百話 紫の女の子は何処?
フェイのお母さんは医師に診てもらっている。
そしてフェイは、今は私とアーロンと一緒にいるけれど、しばらくしたら母親と一緒に一度医師に診てもらう必要があるだろう。
「!よく食べられましたね!偉いですよ、フェイ!」
お椀の中身を見事に空にしてくれたことを確認した私は、偉い偉い!とフェイの頭をよしよしと撫でてあげた。すると、頭を撫でられる行為が恥ずかしかったのか、それとも自分よりも年上の女性に構ってもらったことが恥ずかしかったのかは分からなかったけれど、ほんの僅かに頬を赤らめつつ小さく『うん、頑張って食べた。……美味しかった……』と言ってくれたから豚汁考案者として、これ以上ないほどの嬉しい感想を言ってくれて嬉しかったわ。
「さて、フェイも一度お医者様に診てもらわないといけませんね。ずっと先ほどの場所で過ごしていたのでしょう?何処か体を悪くしていたらいけませんし……それに、何処も悪いところが無いと分かれば分かったで良いことですからね」
「あ、お母さんが……診てもらっているんだよね?」
「そうよ。だから、そのままお母さんと合流するって形になるのかしら?」
きっと母親の方は、しばらくは清潔な場所で安静にする必要があるだろうし、ゆっくりでも良いから栄養を付けていってもらわなければならなくなるだろうけれど、せっかく親子なんですものね。少しでも近いところにいられるのならその方が良いのかもしれないわ。
「アーロン、お母さんを診てもらっている医師というのは?」
「城の専属医になります。今は、ちょうど広場に来ているので……あぁ、あちらに簡易的な救護施設を構えていますね。そこで診てもらっている最中だと思いますよ」
「そうですか。なら、フェイも一度診てもらいましょう」
「……お姉ちゃんたちに、また、会える……?」
「!もちろんですよ。フェイが元気に過ごしていればいつでも会えますからね」
ちょっとしか一緒にいられなかったけれど、意外とフェイからは慕われてしまったんだろうか?それは、もちろん嬉しいけれど、これから離れ離れになっちゃうってことを考えてしまうとどうしても寂しくなっちゃう気持ちは抱いちゃうのよね。でも、元気でいてくれればいくらでも会う機会は訪れるのだからフェイや母親には毎日健康的な生活をしてもらわなければならない。
城下町にもお医者さんはいるけれど、そこでずっと寝泊まりさせることが難しいのであればお城の空いている部屋を使ってもらうっていう手もあるものね。
もちろん広場の一角に設けられた救護施設に向かう途中までもフェイの片手は私の片手と繋がれていた。だいぶ、懐いてもらったってことで……良いのかしら?あぁ、そうそう。フェイが探しているらしい紫の瞳を持つ女の子とやらも探していかなければならないわね。フェイをお医者様にお願いしたら、それらいし女の子探しをしてみるのも良いかもしれない。
炊き出し自体は、寸胴鍋で調理したこともあるので、まだまだ終わる気配は無いらしい。うんうん、多くの人たちで準備して作ったものだもの。そう簡単に食べ尽くされるほどの量は作っていないわよ!?
「……フェイと同い年ぐらいの女の子は、いなさそうですね……」
広場に来て、炊き出しを楽しんでいる城下町の市民たちに視線をぐるりと回していくものの、フェイと同い年ぐらいの女の子は……いないわね。フェイが言うには、しっかりと家があるところに住んでいるという話だったから城下町の市民の一人、だとは思うのだけれど、その一人を探すのってこんなにも難しいものなのね。
「それにしても紫色の瞳を持つ女の子、ですか……」
「?アーロン、何か気にかかることでも?」
「あ、いえ。なかなか紫色の瞳を持つ人というのも珍しいものですから。まったくいないというわけでは無いのですが、それでもなかなかに目にする機会が少ない色だったりしていますよ。そんな子がいれば、城下町であれば一気に噂などが広まってもおかしくはないと思うのですがね……」
確かに。
今回の炊き出しだって事前に開催します!と言いふらしていたわけではないけれど、広場であれこれ準備を始めていけば興味を示す城下町の市民たちは続々と顔を出してくれて、今ではすっかり同じ豚汁を抱えて食べてくれている。
もちろんそれとなく近くにいた市民に『紫色の瞳を持つ女の子って近くに住んでいたりしませんか?』と聞いてみたのだが、あいにく今のところは知らないという人ばかり。帝国に住んでいる子、なんだよね?もしくは一時的に帝国にやって来ていただけ、とも考えられそうだけれどフェイとは定期的に交流があったみたいだったから帝国に住んでいるのは可能性としては『大』なのよ。
城下町で困ったことがあれば、エマさんの出番ね!
エマさんも炊き出しの準備・配膳を手伝ってくれているらしい。そして、エマさんの顔は城下町のみんなからすれば誰もが知っている顔になるからより親近感を覚えて炊き出し?何それ?と興味を示していく人も多いみたいね。忙しくしているところ申し訳ないのだけれど、ここはフェイのためでもあるし……ちょっとだけ話を聞いてみることにしましょうか。
「エマさん、エマさん。少しだけよろしいでしょうか?」
「おや。お嬢さん。お疲れさん。……どうしたんだぃ?先ほどまでは裏通りの方にまで行っていたんだろう?……ちょっと、目に入れるには……痛々しいモノでも目にしちゃったんじゃないかい?」
「それは……まぁ、ありますが……他にもエマさんに聞きたいことがありまして」
「私に?」
おそらく城下町で住んでいる市民の一人だと思うのだが、紫の瞳を持つ金髪の女の子。まだ年齢的には小さい方だからあちこちで働いているようなことは無いだろうとは思うのだけれど、時には裏通りの方へ顔を出して、貧困層の人たちと交流を持っているようだ……と説明をしていけば、紫の瞳の女の子?と首を傾げられてしまった。
「そりゃあ珍しい色を持っている子だねぇ。でも、女の子か……私の知り合いにはいなさそうだけれど……一応、帝国に身を置いている子なんだろう?親は?」
「あー、親の話とか家が何処にあるかまでは聞けなかったんですが……」
「ふむ。まあ、店に頻繁に来る客から聞いていけば分かることもあるかもしれないからね。そのうち、お知らせすることが出来るかもしれないよ」
「!よろしくお願いします!」
ぺこぺことエマさんに頭を下げてお願いしていくと、こらこら王子様の許嫁が簡単に頭を下げるもんじゃないよ?と軽く嗜められてしまったが、これは立場とかは別に関係無く、お願いしていることなのだからいくらでも頭は下げたいと思えた。
「……なかなか、貧困層の方々は現れませんね……」
「アーロンも気になるかぃ?うーん、こちらが何かをしているのは分かっているとは思うんだけれど、なかなか、ね……あちらからすれば住む世界が違うって考えているヤツもいるものだから、なかなか足を運ぼうにも難しいものがあるんだと思うよ」
「!だったら、こちらから足を運べば良いのではありませんか?」
私が、名案だ!とばかりに案を出すもののエマさんにもアーロンにも苦笑いを浮かべられてしまった。
裏通りといっても、フェイたちが静かに過ごしているような場所もあるし、もっと奥まった場所に行けば行くほどに治安も悪くなっていくから、人攫いやら犯罪に巻き込まれたっておかしくは無いと言うのだ。
「だいたい、私の大切な人なのですからわざわざ危ない道には行かせられませんよ。それに、例え私と一緒だとしても、裏通りに行くのはちょっと……」
「……でも、そんなことを言っていたら、いつまでたっても貧困層の人たちのために、と用意した炊き出しが本来の役目を果たすことが出来なくなってしまいますよ?」
「う、うーん……お嬢さんの言うことも分からないでもないんだけれどねぇ……私も、裏の裏……奥の方までは把握しきれていないところが多いものだから易々と足を運ぶわけにもいかなくてねぇ」
それほどまでに治安が悪いんだろうか。同じ、帝国内なのに?
でも、そこにいるのは私たちと同じ人間なのだから、別に怖いってことは無いんじゃないかしら?確かに、治安とかを考えるとあまり踏み込んでいける場所では無いかもしれないけれど、それでもどちらかが一歩を踏み出していかないと始まらないわよね?
フェイの友人探しも難しいですし、なかなかに貧困層の人たちもすんなりと現れない様子……さて、困りましたね(苦笑)
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