままでいちゃいけないってことも分かっているのよね?貧困層の人たちは、その日暮らしがやっとだ!と言っている人たちもいたようだし、現に、フェイのお父さんは体力も何もかも失ってしまったことで裏通りで亡くなってしまった。そんな人たちをこれ以上増やすわけにはいかないじゃない!
そう意気込んだ私は、思い切って裏通りの方に歩き出して行った。さすがに私一人を向かわせるわけにはいかなかったらしく、後からアーロンやラウルもついて来てくれたのだけれど、炊き出しの方は良かったのかしら?まあ、他にも兵士さんたちが手伝ってくれているし、配膳などには問題は無さそうで安心したわね。
「向こうから来られないなら、やっぱりこっちから声を掛けていくべきだと思うんです!だって、あっちもこっちもいつまでもあーだこーだ言っていたら何も解決していかないじゃないですか」
「そう、は言いますけれど……でも、レン。裏通りがどういった場所なのかはご存知なのですか?」
「えっと、治安が悪いってことぐらいしか聞いたことは無いのだけれど……」
「もちろん帝国内において治安が最も悪いのは裏通りの奥、になるでしょうね。でも、それだけではありません。人身売買も秘密裏におこなわれている場所でもありますし、若い子や女性たちを誘拐してきては男性たちのオモチャにされてしまって帰る場所も失い、途方に暮れてしまう人もいるようなのですよ」
そ、それほど酷い環境だったのね。
でも、なおのことそんな話を聞いたら黙っていられないじゃない!
「一人でも貧困層の人たちを救い、まっとうな仕事に就けさせていくことが出来ればいちいち悪さに手を出す必要も無くなるでしょう?そして、裏通りに起きる犯罪もどんどん少なくなっていくのではないでしょうか……さすがに、今日明日で解決出来るものだとは私でも思いませんけれど、それでも地道に活動を続けていけば帝国からは貧困に苦しむ人たちが消えるのも夢の話ではないと思います!」
私がそう断言していけば、ラウルもアーロンも目を丸くしてから、私に向かって優しく微笑みを浮かべてくれた。決して私の言うことには『無理だ』とか『無謀過ぎます!』なんて言葉は一つも向けられることは無かったわよ。
それにラウルもアーロンも帝国に住んでいる一人の人間なのだから、いつかは貧困で苦しんでいる人たちの対応をしたいと考えていたんじゃないかしら?今回は、私の方から炊き出しという形で貧困の人たちとも話が出来れば……とも考えていたのだけれど、その肝心な貧困層の人たちがなかなか広場に集まってくる様子が無いものだから困ってしまっているのよね。
裏通りの更に、奥……本当に、こんな場所に人って住んで暮らしているのかしら?環境は薄暗いし、きちんと日光が当たっているかどうかも怪しい場所。衛生面だって決して良いとは言えないでしょうね。そのなかで犯罪行為がおこなわれているのならば、決して見逃すことなんて出来ないわ!
「……身を潜めているのか、それらしい人間たちも見当たりませんね……」
気配を探っているらしいラウルは辺りを注意深く様子見……といった感じのようね。
「私たちが来てしまったからでしょうか。恐らく、部外者だと思われていると思われますが」
「……こういうときには、思い切って声を掛けていくのが一番よ!……すーっ……ここで暮らしている皆さん!今、広場で炊き出しをおこなっています!ホカホカ温かいスープを無料で食べることが出来ますよ!栄養が足りていない人が多いのでしょう?だったら是非、広場にやって来てみてください!」
私が声を『大』にして裏通りの奥に向かって声を張り上げていくものだからラウルもアーロンも慌てて私の口を押えようとしたものの、じっと静かに待っていれば薄暗い壁からひょこ、ひょこっとまた一人、また一人……と顔を出してくれる姿があった。どうやら、この人たちがこの裏通りの奥で暮らしている人たちに間違い無いわね。
「……炊き出し?」
「……炊き出しとか言ったって、毒でも入っているんじゃねえのか?」
「そうだ、そうだ。俺たちが国にはいらない人間だから一気に始末する気でいるんだろう!?」
さすがの私もカチンとしてきまったけれど、あいにくその程度の悪態で私の中のMは興奮することさえも無かった。
「毒の入っている炊き出しなんてすると思いますか!?現に今もなお、広場では多くの人たちが炊き出しを食べている最中です。あなたたちは警戒が強いのですよね?……うーん、でしたら、ここでリーダーっぽく過ごしている人はいないのでしょうか?権力が強い人みたいな方とかは」
「……リーダー……あちこちで上手いこと犯罪を積み重ねてきている凄腕のヤツならいるぜ。カトルのことだろ」
「……カトルさん?どのような方なのでしょうか?
「……なに、呼んだ?」
私たちが『カトル』という人物についてお話を伺っていれば、何処からともなく……それでも裏通りの奥からヌッと姿を現した……見た目は、まだまだ少年っぽい感じがしたけれど、彼がカトルなのだろうか?全体的にダボついたフード付きのパーカーを身に纏っているし、一見すれば裏通りの奥で生活しているようには見えないかもしれない。フードの隙間から見られる髪は金髪に僅かに黒いメッシュが入り混じった髪色をしていたようだった。もしかして、東方の血も含まれていたりするんだろうか?あれ、でも金髪と黒髪が入っている髪色だなんて珍しいわよね……。
でも、そのカトルらしき少年の表情は、酷く歪んでいて、周りは誰も信用しない、安易に周りを信用したヤツから死んでいく、と顔に書いてあるようだった。
「……あなたが、カトルさん?私は、レンといいます。少しお話良いですか?」
「はは、アンタ確かそこにいる王子様の許嫁だろ?こんなところにわざわざ来るなんて頭おかしいんじゃね?」
カトルは、私たちの立場とか身分とかもしっかり把握しているみたいだった。意外と博識だったりするのかしら?
「……この裏通りでの生活を続けていれば衛生的にも良くはありません。ですから、まずは広場にて炊き出しを食べに行きませんか?それに、ここでずっと暮らしていくことも難しいでしょう?城下町にはいろいろなお店があるのですから、まずはお手伝いから始めるとか、お城でお手伝いを始めるとかできちんとしたお仕事をしていきませんか?」
「はぁ?……あのさぁ、アンタが何を考えているかどうかはどうでも良いんだけれど。俺たちは、ずーっとここで暮らしてきてんの。それを今更、明るい陽の当たる場所で暮らせって?それって無理があんじゃねぇの?」
この、カトル……は、見た目以上に話が出来る。それこそ大人に向かって話をしているような感じさえ伝わってくる感じがしたけれど、時には嘲り、そして私たちにはバカにしたような笑いを浮かべていた。
「そんなことはありません!ここにいる人たちはその日暮らしがやっとだという人もいるのでしょう?だったら、まともな仕事に就いて、しっかりと休める所を確保して生活をしていかないと……それこそ、こんなところで命を落としていまうかもしれませんよ?」
「あぁ。別にそれでもいーんじゃね?ここらのヤツなんて、今日は生きていられるけれど、明日の命なんて分からないようなヤツばっかだし。それでも抗って犯罪に手を出してまで生きながらえようとしているんだぜ?……帰れよ。ここには、アンタらの存在を必要としているヤツらなんていねぇんだよ」
そう言いながらカトルは、パーカーのポケットから……あれは、拳銃!?を難なく取り出してまるでオモチャを扱うようにくるくると片手で回しながら、銃口を私たちに向けてきた。もちろんカトルの目は真剣で、このままここにいたら、まず撃たれてしまうだろう。仕方なく、私たちは裏通りから広場へと戻って来てしまうことになってしまった。
帰り際、ちらりと背後を振り返ってカトルの様子を伺っていたのだけれど、彼は私たちが早く去るのを待つかのようにじっと私たちの様子を眺めていたらしかった。その間、カトルと目が合うなんてことは無く、彼の視線は何処か遠くを眺めているような……そんな感じがした。
お!珍しく(?)ちょっと個性的なキャラクターが出てきましたね!カトル、ですか。基本は金髪の世界なのに、そこに黒のメッシュが入っているだなんて謎だらけの少年って感じがビシビシと伝わってきますね!!
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